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2019.12.10 07:09/ Jun

フィードバックは「憑依」で学び、「憑依」で研ぎ澄ます!?

「おれも、まだヤキが回っていないな。まだ老いぼれちゃいない。まだイケる」
  
「ちょっと、勘がにぶってきたかな。このままいけば、オワコン確定だな。本読もう」
  
  ・
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  ・
  
 仕事柄、学生や受講生がおつくりになる「多くのプレゼンテーション」を審査員などの立場で伺い、コメントやフィードバックを彼らに提供する機会に恵まれています。
 皆さんの知的アウトプットをうかがえるというのは、まことに光栄。僕にとって多くの学びが生まれる瞬間でもあります。
  
 しかし審査員などの立場で「コメントやフィードバックをする瞬間」というのは、心が1ミリも安まりません。むしろ発表のたびに、本当に疲労困憊します。
  
 なぜか?
  
 それは、受講生の発表の間も、発表のあとも「考えて、考えて、考えている」からです。
  
 何を「考えているか」?
  
 それは、審査員として自分に与えられた短い時間のなかで、学生や受講生の皆さんに「考えさせるひと言」をいかにつくりあげるのか、ということに尽きます。なぜなら、僕にはフィードバックを通して、発表やプレゼンテーションの方向性を「立て直す」役目があるからです。そのことだけを考えていると、本当に疲労困憊します。
  
 言いたいことをぶちまけるのが、フィードバックではありません
 相手をぐっと考えさせるのが、フィードバックです。
  
 そして、そのためには、常に、自分のフィードバックの精度を研ぎ澄ます必要があります。
 ひとつの短いセンテンスで、相手の発表の「脆弱な部分」「論理の綻び」を指摘し、そこからの立て直し、盛り返しを支援するようなフィードバックをいかにつくりあげるか・・・これが腕の見せ所なのです。
  
 それでは、このようなフィードバックを、どこで学び、どこで、その精度を維持していくのか。
 今日は、そのことについてお話ししましょう。
  
 ▼
  
 フィードバックを、どこで学び、どこで、その精度を維持していくのか?
  
  ・
  ・
  ・
  
 実は、この答えは、いずれも「フィードバックのなか」にあります。
 フィードバック能力を高めるには、自らを「フィードバック」のなかに置くことではないか、と僕は思うのです。
  
 まず、僕が、まだ駆け出しの頃、自分のフィードバック能力を高めるために、どんな工夫をしていたのか?
  
 それは、自分が尊敬する師や先輩の先生方が、何らかの発表やプレゼンテーションに対してフィードバックを行う場に、あえて自分の身を置き、彼らと同じように発表を聞き、
  
 「彼らだったら、この発表に、どのようなフィードバックを行うか?」
  
 を予想しつづけるということをしていました。
  
 端的にいえば
  
 「憑依型フィードバック学習モデル」
  
 です(笑)。
  
 自分が尊敬する師や先輩の先生方に「のりうつり」、この先生だったら、この発表を、どのように構造化し、どこに問題点を見いだして、そのことを何という言葉で「相手にわかりやすく伝えるか」・・・これを考え続けることが、まだ駆け出しの頃の僕にとっての「学びの場」でした。
  
 僕は、この世には、2種類の学生がいるように思います。
  
 他人の発表の際に、ハナクソをほじって、何も考えていない学生
  
 と
  
 他人の発表の際に、発表の問題点をしっかり考えている学生
  
 です。
  
 一歩踏み込むならば、他人の発表のときには、指導教員なら何を考え、どのように問題点を相手にわかりやすく指摘するかを考えていくと、なおよいのかもしれません。
  
 僕は、学生には
  
「他人の発表を聞くときには、プロフェッサーになりきれ」
  
 といっています。プロフェッサーならば、どのように考えるのか、どのようにフィードバックをするかを考え続ける学生が伸びます。
  
  ▼
  
 次に2つめの問い「フィードバックの精度をいかに維持していくか?」です。
 実は、これに関する答えも「フィードバックのなか」にあります。
  
 僕は、仕事柄、審査員などの立場で、フィードバックを行う多くの現場に居合わせることが多いと書きましたが、そこには、複数の審査員、フィードドバッカー(?)が立ち会うことが多いものです。実は、ここにこそ、僕の「学びの源泉」があります。
  
 つまり、自分と同じ審査員の立場のなかで、自分が尊敬できる方々が、この発表に対して、どのように問題を構造化し、どのように短い言葉で伝えるかを、徹底的に予想するのです。
  
 つまり、ここでも「憑依」です。
  
 今度は「他の審査員に憑依する(笑)」
   
 その予想が合致していて、自分自身が行うフィードバックと同じであったのなら、冒頭の言葉になります。
  
「おれも、まだヤキが回っていないな。まだ老いぼれちゃいない。まだイケる」
  
 その予想が大きく裏切られ、多くの他の審査員が自分と違うことを指摘していたとしたら、
  
「ちょっと、勘がにぶってきたかな。このままいけば、オワコン確定だな。本読もう」
  
 と思います。
  
 つまり、他人のフィードバックを「鏡」にしながら、自分のフィードバック精度を検査し、その質を何とか維持しようとしているのです。
  
 この世には、2種類の審査員がいるように僕には思えます。
  
 審査員という特権的立場にあぐらを書いて、自らは学ばない審査員
  
 と
  
 審査員という立場を、学びの機会だと考える審査員
  
 です。
  
 僕にとって、審査員という立場は「学びの機会」です。
 大人の学びは、必ずしも「学校」でなされるわけではありません。
 仕事の現場の、ちょっとした機会をとらえて、自分を振り返り、自分を立て直すことができるかどうか。たったそれだけのことなのです。
  
  ▼
  
 今日は、自分のフィードバック精度をいかに高めるか、というお話をしました。
  
 ぼくのフィードバック精度には、まだまだ課題がありますが、何とかかんとか、加齢にも負けず、「よきフィードバッカー」でありつづけたい、と願っています。
  
 最近、あなたのフィードバックは「精度」がおちていませんか?
 あなたのフィードバック、最近「ヤキ」が回っていませんか?
  
 嗚呼、自戒を込めて
 そして人生はつづく
  
 ーーー
     

  
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