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2006.11.6 08:00/ Jun

学会雑感

 日本教育工学会大会が終わった。今年の大会は、500件を超える発表があり、過去最大の大会となった、という。開催校の苦労はなみなみならぬものがあったろう。本当にお世話になりました。
 下記、僕が特に印象に残った発表を「自分のための備忘録」のために記しておく。
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 まず興味をもっのは、青木先生(NIME)による英国ティーチャーズテレビ(Teacher’s TV)。英国の「デジタルテレビをつかった教師教育」の状況については知らなかったので、勉強になった。
Teacher’s TV
http://www.teachers.tv/
 Teacher’s TVは小中学校現職教師を対象にした、「教師の専門性」向上のためのデジタルテレビ番組。番組の他に、それに付随するポータルサイトが提供されている。
 番組には、学習リソース、教育ニュース、学校マネジメントやリーダーシップに関するベストプラクティス、ドキュメンタリー、ベストプラクティスの授業映像などがあるそうだ。
 忙しい教師が視聴できるよう、多くの番組が10分間のショートクリップになっているという。長くて15分程度らしい。
 コンテンツは、民間のテレビ局によって開発されている。これを支えているのは、政府・英国教育技能省。月3億5千万円(年間42億円)を使って運営していることである。
 番組は、上記のポータルサイトでも配信されているそうだ。今度、機会があったときにでも見てみたいと思っている。
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 次に岡本先生(大阪大学)らによる、「近赤外光イメージング装置を活用した脳機能の測定」の研究。合同、加法、乗法など、様々な数学的課題を課したときの前頭前野のヘモグロビン濃度を測定していた。
 もしかすると・・・従来から実施されている「Expert – Noviceパラダイムの研究」を「補完」するデータとして活用可能のかな、と思った。領域によって、あるいは、Expert-Noviceによって活性化する部位、程度が異なるのだとしたら、この研究にも違った展開が可能になるだろう。
 同時に「近赤外光イメージング装置」のデータだけをもって、教育的示唆を導くのではなく、その他の生理学的データと組み合わせ、トライアンギュレーションをすることが重要だと感じた。
 近赤外光イメージング装置の抽出するdeoxyHBとoxyHbのデータは非常にパワフルであるが、それを「教育の言語」「教育の理屈」に変換する際には、「多様な解釈の海」が広がっている。
 多様な解釈の中から、様々なデータを制約として、よりplausibleな解釈を行うことが重要だと思った。
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 金澤先生(東京工業大学)のご発表。e-learningログデータを活用して、ドロップアウトしそうな学習者をいかに予測するか、という内容。
 「累計相対アクセス回数」という指標を用いると、e-learning課題の完遂者・非完遂者が、非常に高い確率で検出できるという。
 ちょっと途中で聞き漏らしてしまったので詳しくはわからないのだけれども、累積相対アクセス回数という指標がリアルタイムで産出できるのであれば、十分、実用性があるのではないかと思った。
 「大規模データをリアルタイムで処理して、学習者にいかにキューイングを行うか」というのは、近年の流行である。
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 岐阜大学の加藤先生のご発表。「働きながら学ぶ現職教師」のための遠隔大学院の運営の工夫に関する内容。よく工夫されているなぁ、と思った。
 これまで岐阜大学では現職教員のリカレントのためにサテライト教室を設け、遠隔講義を行っていた。サテライト教室は、40分以内の通学を想定する場所に設けられているが、職場や自宅などからもアクセスしたい、という要望が強かった、という。
 これを解決するため、VPN技術(Virtual Private Network)を用いて、自宅や職場のマシンを大学の仮想マシンにして、テレビ会議を行っているのだという。
 こういう風にやれば安定的に運用できるのか、と思った。
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 来年の学会は、早稲田大学での開催である。
 参加することを非常に楽しみにしている。

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