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2018.6.25 05:47/ Jun

新刊「研修開発入門 ー 研修転移の理論と実践」のお知らせ!:あなたの研修は「研修室で学んで終わり」になっていませんか?現場で「実践」されていますか?

 新刊「研修開発入門 ー 研修転移の理論と実践」(中原淳・島村公俊・鈴木英智佳・関根雅泰)のお知らせです! このたびダイヤモンド社から「研修開発入門 – 研修転移の理論と実践」が、新たに刊行されました。
   
 僕にとって本書は「企業内人材育成入門」や「研修開発入門」のさらなる「続編となります。自組織において「効果の高い研修」をつくりたい皆様にとって、確実な「研修評価」を行い、成果を残したい皆様にとって、ぜひ、手にとっていただきたい、理論満載、事例満載の一冊となります。
  

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  ▼
  
 本書の中核的概念である「研修転移(Transfer of Training)」とは
      
 1.「研修の中で学ばれた知識やスキル」が実際に「仕事の現場」で実践され、
 2.参加者の「行動」が変わり、現場や経営に「成果」を残すことができ、
 3.かつ、その効果が持続すること
   
 をいいます。
  
 こう書いてしまうと「研修転移」は「研修開発」にとって「アマリマエダのクラッカー」的な概念のようにも感じますね(笑)。何を今更、そんなことを述べている、のだ、と。
   
 読者の方々のなかには、
  
 研修は「転移」して当然ぢゃないか!
  
 とお感じの方も、少なくないような気がします。
  
 しかし、これが本当に難しい。多くの企業組織で展開している研修のなかには「学ばれてはいるけれど、現場で実践されていないもの、行動の変革までにはつながっていないもの」が少なくないのではないでしょうか。
     
 本書は、これまであまり語られることのなかった「研修転移」の理論を、人材マネジメント研究、人材開発研究の視点から紹介しつつ、ファンケル、ヤマト運輸、アズビル、三井住友銀行、ニコン、BEAMSの最新の企業実践事例を紹介することをめざしています(取材にご協力いただいた同社のみなさまに、この場を借りて、御礼申し上げます)。
  
  ▼
  
 言うまでもないことですが、研修転移は、「人材育成」にとって、いいえ、「研修の実践」にとって、その「根幹」や「存在意義」に関わる問題です。
 研修で学んだことが仕事に役立てられないのだとしたら、研修のレゾンデートル(存在証明)を疑われます。もし「学んだことが、全く仕事に役立てらず、経営にインパクトを残さない」のであれば、そもそも「研修をする意味」がありません。
  
 しかし、言うは易く行うは難しいのが、この「研修転移」です。
 一般に、研修で学んだことが実践されるためには、下記のように「3つの壁」があると思います。
    
 1.「記憶の壁」
 2.「実践の壁」
 3.「継続の壁」
    
 第1の「記憶の壁」は、端的に申し上げますと、「研修で学んだことが、なにひとつ記憶されてすらいない」ということにまつわる壁です。この壁は、あなたが、研修をする側からすると「ウソー!あんだけ言ったじゃん」と言いたくなるかもしれません。
   
 しかし、もしあなたが「学ぶ側」ならどうでしょう。
 あなたは、過去に研修で学んだ内容を、どれだけ記憶していますか?
 100回研修を受けていたとして、そのうち、どの程度を記憶しているでしょうか?
  
 おそらく5%以下なのではないか、と思います。
 これが「記憶の壁」です。
 人は、信じられないほど、忘れっぽい生き物です。
 研修転移を確実に為すためには、まず、この「第一の壁」を超える必要がございます。
  

    
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 第2の「実践の壁」は、「研修で学んだことを、本当にやってみるか、どうか」という壁です。
「やってみるか、どうか」というのは2つの意味があります。「自らやってみようと思うか、どうか」という「参加者のモティべーションの問題」と、「現場で、学んだことをやってみる機会があるか、どうか」という「機会の問題」です。
   
 前者を高めるためには、研修の最後に「自己効力感」を高めることが重要です。
  
 別の言葉で申し上げますと、
    
 研修室のドアを出るときには、人は、やってみようという気持ちがあふれるかたちで出なくてはなりません
   
 あー、研修の最後に説教くらったよ。あー、ようやく終わった。これで、シャバに帰れる!じゃ、ダメなんです(笑)
       
 後者の「機会の問題」に関しては、参加者の上司への通知や巻き込みなどを行う必要があります。
 よく知られているように、研修の転移にもっとも影響を与える要因のひとつは、参加者の上司や同僚の態度やサポートであったりします。研修転移をより確実なものとするためには、研修内容に関して、参加者の上司や同僚が、うまく「巻き込まれて」いたり、彼らの協力を得る必要があります。
  
 この意味において
  
 よい研修のデザインとは「現場を巻き込んでいる」
  
 ものです。
    
  ▼
    
 第3の「継続の壁」は、「研修で学んだことによってはじまった実践を継続できるか、どうか」ということです。
 わたしも、そして、あなたも、人は「か弱き存在」です。一度はじめたことでも、実践し続けることができるのは、強い意志が必要です。
   
 これを高めるためには、研修を2段構えにして、インターバルをもうけて、実践後の成果を、2度目の研修に持ち寄るなどの工夫が行われます。
  
 要するに、「やらなくてはならない状況」を社会的につくるということですね。
    
 皆さんの開発なさった研修で学ばれた内容は「継続」されていますか?
 「その場限りのもの」になっていませんか?
  

  
  ▼
    
「研修開発入門ー研修転移の理論と実践」では、このように、研修にまつわる「3つの壁」を超える方法を、理論的、かつ、実践的に考察しています。これまで「研修転移」に関して1冊で「理論も、実践も」取り扱った本は、ほぼ皆無に近いと思います(実践編だけのものはございました)。
  
 本書では、まず、研修評価研究の知見をひもといたうえで、理論的には、研修をいくらやっても、その効果が限定的であることを示した上で、
  

  
 研修転移を促すような促進策を総合的に議論したり、
  
 
  
 とりわけ重要だと思われるような、研修参加者の「上司の巻き込み」などを議論しています。
  

  
 端的に申し上げれば、
  
 研修転移を高めるため(研修で学ばれたことを実践するため)には、研修の教材やら、ファシリテーションやら、教え方をいくら高めても、それ「だけ」では不足があります。
 むしろ、研修参加者の上司や同僚ー職場をいかに巻き込んだ研修を、いかにデザインし、実践するのかの方が極めて重要です。
  
 その意味で、
  
 研修のデザインとは、もはや「教授学的視点」だけから語られることには「限界」がきていると思います。
  
 むしろ
 
 研修のデザインとは、「組織や職場」の上長を巻き込み、経営にインパクトを残す方法を模索する必要がある
  
 ということになります。
   
 すなわち、
  
「研修デザインの教育論」から「研修デザインの組織論」へ
  
 これが本書を通底するテーマだと思います。
  

  
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 さて、本書の冒頭部は、このように、いわば「理論編」。
 やや抽象的な話が続きましたが、そこは「大丈夫」です、ご安心ください(笑)。
    
 本書の後半部は、いわば「実践編」となります。
「実践編」では、ファンケル、ヤマト運輸、アズビル、三井住友銀行、ニコン、BEAMSの6社にご協力を得まして、研修転移をいかに実現するかについての「実践知」をご紹介させていただきます。
  

  

  
 これらの実践例からは、理論編で得た知識をいかに「現場に落とし込むか」についての具体的なイメージを得ることができるでしょう。
 また本書の巻末には、多くの実務家による覆面座談会も収録してあります。この座談会から、わたしたちは多くの実践知を学ぶことができるのだと思います。この場を借りて、座談会に参加していただいた皆様、取材に応じてくださった6社の皆様に、心より御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
  
 このように、
  
 理論と実践の「ほどよいミックス」
  
 これが本書「研修開発入門ー研修転移の理論と実践」です。
  
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 本書「研修開発入門ー研修転移の理論と実践」は、「研修開発ラボ」というコースをともに実践してきた島村公俊さん・鈴木英智佳さん・関根雅泰さんとの共著です。本書には関根さんが大学院時代をかけて探究してきた理論的探究、また、島村さんや鈴木さんが積み重ねてこられた企業人材育成の経験が満載です。どうぞ、お手にとっていただけますと幸いです。
  
 最後になりますが、編集の労をとってくださったダイヤモンド社の間杉俊彦さんに、この場を借りて御礼を申し上げます。本書はとてつもない「難産」でした。本当に力強い伴走をいただきありがとうございました。
  

  
 以下、目次です。
 そして人生はつづく
  
 ーーー
  
【研修開発入門ー研修転移の理論と実践】
  
はじめに
第1部 研修転移の歴史、理論的枠組み、実践策
  
1.研修とは何か?
1-1 個人の行動変化・現場の変化
1-2 「やりっぱなし」の研修
1-3 「研修転移」とは?
  
2.研修評価
2-1 研修評価研究の歴史
2-2 「4レベル評価モデル」の提唱
2-3 研修転移研究
  
3.研修転移の実践
3-1 2つのモデル
3-2 研修でできること
3-3 職場でできること
3-4 受講者個人ができること
3-5 人材開発部門の責任範囲
  
第2部 研修転移の実践事例
  
Case1:ファンケル
「反転学習」を軸とする究極の内製化研修が示した成果
  
Case2:ヤマト運輸
研修内容がそのまま現場の問題解決に直結する
ブロック長・支店長ペア研修
  
Case3:アズビル
テクノロジーを利用した研修リマインドが効果を上げる
  
Column:研修企画者の立場から見た研修転移の工夫 島村公俊
 1.現場に足を運んで得た情報を基に企画する
 2.現場部門に、参加者の行動変容への責任を持たせる
 3.研修を、職場ぐるみのOJTの場に変える
 4.1年で完了する企画でなく、3年先を見据えた企画にする
  
Case4:三井住友銀行
研修転移の要諦は実践を組み込んだ研修プログラムにあり
  
Case5:ニコン
新入社員の第一歩を見守る「指導員制度」が研修転移のカギ
  
Case6:ビームス
月1回、半年繰り返すOJT研修の面談の効果
  
第3部 研修転移を促すための働きかけ
〈座談会〉 研修転移のカギを握る「上司巻き込み」のノウハウ公開
  
Column:研修転移を促す講師の働きかけ 鈴木英智佳
 1.参加者の現場を知る
 2.「やればできる感」を高める
 3.本人のWANTを問う
 4.スモールステップを明確にする
 5.逆戻り予防策を考える
 6.行動を宣言させる
 7.参加者同士を結び付ける
 8.ハッピーエンドで終わる
  
おわりに
  

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