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2020.7.23 09:17/ Jun

事業部のトップが感じている「組織課題」の7割は「真の課題」ではない!? : 事業部人事の「組織開発」の付加価値とは何か?

 事業部のトップは、自分の組織の抱える「問題」を肌で感じています
   
 しかしながら、
  
 事業部のトップは、自分の組織が抱える「真の課題」が何かを、必ずしも知っているわけではありません
  
 事業部人事の仕事は、「真の組織課題」を事業部のトップとディスカッションしながら見いだすことです。
  
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  ・
  
「事業部人事の研究」・・・ダイヤモンドの小川敦行さん、永田正樹さんの助けを得ながら、何とかかんとか進んでいます(感謝)。
  
 ここで「事業部人事」とは
  
「特定の事業部の、事業成長や事業にまつわる課題解決のための仕事をしている割合が多い人事パーソン」
  
 のことをいいます。
  
 彼らは、人事部に籍をおいたり、ひとによっては、事業部に張り付いたりしながら、日々、事業部のさまざまな人事的仕事をこなし、貢献を行っています。
  
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 中原の新研究「事業部人事の研究」は、
  
「従来スポットライトがあたってこなかった、事業部人事の方々の役割や行動に焦点をあて、彼らが、いったいどのような行動を担えば、「事業成長」に寄与することができるのかを解明しようとする研究」
  
 です。
  
 事業部人事の研究は、下記の2つの内容から成立します。
  
1.事業部人事パーソンへの集中的ヒアリング(定性的研究)
  
2.事業部人事パーソンへの質問紙調査(定量的研究)
  
 上記2つの研究を通して、これまでブラックボックスとされてきた「事業部人事の方々の働き」を解明していくことが、プロジェクトの目的です。
  
 現在、研究は1に着手したところ。
 数名の人事責任者、人事パーソンにお話を伺っているところです(この研究には、たくさんのご協力のお申し出をいただきました。研究協力を賜りました人事パーソンの皆様に心より感謝いたします)。
  
  ▼
  
 さて冒頭述べました
  
 事業部のトップは、自分の組織の抱える「問題」を肌で感じています
  
 しかしながら、
  
 事業部のトップは、自分の組織が抱える「真の課題」が何かを、必ずしも知っているわけではありません
  
 事業部人事の仕事は、「真の組織課題」を事業部のトップとディスカッションしながら見いだすことです。
  
 とは、経験・見識ある、某社の事業部人事の長の方が、おっしゃっていたことをセンテンスにしたものです(ヒアリングへのご協力感謝いたします!)。
  
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  ・
  
 この方のつとめる事業部人事では、事業部のコマゴマとした労務問題から、果てには事業部全体の組織開発に至るまで、実に多種多様な課題に、事業部人事の皆さんがチャレンジなさっています(お疲れ様です!)。
  
 そして、事業部人事パーソンの皆さんが、事業部のトップの方々とやりとりをして、「事業部の組織開発」などをなさる場合があるとき、冒頭のセンテンスに表象される事態が起こります。
  
 端的に申し上げますと、
  
「事業部のトップは自組織の課題を必ずしも正しく認知できているわけではない。それゆえに、事業部人事パーソンが、なかば、組織内コンサルのようになりながら、彼らとディスカッションしながら課題解決を推進していかなければならない」
 
 ということです。
  
 事業部人事の長、曰く
  

「事業部のトップは、必ずしも自分の組織の課題がわかっているわけではないことが多いのです。切実な課題感はある。でも「真の課題」は、なかなか見えません。
  
まず、事業部のトップから、最初、「これがうちの組織の課題」だと課題が持ち込まれますよね。そのあと、彼らと、事業部人事がディスカッションしたり、分析します。
  
そうしますと、当初、事業部のトップが、課題だと持ち込んできた課題は、課題ではなくなってしまうケースが実に多いのです。
  
あれ?これが本当の課題だと思っていたけど、そうじゃなかった。本当は深刻な課題はこっちだったとわかるんです。
  
弊社の場合、事業部人事が組織開発を行って、事業部のトップと議論した場合、当初の課題から、解くべき課題が変わってしまう割合は「72%」程度です。つまり、7割−8割は、課題は変わってしまうのです」

  
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 非常に興味深い話です。
  
 事業部のトップが課題だと思っていたことのうち、それが真の課題として同定されるのは、おおよそ「3割程度」。
 そして、ここにこそ、事業部人事の方々が行うディスカッションや分析の付加価値があります。
  
 それは端的に申しますと、
  
 解くべき課題は何か?
  
 ということを事業部のトップとともに見いだしていくことでしょう。
 その精度の高い課題解決力こそが、大きな武器ということになりますでしょうか。
  
 組織のなかで
  
 大切なものは目に見えない
  
 のです。なかなかね・・・。
   
 
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 ちなみに・・・事業部のトップの方々のことも弁護しておきますと、彼らがなぜ自組織の課題が見えなくなるか、というと、それは彼らのせいではありません。彼らは、自組織としてハコのなかで、当事者として一生懸命働いているのです。ですので、見えなくなる。
  
 具体的には、
  
1)自分の組織ゆえに、思い入れがあり、思い込みがある
  
2)自分の組織ゆえに、ステークホルダーの利害にからめとられており、真の課題がうすうすわかっていても、口にだせない
  
3)自分の組織ゆえに、自分の存在自体も課題の一部を構成しており、自分の首が絞まってしまうことには、どうしてもバイアスがかかってしまう
(=別名、自組織のガンは、オレだった問題といいます)
  
 などの理由があるでしょう。
  
 多くの場合、彼らが敢えて組織を見ていないわけでも、怠惰であるわけでもないのです。
 
 彼らが「自組織が見えなくなる」のは「当事者」だからです。
   
「当事者」とは「パワフル」です。
   
 しかし、一方で、
  
「当事者」とは「漆黒の闇」も生み出すものです。
  
 自分以外のすべての人間には「見えている」けれども、自分だけが見えない「漆黒の闇」を。
  
  ▼
  
 今日は、はじまったばかりの「事業部人事の研究」についてのお話をさせていただきました。こちらの研究は、どのくらい時間がかかるかわかりませんが、中長期に専門書や論文などにまとめていきたいと考えています。
  
 短期的には、ダイヤモンドオンラインで特集記事が組まれたり、事業部人事の皆さんが集まるコミュニティ・勉強会らしきものを、ダイヤモンド社さんとともにつくっていきたいな、と考えております。

 事業部人事の人事パーソンの皆さんの日常、日々の苦闘に多くを学ばせていただきながら、僕にしかできない研究を生み出していきたいと願っております。
    
 そして人生はつづく
  
※来週「月曜日」までブログの更新を停止させていただきます。よきお休みを!
  
  ーーー
   
新刊「サーベイフィードバック入門ーデータと対話で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」が好評発売中です。AMAZON人事・マネジメントカテゴリー1位を記録しました。組織調査を用いながら、いかに組織を改善・変革していくのかを論じた本です。従業員調査、HRテック、エンゲージメント調査、教学IRなど、組織調査にかかわる多くの人事担当者、現場の管理職の皆様にお読みいただきたい一冊です!
  

  
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「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
   

  
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