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2022.11.2 08:20/ Jun

微笑むことは「意思の力」である!?:東畑開人「聞く技術 聞いてもらう技術」書評 & 20年前の留学で僕が学んだこと

 微笑むことは「意思の力」である!?
    
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 東畑開人さんの新刊「聞く技術 聞いてもらう技術」(ちくま新書)を読みました。
   
 この本は、臨床心理士(カウンセラー)である東畑さんが「聞くこと」「聞いてもらうこと」について語っている本です。私自身、仕事柄、「聞くこと」「対話すること」については、日々、考えることも多く、大変勉強になりました。
   
東畑開人(2022)「聞く技術 聞いてもらう技術」ちくま新書
https://amzn.to/3DvLYim
  
 あまり書くとネタバレになってしまうので、そこは読んでからのお楽しみにして・・・この本には、「聞くこと」「聞いてもらうこと」に関する様々なTipsがちりばめられています。ご本人が、あえて「小手先」とおっしゃっているので、そのまま書きますが、それは下記のようなものです。
    
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1.時間と場所を決めてもらう
   
2.眉毛に喋らせよう
   
3.正直でいよう
  
4.沈黙に強くなろう
  
5.返事は遅く
  
6.7色の相づち
  
7.奥義オウム返し
  
8.気持ちと事実をセットに
   
9.わからないを使う
  
10.傷つけない言葉を考えよう
  
11.何も思い浮かばないときは質問しよう
  
12.また会おう
   
東畑開人(2022)「聞く技術 聞いてもらう技術」ちくま新書
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 その詳細は、また同著を読んでいただくとして、この一連のセンテンスを読みながら、東畑さんがおっしゃりたかったことのひとつは、
  
 聞くためには「意図的なリアクション」を相手に返してあげることが重要なのだ
  
 と読み取りました。まさにそのとおりだ、と思います。よいコミュニケーションには「意図的なリアクション」が必要です。
 と、同時に、今から20年ほどまえ、アメリカに留学していた頃の出来事のことを、ふと思い出しました。
  
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 20年くらい前の、米国・ボストン。
 留学で、僕は、たくさんのことを学びましたが、一番印象的だったことは、日々のコミュニケーションにまつわることでした。
  
 端的にいってしまえば、僕は、この短かい留学生活で
  
 自分の感情は「意図をもって、自己呈示すること」なのだ
  
 ということを学んだのです。
  
 これはどういうことでしょう。
  
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 たとえば、海外では、あなたがエレベータに乗り込む際、内部に他人が乗り込んでいた場合、相手に「微笑み」を呈示します。全然知らないひとに対しても、そうします。口元をキュッとあげて笑顔を相手に示すことが、いわば「慣習」になっています。
  
 この現象には、いろいろな解釈があるとは思いますが、ひとつの有力な解釈は、
  
 わたしは、あなたの敵ではないよ
  
 わたしは、あなたといっしょにいても、大丈夫だよ
  
 というメッセージを、見知らぬ相手におくっているというものです。自分の感情や思いを、意図をもって、相手に「表現」します。つまり、感情を呈示することは「意図」をもって行うことなのです。微笑むとは「意思の力」なのです。こうしたことが、海外ではよく、日常的に実践されます。様々な人種にあふれ、多種多様な人々が暮らす社会だからこそ、「意図をもって自己を表現すること」が求められるのでしょう。
  
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 対して、留学する前までの僕は、それとは「真逆」の生き方をしていたような気がします。
  
 まことにお恥ずかしながら、それまで僕は、
  
 感情なんてものは「意図をもって制御するもの」ではなく「ダダ漏れ」してしまうものだ
  
 と思っていました。
  
 機嫌の悪いときは、機嫌の悪いなりに、どんなひとに対しても接していたような気がします。また、誰かに微笑みをおくるなどという「意図」をもった行為を、一度もしたことはありませんでした。むしろ「感情なんてものは、論理には勝てない」「感情なんて制御する対象ではなく、意図せず、ダダ漏れちゃうものだ」とすら思っていたような気もします。恥ずかしながら、20年前の僕は、意図をもって自分の感情を、相手に見せるといったことは考えたことすらありませんでした。
  
 結局、僕は20年前、短い海外生活のなかで、
  
 自分の感情は「意図をもって、自己呈示すること」なのだ
  
 ということを学びました。
  
 そして、それは、もっとも自分を大きく変えたきっかけになったと思います。現在の仕事にも、ものすごく生きているような気がします。
  
 意図をもって微笑むこと
 意図をもって疑問を呈した顔をすること
 意図をもって自己を開示すること
   
 そのような、様々な意図的コミュニケーションを通して、わたしは、人材開発・組織開発の仕事を達成できています。
   
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 冒頭に戻り、東畑さんの書かれている聞く技術のうち「眉毛に喋らせよう」「7色の相づち」などは、まさに「意図をもったリアクション」に関することです。わたしは、東畑さんの語るカウンセリングの妙と、私自身が海外で学んだことを重ね合わせながら、この本を読んでいました。
   
 この本で論じられている内容は、聞くことにまつわる、すなわち人間のコミュニケーションの全般にまつわることです。多くの方々が、これまでの仕事人生を通じて、様々な解釈と読みを行うことができるのではないか、と考えています。
   
 意図をもって、生きよ。
 そして人生はつづく
  
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