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2022.2.1 07:51/ Jun

先生がさらに足りなくなる日は、もうすでに迫っている!?:中央教育審議会(小委員会)に参加しての感想

 昨日は中央教育審議会(特別部会)の小委員会でした。中原は去年より、この審議会の臨時委員として、人材マネジメントの立場から、教員の育成についての議論に参加させていただいております。資料などは、すべて下記に掲載されておりますので、ぜひご覧ください。
  
中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会基本問題小委員会(第2回)会議資料
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2021/1422489_00015.html
  
 昨日は、教員採用に関して議論になりました。いくつかの教育委員会、県、教員養成系大学の貴重な取り組みが紹介されており、勉強になりました。
  
 私見ですが、この問題はいっこくの猶予もなく感じます。なぜなら、人手不足は、すでにはじまっており、子どもの学習に支障がでているケースもでてきているのです。
また採用倍率も低下しています。採用倍率がおそらく2を切れば、「本来ならば、採用してはいけない層」にまで採用を広げることにもなりかねません。「選抜」は適切に機能しなければ、すぐに「質低下」に結びつくのです。
  
73歳OBまでフル勤務で教壇に 深刻化する教員不足、学習に支障も
https://www.asahi.com/articles/ASQ105SY3Q10UTIL01J.html?fbclid=IwAR0Hyn8MpHFtY8_W7fL5NU7d87eyJY2I6923FLWrqoe2g09hLBfNkuUGMlg
  
 発言の冒頭で、わたしは、「完全なる予測」はできないことを前提にしつつも、5年後ー10年後に、このまま何もしなければ、どこにどれだけ人が足りなくなるか「予測値」をだすことを提案しました。現在足りている、足りていないも重要なのですが、さまざまな前提条件をおいたうえで将来を予測していくのです。 
      
 ゴールがイメージできないものは、課題解決はできません。
  
 量的に予測値をだすのが無理なのであれば、一つの学校を例にとり、10年後の未来の1日を、教頭先生の目線(誰の目線でもいい)でどのように過ごせるのか、シナリオで書いてみるといいと思います。そうすれば、どこにどれだけの人が足りなくなるかを予測できるのではないか、と思います。
(かつてシナリオプランニングは、横浜市教育委員会とわたしで取り組んだことがありましたね。長時間労働是正プロジェクトがはじまるまえのことでした。横浜のある学校の教頭先生の一日をストーリーにして、学校がどのようになっているかをみなで予測しました。たしか、小学校では、適齢期にはいった先生方が育児休業をおとりになり、そこを臨時任用の先生で埋めようとするものの、そうした先生すら採用できなくなって、スポット数時間で来てもらうとか、そういう状態であったと認識しています)
  
 もちろん「長時間労働是正を行うこと=安心・安全に働ける職場」をつくることが重要であることは言うまでもありません。重ね重ね申し上げていますが、人手不足の時代にあっては「安心・安全に働ける職場」こそが「最大の採用メッセージ」なのです。
  
 以下は中原の発言録です。このレベルの施策ならば、もうすでにやってるよ。他にもいろいろあるよ、という意見もでてくるでしょう。大切なことは、あの手この手をつかって、なりふり構わず、この問題に対処しなければ、結局現場の負荷はさらに増し、過剰労働が横行するということです。

 ご高欄くださいませ!
    
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20220131 中央教育審議会 基本問題小委員会(第2回)
中原の発言趣旨

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【現状・・・要するに】
      
1.採用したくても、人が応募してくれなくなりつつある
(ひとが採用できない)

      
2.通級指導、特別支援、日本語支援、Dxなど
 内部の仕事が複雑化し、それを行う人材がいない
 (従来の人材育成のスピードでは間に合わない)

      
3.離職はそれほど多いわけではない
     
↓(当日の記事では)
        
全国で教員不足2558人 文科省初調査
https://news.yahoo.co.jp/articles/4b47e219c85f04f04f7f9ac2e1f4cf0079a9a001
      
73歳OBまでフル勤務で教壇に 深刻化する教員不足、学習に支障も
https://www.asahi.com/articles/ASQ105SY3Q10UTIL01J.html?fbclid=IwAR0Hyn8MpHFtY8_W7fL5NU7d87eyJY2I6923FLWrqoe2g09hLBfNkuUGMlg
      
↓(具体的施策に入る前に、本質的な課題解決のために必要なこと)
      
■重要■
 完全な5年後予測などできないことは前提で、
 5年後の人員不足予測値をはじきだす。

 まず行うべきは、どこで、どれだけ人が必要になって
 今後、5年でどうなるのかを予測シナリオをつくる
  
 (このまま何もしないでいると、どのような学校
  になるかを定性的であってもよいのでシナリオプランニングする)
      
(ゴールをイメージできないものは、解決策が打てない)
(確保できる人員が、本当に、現在の打ち手だけで足りるのか?、中原には疑問)
      
■重要2■
くどいようだが、長時間労働の是正にまつわる
安心・安全の職場をつくることは「最大の採用ツール」

    
管理職の職務に「長時間労働是正」を位置づける
       
長時間労働は採用を阻害する。当の本人はやる気でも
「親ブロック」がかかっている可能性を感じる
    
↓(そのうえで新卒作用と中途採用の問題にわけて考える)
      
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【新卒採用】の解決策(あくまで案)
(ただし予測値がないので、この打ち手の妥当性は不明)

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「学生を選べる存在」ではなく「学生から選ばれている
存在」であることを認識したうえで、教育委員会と
教員養成大学がタッグ(コンソーシアム)を組んで
確実に円滑なトランジションを行う

      
【1.ハードルの高さを見直す】
・教員採用試験における共通問題作成するなどして
 複数の県を受験できるようにする
     
・試験そのものの見直し
 試験点数が、本当に、入職後の成果と関連ある
 のかを調べる
     
・学生が教員になることを諦めてしまうような
 試験はないのか?
    
・必ずしも入職後の成果と関連がないものは見直す
      
【2.試験時期の弾力化】
・3年生春学期から企業のインターン応募がはじまる
 これと同時期の募集がよいのではないだろうか?
    
【3.採用チャネルを増やす】
・教員養成セミナー受講者への、試験免除  
・教員セミナー卒業生に協力してもらい、学内で広報
(リクルーターになってもらう)
    
【4.初年次教育で早く、魅力的な先生に出会わせる】
・大学では、企業がコラボ授業が増えている
・1年生でも4分の1は企業内インターンを経験済み
・なるべく「生身の先生の声」に触れられる経験をもつ
 (オンラインも活用できる)
     
【5.親向けの説明会・メッセージング】
・親向け、あるいは親子参加で「教員の仕事の魅力を伝える」
    
要するに、なりふりかまわず、あの手この手を使うことが
重要。事態は切迫しているように感じる。
以上は、あくまで案。
    
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【中途採用】の解決策(案)
(ただし予測値がないので、この打ち手の妥当性は不明)

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とりわけ専門性が必要な教員では、新卒採用だけで
埋めるのでは難しい

  
  ↓(中途採用人材を増やす)
  
【多様な募集を可能にする】  
・一度教職を離れたけれど、もう一度先生になりたいひと
に声をかける(できれば離職のときにはアルムナイになってもらう)
        
・企業に出て、やっぱり教員になりたかったひともいる
そこに再教育を行い、教壇にたてる仕組み
     
・地方へのUターン人材、Jターン人材を取り込む可能性
    
・シニア人材の再登板(年齢制限の緩和)
     
  ↓(彼らに対して)
   
1.再教育プログラム(リスキリング)を行い
     
2.教壇にたてる仕組みをつくる
(英語やデジタル系は奏功する可能性がある)

      
(ただし管理職のマネジメントコストは高くなるので
管理職の力量形成が必要)
     
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【感想】
========================================
  
・上記は、ここまでやるのか、というイメージを
もってもらうために敢えて書いたものであり、それぞれ
のフィージビリティを細かく問わない。

    
・ただ、おそらく5年後ー10年後の状況はもっと
深刻なのではないかと推察する。
  
・現在考えられている施策で本当に必要なヘッドカウント
を埋められるのかどうか疑問である
    
・あの手この手をつくして、なりふり構わず
実践しなければ、将来を見通せないのではないかと思う
     
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