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2006.11.5 09:59/ Jun

QRコードでの質疑応答:シンポジウムのリフレクション

 「社会人の学習環境を創る」シンポジウムでは、「携帯電話を使った質疑の受付」というのを行いました。
 下記のようなQRコードいりの紙を配布し、発表者が発表を行っているあいだに、質疑をリアルタイムで受け付けていたのです。
image.jpg
 結果、2時間でおおよそ30件以上の質問を受け付けることができました。質問・感想をおよせいただいた皆様、本当にありがとうございました。
 今日は、お寄せいただいた質問の中から、シンポジウム内では取り上げることのできなかったものをご紹介します。これをもって、シンポジウムのリフレクションにかえたいと思うのです。
 本来ならば、シンポジストの先生方にお答えいただけるとよいのですが、皆さん多忙な方々ばかりなので、それもかないません。僕がかわりに私見を述べたいと思います。
(参加していない方にもわかりやすいように、一部、内容を編集しています)
 —
Q.今回のシンポジウムは、ワークプレイスラーニングの理論と実践についてですね。私は英国OU でLearning in the Connected Economyを学びました。内容はまさにワークプレイスラーニングの理論と実践でした。海外は進んでいると思います。日本でも、社会人が仕事をしながらもっと気軽に学べる環境が欲しいと思います。
 そうですね。イギリスは、Management Educationの文脈で、これまでも「働く場での学習」の教育を行ってきました。おそらく、アメリカにならんで、世界でもっとも研究が盛んな場ではないでしょうか。
 確かに、おっしゃるように「海外は進んでいます」。が、そういうと悲観的になる人もいるのですが、そこまで悲観するほど差がついているわけではありません。教育学、経営学全体から見れば、まだまだマイノリティです。
 今年のシンポジウムでは、はじめての試みでもありましたので、なるべく概論的なものを扱いましたが、これから日本発の研究をたくさん生み出していく必要がありそうですね。力を貸してください。機会があれば、OUで受けた内容をご教示いただければ、とても嬉しいです。
 —
Q.蒋さんのご発表では、「現代企業は、様々な雇用形態の社員がいりまじって、多国籍軍化しています」とのことでした。民間企業ほどではないですが、大学をはじめとする学校という組織自体も同様の変化が起きているように思いました。
 ご質問ありがとうございました。
 本当にそのとおりですね。いまや、大学も「多国籍軍化」しています。かつては、「事務官」「教官」の2つのカテゴリーしかなかったのですが、様々な待遇の、様々な専門性をもった人たちが増えています。
 その意味で、企業研究の中のダイバーシティマネジメント(多様性のマネジメント)は、大学経営、学校経営にも役立つ知見かもしれません。
 様々な社会的背景、様々な待遇、雇用形態の社員を、いかにマネジメントするか、これは現代組織の課題だと思います。
 —
Q.熊本大学 北村先生。本日のGBS型の発表参考になりました。私は高校生の職業観・勤労観に関わる授業改善について興味があるのですが、シャンクの理論(MOPs)を授業に取り入れようと思っています。しかし、シャンクの理論は大変難しく、なるべく分かりやすく解説書を高等教育機関で作っていただければ教育工学の広がりも出てくると思っています。
 北村先生、その周辺の共同研究者の方々が、近い将来にやってくれるでしょう! 期待しましょう。
 —
Q.妹尾先生のご提示なさったSECIモデルは、モデルの段数は違う物の、ワークショップをデザインする際のモデルである、「つくって、かたって、振り返る」と共通した部分が多いように思いました。
 そうですね。シンポジウム終了後、ワークショップを長い間研究なさってきた上田先生(同志社女子大学)も、同様の指摘をなさっていました。もちろん、詳細は違っているけれど、そのエッセンスはかなり似ていますね。
 考えてみれば、それは当然のことかもしれませんね。
 
 人が学んだり、人が知識を生み出すことの前には、経営学も、教育学も、クソもヘッタクリもないのです。
 あー、これ、僕が今回のワークショップでお伝えしたかったメッセージのひとつかもしれません。
 研究領域というのは、帝国主義下の植民地支配のように、後から、都合のよいようにひかれた「国境」みたいなものなのかもしれません。その内部では、同じジャンルの言語体系が発達し、共通の問題意識が共有されている。
 いずれにしても、ワークショップの抽象的なデザイン原則を明らかにしたいと思っている方々には、経営学の知識創造理論あたりは、探求してみる価値があるかもしれません。
 —
Q.今は、教育現場を支える組織も変わっています。A県教委のOJT関連グループの部署はなくなります。学校の職場の組織力向上を支援する部署に変革されるそうです。
 そうなのですか。教員支援のあり方そのものも変わろうとしているのですね。「学校の職場の組織力向上を支援」というのが、具体的に、どういうものなのか、大変興味があります。
 いずれにしても、先進的な県とそうでない県の格差はどんどん広がっていくのでしょうね。
 —
Q.中原の提示した「ゆりこごから墓場まであなたを支える教育工学」。とても印象に残る言葉でした。私は教育工学は教育工夫学だととらえています。
 教育工学=教育工夫学、良い言葉ですね。
 僕も全くの同感です。
 僕にとっての教育工学とは、「教育現場の改善に資する人工物の開発と評価に関する学問」です。が、ここでいう人工物には、「工夫」「ルール」といったものまで含まれています。
 —
 本当に今回のシンポジウムでは、たくさんのご意見をいただきました。お寄せいただいた皆様、本当にありがとうございました。
 最後になりますが、
 社会人学習環境に関する取り組みはこれで終わりなのでしょうか?
 というご質問もいただいております。
 これに関して、僕個人としては、今回のシンポジウムをきっかけに、学会内に、成果を公開するための場ができてくればよいと思っていますし、そのためには労を惜しまぬ覚悟です。
 今回のシンポジウムは、我々のリサーチの結果を発表したのではなく、関連する先生方にアウトラインを提示していただきました。「ゴリゴリのリサーチを聞きたかった」という声もいくつか聞きましたが、最初は、今回のようなかたちがいいと思っています。
 ですが、やはりサスティナブルな試みにしていくためには、リサーチが、本コミュニティ内で、生み出されることが重要でしょう。
 次は、我々の番です。
 今まで、「企業の人材育成をやっても、発表する場がない」と、いろいろな場で聞きました。
 そのための「場」はできようとしているように思います。
 来年の学会、またお会いできること楽しみにしています。

あなたの会社に「人を育てる科学」はありますか?
中原・荒木・北村・長岡・橋本著「企業内人材育成入門」ぜひ、ご一読いただければ幸いです。
 

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