NAKAHARA-LAB.net

2008.1.13 00:00/ Jun

できるMRを育てる – OJTとOff-JTの連動:Learning barが終わった!

 2008年最初のLearning barは、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 事業企画本部 能力開発部 統括部長の早川勝夫さんをお招きいたしました。
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 新年早々から会場は「満員御礼」。このところLearning barは、教室の収容人数をはるかに超える参加希望をいただいております(お申し込みはお早めに!)。
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 今回のスピーカーの早川さんの勤務する、日本ベーリンガーインゲルハイムは、循環器や呼吸器用薬などを主力商品としたドイツの製薬メーカーです。
 同社では、MRの営業生産性を向上させるため、「ワークプレイスラーニング」の視点を取り入れ、「OFF-JTとOJTを連動させた人材育成」を2003年から試みています。
 その結果、2005年-2006年における売上、営業生産性の伸び率は2年連続で業界第一位を記録するまでになりました。
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 Learning barでは、早川さんに、1)OFF-JTとOJTの連動の仕組み、2)そこで起きた様々な問題をどうクリアしたのか、について、「生の研修素材」をご紹介いただきながら、お話しいただきました。当日の資料は、こちらよりダウンロードいただけます。
早川さんの発表資料
http://www.nakahara-lab.net/blog/20080111_hayakawa.pdf
「OJTとOFF-JTの連動の仕組み」は、早川さんのチームが国内ではじめたことでしたが、この業績が本国に認められ、今後グローバルに展開されるそうです。まさに「日本発の人材育成の仕組み」ですね。
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 OJTとOFF-JTの「連動」・・・
 言うのは簡単ですが、これ以上にむずかしい課題はありません。なぜなら、それは「OJT」「OFF-JT」という「教育制度」を「接合」するということではないからです。
それは「OJTを行う部門」と「OFF-JTを行う部門」という2つの異なった「部門」の「連携」であり、そこには、ともすれば「利害の衝突」「政治的葛藤」が生まれるからです。
 早川さんは、「OJTとOFF-JTの連動は、人材育成部門がイニシアチブをとるべきだ」とおっしゃっておりました。しかし、それはともすれば、「現場のマネジャー」「MR」の視点から見れば、それは「人材育成部門の現場への介入」に見えてしまいます。
 踊る大捜査線風にいうならば「本部と現場の葛藤」。「事件」は「現場」で起きてるんだ。「本部」で起きてるんじゃねー、という話になりがちです。
 個人的には今回、早川さんらが成功した秘訣は、下記にあるのではないか、そう思いました。
●成功の秘訣1:上司をステークホルダーに組み込んだこと
 今回、人材育成部門は、MRの目からハッキリは見えていません。うすうすMRは上司の背後に「人材育成部門」の存在を感じていますが、彼らに対峙するのは、あくまで「現場の上司」であるわけです。
 現場の上司を「OFF-JT」によって巻き込み、「部下」を説得させる存在と位置づけたこと。これが成功の秘訣ではないでしょうか。
 エリンガーという人たちの研究によると、「現場での学習」の成否は、現場の上司が、学習に理解のあるリーダーシップやマネジメントを行うことができるかどうか、に大きく依存すると言われています。その意味でも、「上司」を巻き込んだことは、非常に大きいと思います。
●成功の秘訣2:ITによる「見える化」の仕組み
 日本ベーリンガーインゲルハイムでは、既存の「Sales Force Automation(≒営業日報支援システム)」の中に、「部下」と「上司」が同行営業を行った際のドキュメンテーションを行う仕組みを整えました。
 これによって、OJTの現場で「上司」と「部下」が何をやっているのか、それによってどの程度営業活動が活発化したのかを、人材育成部門がモニタリングする仕組みが整いました。これは言い方を変えれば、IT技術によって「現場のOJT」が「見える化」したということになります。
 教育学風に言えば「評価データを取得することができた」ということになるのでしょうね。そして、この非常に分厚いデータをもとにして、「変革をはばむチェンジモンスター=現場からの反発」を説得することができたのではないか、と思います。これが成功の秘訣2ではないでしょうか。
 ところで考えてみれば、「成功の秘訣1」は「事業部を巻き込むこと」、「成功の秘訣2」は「情報システム部門を巻き込むこと」です。
 今回のLearning barで、専門的見地からコメントをしていただいた産業能率大学 長岡健先生の言葉を借りるならば、「人材育成のハイブリッドネットワークの中に、異なる部門を巻き込んでいくこと」なのです。カロン風にいうと、「アクターネットワークの構築」。
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 さて、ここで、企業人材育成には、二つのすすむべき「道」がでてきます。
「そんなことは人材育成部門の仕事じゃない。人材育成部門の仕事は研修の発注であり、企画だ!」
 とする「ひとつの道」。
「他部門を巻き込むことを試みてでも、OJTとOff-JTが連動したトータルな学習環境をつくりたい」
 とする「もう片方の道」。
 どちらが正しい、正しくないの話ではありません。それに対する答えは、現場にいる方々が、個別具体的に出していく他はないでしょう。
 Learning bar最後の「まとめ」で、僕は以上のようなお話をしました。
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 最後になりますが、今回のご発表を快く引き受けていただいた日本ベーリンガーインゲルハイムの早川さん、そして非常に素晴らしいコメントをしてくださった産業能率大学 長岡健教授に感謝します。
 また、Learning barを影から支えてくれている東京大学大学院の坂本君、牧村さん、山田君、林さん、脇本君、本当にありがとうございました。
 次回のLearning barは3月。ご案内は下記メーリングリストより発送させていただきますので、まだ入っていないという方は、これを機会にご加入ください。
Learning bar メルマガ登録はこちら
http://www.nakahara-lab.net/learningbar.html
 それでは皆さん、よい週末を!

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