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2019.9.9 08:52/ Jun

「本当は気づかなければならないひと」を「気づかせられない」のはなぜか?:「学びとは自ら気づかせることなんぢゃい!」という言葉の内部にある「絶望的なねじれ」とは何か?

「教える」のでなく「気づかせる」んぢゃい!
「伝える」のではなく、自ら「気づかせる」んぢゃい!
   
  ・
  ・
  ・
  
 人材開発の本をパラパラめくっておりますと、このような「聞こえのよい美辞麗句」が、並んでいます。
 自戒をこめて申しますが、この世は「気づき至上主義」といわんばかりの勢いです。「教えること」や「伝えること」よりも、「気づかせること」が大切であるとする言説が、社会にはあふれております。今日も、明日も、「気づかせること」はロマンチックに語られ、人々を魅了します。
  
 しかし「気づかせること」の重要性は深く自認しつつも、一方で「気づかせること」の「絶望的な難しさ」を、僕は「認識」せざるをえません。わかっちゃいるけど、難しい。その難しさに、思わず、ため息をつきたくなってしまうのです。
  
「気づかせること」の「絶望的な難しさ」とは「ねじれ」から生じています。
  
 その「ねじれ」の根源は「主体と意図のねじれ」です。
  
 ひとつひとつ確認していきましょう。
  
  ▼
  
 まず「気づかせる」の主語は、「気づく本人」ではなく、そうした状態を外部から「意図的」に促したい「第三者」ですね。ここで大切なのは「気づかせたい」のは「第三者」です。そして、それは「意図的な行為」であるということです。
  
 しかし「気づかせる」という「他動詞的な用語=第三者の意図を感じる言葉」の内部には、「自ら気づく」という「本人の自発的な行為」が内包されています。つまり「気づく」のは「本人」なのです。しかも気づくは「自発性=非意図的」に基づきます。
  
 ということになりますと、まとめるとこうなります。
  
 自ら「自発的」に「気づいちゃう」のは本人。
   
 しかし、
  
 それを「第三者」が「意図的」に仕掛けていって、あたかも「自発的に本人が気づいちゃう」ような状態をつくりだすのが「気づかせる」という行為です。
  
 えーい、ややこしい。
 
 つまり、気づかせるという言葉は、
  
「本人」と「第三者(他者)」
「自発性」と「意図性」
  
 の交差した場所にある用語です。
  
 だから「ねじれてる」。
 だから、難しい。
  
 よって・・・結果としてどうなるか・・・。
  
 本当に「気づいて欲しいひと」を「気づかせよう」と思っても、絶対に「気づかない」
 合掌。
 
  ▼
  
 わたしたちは、人事・人材開発・組織開発・リーダーシップ開発の領域で、すぐに「気づかせる」という用語を用います。しかし、簡単にいいますけどね・・・それは難しいんだよ。これは自戒をこめて申し上げます。
  
 気づかせるという言葉をきくたびに、はたまた無責任にも自分が口にせざるをえないとき、僕は、そこに内包されている「ねじれ」にため息をついてしまいます。そうであっても「気づかせた方がいいんだろうな」と思いつつ。
  
 ああ、僕も「ねじれてる」。
 そして人生はつづく
  
 ーーー
  
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