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2008.1.24 07:00/ Jun

「フリーペーパーの衝撃」(稲垣太郎著):無料の新聞があらわれる日

 2004年 – 僕が、ボストン・マサチューセッツ工科大学に留学していた頃のこと、地下鉄レッドラインの駅の入り口近くで「緑色のラック」をよく見かけた。
 アメリカ人の朝は早い。ダウンタウンへ向かう地下鉄へ乗り込もうと急ぐ人たちは、この「緑色のラック」から「新聞」を無造作に手にとり、足早に暗い駅の中へと入っていく。この新聞こそが、フリーの新聞「Metro(メトロ)」である。
METRO BOSTON
http://www.metrobostonnews.com/us/home/
 —
 集英社新書「フリーペーパーの衝撃」(稲垣太郎著)を読んだ。

 現在、日本では1200誌、年間2億9300万部のフリーペーパーが発行されているという。
 20歳から34歳の男性、いわゆるM1をターゲットにしたリクルート社の「R25」、毎号オシャレな企画記事を連載するスターツ出版の「メトロミニッツ」、クルマ・バイクを堪能する男性誌「アヘッド」などは、その代表格。これら意外にも、地下鉄の駅などに、フリーペーパーのラックが並んでいるところを目にすることが多くなってきた。
R25
http://r25.jp/
メトロミニッツ
http://www.metromin.net/
アヘッド
http://www.ahead-magazine.com/index.html
 —
 上記のフリーペーパーは「フリーの新聞」ではなく、あくまで「雑誌」である。しかし、欧州・米国では「Metro」などの「フリーの新聞」が、地下鉄などで配布されており、人気を博している。伝統的な新聞メディアも、これに対抗し、無料新聞を創刊するところも多くなってきている、のだという。
 僕も留学時代には、よくMetroにお世話になった。
 Metroのコンセプトは明確。記事は小さなボックスに収まるくらいの短いものに制限されており、用いられている語彙や修辞はとてもシンプルである。
 NYタイムスやワシントンポストなどの、いわゆるアメリカの一流新聞は、なかなか非ネィティブには敷居が高いが、Metroの記事はわかりやすく、読みやすい。そんなわけで、English Second Languageのクラスでは、このMetroを教材とした授業が、よく組まれていた。
 ちなみに、日本でもMetroのようなフリー新聞が発刊されたことが、過去に一度だけあるそうだ。
 2002年「ヘッドライントゥディ」という新聞が発刊されたが、通信社、広告会社、印刷会社からの協力が得られず、あえなく4ヶ月で廃刊に追い込まれているのだという。
 ちなみに、朝日新聞の調査によると、「日本でフリー新聞が発刊された場合」、81.7%は「読んでみたい」と答えるのだという。「日刊無料誌が読めるようになったら、通常の新聞の定期購読をやめるか?」という問いに対しては、「無料新聞の内容次第」が53.9%らしい。
 フリーペーパーとトラディショナルな新聞との攻防は、これからさらに加速する。
 —
追伸.
 近年、僕は「大人の学び」に焦点を当てた研究をしている。「大人にどの程度学びにかけられる時間があるのか」、いつも気になっていたのだが、本書「フリーペーパーの衝撃」は、「大人のメディア接触頻度」を考える上で、とても参考になった。
 リクルートの調査によると、20歳から34歳までの男性の典型的な日常生活パターンは下記に示すもののようだ。
「朝はぎりぎりまで寝ていて朝食を取らずに家を飛び出し、コンビニや立ち食いの店で朝食をとり、満員電車に揺られて出社すると、すぐに仕事。帰りはコンビニで夕食を買い、帰宅するとテレビとパソコンの電源をオンにし、テレビをつけたままパソコンで1時間から2時間遊んで、風呂にはいって寝る」
 仕事が終わってからの1時間~2時間、あるいは、満員電車の中が「勝負だな」と感じた。
 ちなみに、フリー新聞の中には、読む時間を20分に想定して編集されているものがあり、人気を博しているようだ。
 モバイル英語リスニング教材「なりきりEnglish!」のプロジェクトでは、大人の一日の可処分時間を20分~30分と想定し、教材を構成したが、その読みはあながち間違っていなかったな、と思う。

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