NAKAHARA-LAB.net

2022.4.1 08:26/ Jun

「ビジネスパーソンの学びの場」に、学部生が「越境学習」すると、どんなインパクトが起こるのか?

「ビジネスパーソンの学びの場」に、学部生が「越境学習」すると、どんなインパクトが起こるのか?
   
  ・
  ・
  ・ 
     
 わたしが主任講師・監修者をつとめる、いくつかの社会人向けのコースでは、中原ゼミの学部生がインターン(アルバイト)やオブザーバーとして、その場に参加してくれています。何人かのかたが、大学の授業以外で(自由意志・任意参加)、こうした場で学んでいたり、アルバイトをしていたりします。
     
 慶応丸の内シティキャンパスにおける「ラーニングイノベーション論」や、パーソル総合研究所が主催している「HRリーダーズフォーラム」などが、その典型です。
 事務局の皆さんに趣旨をご理解いただき、ご尽力いただいていることで、これらの取り組みが可能になっています(慶応:内田さん、保谷さん、パーソル総研:村山さん、秋元さん、後藤さん、本間さん)。また受講生の皆様にも、学生を温かく迎え入れていただき、この場を借りて感謝いたします。本当にありがとうございます。
      
慶応丸の内シティキャンパス「ラーニングイノベーション論」
https://www.keiomcc.com/program/lin22a/
    
パーソル総合研究所「HRリーダーズフォーラム」
https://rc.persol-group.co.jp/hrlf/
   
  ・
  ・
  ・
    
 それらのコースでは、
    
 主体的に学ぶビジネスパーソンのなかに、主体的に学ぶ学部生が混じっている
    
 という光景が、ごくごく普通に見られます。
    
 もちろん学生の方は、自由参加、任意参加です。彼らから費用徴収することも一切ありません。
 あたりまえですが、募集・選抜をきちんと行います。志望動機を確かめ、しっかりと学んでもらうことは確約していただきます。様々な留意事項も伝えますし、ときに事務局のお手伝いをしていただくこともお願いしています。ただ、それ以上のことはありません。
    
 こう申し上げると、きっと、社会のここ、あそこでは、
     
「社会人のなかに、学部生が混じる、というのは、どうせ、学部生は内容にもついてけないし、足手まといになるだけでは? 社会人にとって、邪魔でしかない」
     
 という声が聞こえてきそうです。
      
 実際、目的意識の低い学生を入れてしまうと、そうしたことが容易に起こることが想定されます。また、学生の入れ方、紹介の仕方を間違ってしまうと、リスクが高まる可能性があります。
      
 が、こと、わたしの関係する上記2つのプログラムにおいては、そのようなことは、起こっていない印象があります(細かいところでは、粗相をしているとは思いますが、どうかご寛恕ください)。
     
  ・
  ・
  ・
    
 むしろ、最近とみに思うのは「話は逆」です。
    
 わたしは、
    
 ビジネスパーソンの学びに、学部生が「越境学習」してきたほうが、双方にとって、よい効果があるのではないか?
    
 という仮説を持ちます。
   
 まず、学生にとってのメリット。
 それは、下記のとおりです。
  
 1.ビジネス、社会課題の最先端を知ることができる
  
 2.ビジネスパーソンが何を考え、何を問題だと思っているかを理解できる
  
 3.ビジネスパーソンとの話し方、接し方を経験学習できる
  
 4.ビジネスパーソンと接していると、いやでも、自分の将来や強みを考える
  
 5.企業の人事課題を理解できるので、キャリアを考える契機になる
     
 きっと他にもまだまだあります。3秒で思いつく限りでも、これくらいのメリットはあります。
  
  ▼
  
 一方、社会人にとってのメリットは何でしょうか。それは下記のとおりです。
  
 1.なかなか接することのない、若年層の考え方を知ることができる
  
 2.若い人に「教えなければならない」ので、既存の知識の言語化が進む
  
 3.すでに忘れてしまった若い人との接し方、話し方を思い出すことができる 
  
 4.若い人の様子を見ていると、自分の若い時を思い出し、いやがおうでも来し方を「振り返る」
  
 5.若い人の様子を見ていると、自分のキャリアを考え直す契機になる
        
 他にもいろいろあるとは思いますが、こんなところです。 
    
  ・
  ・
  ・
   
 こうした学びの場に参加した学生は、いろんな感想をもらします。
  
「先生、組織って、どこも課題を抱えてるんですね。でも、まったく違った課題かというと、そうではなく、どの組織でも、おんなじような課題を抱えてますね」
   
「先生、僕は、大企業は、勝手にいすごいと思っていたけど、そんなことはないんですね。大企業には、大企業の悩みがある。ベンチャーには、ベンチャーの悩みがあるんですね」
  
「先生、社会人に出ても、学ばなきゃならないんですね。今度は、親が出してくれるんじゃなくて、自腹なんですね。だから稼ぎます」
    
 一方、ビジネスパーソンの方からも、こんな声をいただきます。
   
「最近の学生さんは、プレゼンとかで、論理的にものを伝えることができますね。見習わなきゃ」
  
「最近の学生さんは、組織とか仕事に対する捉え方が、やっぱり私たちのときとは違うんです。採用のプロセスを見直さなきゃならないな、と本気で思いました」
  
「キャリアといったらおこがましいのですけれども、自分の仕事の足跡を学生さんに話しました。こんなに、ひとに、自分の仕事の話をしたことはないです。整理されてよかったです」
   
  ・
  ・
  ・
  
 ビジネスパーソンから賜った感想の方は、もちろん、リップサービスもあるでしょう。
 しかし、こうした声を聞くたびに、大学生はキャンパスを離れ、越境学習することも必要性や意義を感じます。
   
 むしろ、領域(分野)にもよるのでしょうが、
   
 大学生をキャンパス内部だけで育成する時代は、終わったのかもしれない
   
 とすら、妄想します(くどいようですが、領域・分野にもよります。わたしの領域では、それが効果的かもしれません。人事・人材開発・組織開発を、働いたことのない、会社組織にも所属したことのないひとに教えるのは、なかなか難しいのです)。
   
 大学生を「大学と社会を往還」させて学ぶことが、すなわち、大学生を「越境学習」させることが、彼らにとって、より効果の高い学びを提供できる気がします。
   
 ちなみに、はっきり申し上げますが、こうした越境学習にのめり込みすぎて、成績が下がった、という学生を僕は知りません。むしろ「逆」です。社会で本当に必要な知識やスキルが「わかる」から、大学のなかで学ぶのです。
   
  ・
  ・
  ・
  
 そういえば、こんな妄想を、かなり前の飲み会で(10年位前でしょうかね・・・)、お話ししていたら、かつて、ある老教授に、こんなことも言われました。 
   
「大学生を、大学の外に出してしまったら、誰も、大学の授業に、来なくなるではないか。けしからん」
   
 先生、それは「話が逆」です。
    
「誰もが来たくない授業」をしている方が悪いんです。
   
 学生が、大学の外に出ていったとしても、「来たくなるような授業」をすること。誰もが来たくなるように、「大学教育の魅力」を高めることが、問題の本質でしょう。
     
 学生は「大学のもの」ではありません。
 ましてや、学生は「先生のもの」ではないのです。

  
  ▼
  
 今日は「大学生が、ビジネスパーソンの学びの場に越境学習すること」の効果について書きました。
  
 こうしたことが可能になっているのは、単に、学生を連れてきて、ビジネスパーソンの中に「ポットン」するだけでは無理です。目的意識を高め、自分にどのような貢献ができるのかを、はっきり「意識」させて、そのなかで適応させていく工夫がどうしても必要です(事務局の皆さんに、受講生の皆様に、心より感謝いたします)。
  
 しかし、その「一手間」をかけると、人間同士の化学反応(Human Chemistry)が起こってくることがあります。
     
 その領域に入ってくると、もはや「学生」と「社会人」という分け方すら、さして意味がなくなることにも気づきます。社会人だって学ぶのです。そして、学生だって、学ぶのです。そこには「ラーナー(Learner:学び手)」がいるだけです。
 
 ・
 ・
 ・
   
 越境学習とは、学習者同士の化学反応(Human Chemistry)にもとづく、想定外の気づきです。
 
 そして人生は続く
     
 ーーー
   

  
新刊「M&A後の組織・職場づくり入門」発売中です。AMAZON「企業再生」カテゴリー1位を記録しました(感謝です!)。
  
これまで税務・法律の観点からしか語られなかった「企業合併(M&A)」の問題に対して、ひとと組織(人材開発・組織開発)の観点からアプローチし、シナジーを生み出す可能性を考えます。
  
M&Aという「巻き込まれ事故」に関わってしまった経営企画・人事・現場の管理者・リーダーの皆様にぜひお読み意いただきたい一冊です!
  

購入はこちら!「M&A後の組織・職場づくり入門」
https://amzn.to/3v0P0bE
 
 ーーー
       
武蔵野大学・島田徳子先生、ダイヤモンド社の皆さん(広瀬一輝さん、永田正樹さん)との数年にわたる共同研究と、NPO法人日本ブラインドサッカー協会との連携で、スマホで手軽に受検できる「アンコンシャスバイアス測定テスト」と、内製化研修(プレゼンキット)を開発しました!。この問題は、学術的な背景などは、わたしどもが、テスト結果に基づき動画像(ビデオ)で解説させていただきます。ご利用くださいませ! ご自身の組織にもっともフィットしたアンコンシャスバイアス研修をつくることができます。どうぞご利用くださいませ!
    
ダイヤモンド社共同開発「アンコンシャスバイアス研修」内製化ツールキット    
https://jinzai.diamond.ne.jp/items/k00HD0028/
 
ダイヤモンド社が「アンコンシャスバイアス研修」を開発
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000045710.html
    

    
 ーーー
           
新刊「チームワーキング」がオンライン管理職研修になりました。JMAMさんからのリリースです(共同開発をさせていただいた同社の堀尾さん、ありがとうございました。中原は共著者の田中聡さんと監修をつとめさせていただきました)。どうぞご笑覧ください! 
      
リリースしました!「チームワーキング研修版」
https://www.jmam.co.jp/hrm/training/special/teamworking/
     
 書籍「チームワーキング」おかげさまで「重版」を重ねております。応援いただいた皆様に心より感謝いたします。
     
    
 
https://amzn.to/3esCOrW
            
すべてのリーダー、管理職にチームを動かすスキルを!
ニッポンのチームをアップデートせよ!           
       
 ーーー
    
 職場診断ツール&ワークショップ「OD-ATRAS(オーディ・アトラス)」が多くの職場で使われはじめています。サーベイはもとより、それをいかに「フィードバック」するかに焦点をあてたツールです。ワークショップも開発しております。どうぞご笑覧くださいませ!
   

職場診断ツール&ワークショップ「OD-ATRAS」 (パーソル総合研究所・中原の共同開発) 
https://rc.persol-group.co.jp/consulting/survey/service/od-atlas.html
   
  ーーー
       
【好評発売中】1on1のコツをまとめた映像教材を、中原とPHPさんで共同開発しました。上司用、部下用あります。1on1について「同じイメージ」をもつことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス(上司用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
  
経験を成長につなげる1on1(部下用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061   
  
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
  
 ーーー

新刊「フィードバック入門:耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術」絶賛発売中、13刷重版出来です!。AMAZON総合13位、1位(マネジメント・人材管理カテゴリー、リーダーシップカテゴリー)を記録!年上の部下、若手のトンガリボーイ、トンガリガール。職場には、多様な人々が集っています。難易度の高い部下育成に悩む管理職向けの新書です。どうぞご笑覧くださいませ。スピンアウト企画にDVD教材「フィードバック入門」、研修、通信教育もあります。こちらもどうぞご笑覧ください。
     

   
『フィードバック入門』スピンアウト企画
https://www.php.co.jp/seminar/feedback/

 ーーー
  
【泣くな!新米管理職!】
  
おかげさまで10刷重版出来。「駆け出しマネジャーの成長論」は、「実務担当者」から「新任管理職」への役割移行をいかに進めるかを論じた本です。「脱線」をふせぎ、成果をだすためには「7つの課題」への挑戦が必要であることを解説しています!全国の管理職研修で用いられています。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
パーソル総合研究所と中原は、このテキストをもとにした「マネジャーになる研修」を開発しました。種部吉泰さんとディスカッションは、非常に楽しいものでした。このコースについても、どうぞご覧くださいませ!
  
「マネジャーになる」 研修:プレイヤーからマネジャーへの移行期支援プログラム
https://rc.persol-group.co.jp/seminar/become-a-manager.html
   
ーーー
 
        
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
       
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
     
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
   
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
    
 ーーー 
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約37000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

 

ブログ一覧に戻る

最新の記事

「余人をもってかえがたい」は「組織を腐らせる」!?

2024.5.1 08:35/ Jun

「余人をもってかえがたい」は「組織を腐らせる」!?

自分の身体をどのように用いて、相手にプレゼンテーションを「お届け」するのか?:演劇の知とリーダーシップ!?

2024.4.26 10:34/ Jun

自分の身体をどのように用いて、相手にプレゼンテーションを「お届け」するのか?:演劇の知とリーダーシップ!?

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.24 08:22/ Jun

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.17 23:54/ Jun

給特法、および、それにまつわる中教審審議に対する私見(中原淳)

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.17 08:17/ Jun

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!