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2016.11.30 07:16/ Jun

我々は、みな、「自己流の理論」に囚われている!?

 学生時代によく読んだ本の中に、テリー・イーグルトンの「文学とは何か?」があります。
  
 
  
 その冒頭部に経済学者のケインズの名言として引用されているのが、下記の言葉です。
   
「理論を嫌う経済学者、もしくは、理論がないほうがうまくやっていけると豪語する経済学者は、結局、旧式の理論の虜になっているのに過ぎないのだ」
(J. M. ケインズ 同書22pより引用)
   
 イーグルトンは、ケインズのこの指摘が経済学者のみならず、多くの人々にあてはまると記し、あまりに流麗な冒頭部の文章を、下記のように結びます。
   
「理論に対する敵意というのは、通常、誰かが抱く理論に対する反発を意味するとともに、自分自身が理論をもっていることを忘れ去っていることを意味している」
(テリー・イーグルトン 同書23pより引用)
   
 うーむ。
 朝っぱらから、なかなか含蓄に富む言葉です(笑)。
   
 ここでイーグルトンがいっているのは、どんな人であれ、「その人なりの理屈がとおる一貫した物語≒理論」に「囚われている」のであり、それらをともすれば「忘れた状態」になっていることもある。
   
 そして、そのことかなは「誰かが抱く理論の内容に対する敵意」として表出する、ということなのかな、と思います。
   
 しかし、「理論への敵意」といった現象があらわれるとき、それは必ずしも「内容への反発」を意味するのではない。そうではなく、「自分自身が理論をもっていることを忘れ去っていること」から生じるのである、としています。
   
  ▼
   
 ここでいう、理論とは、必ずしも、科学者がつくるような「公式の理論(Formal Theory)」だけではないと拡大解釈することもできそうです。
 人々が、それぞれの状況においてつくる「非公式の理論=その人なりの理屈がとおる一貫した物語=Folk Theory」も、やはり「理論」というわけです。
   
 人々は、みな、それぞれに都合の良い「理論」をもっています。
 また、
 人々は生活の中で、常に「理論」をつくりあげています。
   
 問題は「誰かが抱く理論」に敵意をもったときです。
 それは「理論の内容」に関する反発のときもあるだろうけれど、「自分が理論に囚われていたりすること」を忘却していることに起因することも、あるから注意が必要です。

 自らが囚われている理論が、たとえば、時代や環境変化にあわないものになっているにもかかわらず、それらを相対化できない。さらには新たな理論を学び直すことすら阻害してしまう。こうした事態が、もっとも脅威です。
   
 あなたも、理論をもっており、
 あなたも、囚われています
 そしてそれらは
 あなたが、学び直すことを阻害しています
  
 ところで、皆さんが密かに囚われており、しかし、囚われていることすら忘れ去られている「理論」は何ですか?
   
 そして人生はつづく
  
 ーーー
   
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