NAKAHARA-LAB.net

2021.3.22 08:42/ Jun

オンライン授業で進む!?「授業のアンバンドル化」、その先に広がる未来とは!?

 この数日、2つの「味わい深いニュース」が飛び込んできました。
    
 ひとつは、四国の5国立大が連携法人をたてて、教職課程の授業の一部を共同運営する、というもの。
  
四国の5国立大が連携法人 教職課程の一部を共同運営
(日経電子版・登録ないと読めないかもです)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH15BB10V10C21A3000000
  
 もうひとつは、東大学が、世界トップクラスの研究者を教員として雇用し、リモートで講義、単位付与、研究指導するというもの。
   
世界トップ研究者を教員に!東大がオンライン講義を海外から購入
(日刊工業新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/5f496f5ccd099f405698032ae447b6ff11e1518c
   
 それぞれのニュースの詳細、実態については、僕はこのニュース以上のことは、なにひとつ知りません。また、このニュース個々については、興味はさしてありません。それぞれの大学が、それぞれの経営方針に基づいて、お好きに経営なさればいいことです。
    
 しかし、これらは別々のニュースでしたが、その2つのニュースを「抽象化」して考えた先に、僕は、非常に興味深いものを感じました。今日は、その妄想を皆さんにシェアしたいと思います。
   
  ▼
    
 さて、これら2つのニュースが行き着く先には、何があると思うか。
 僕は、下記の4点が進行するように思えました。以下は、机上の空論、妄想ですが、記してみましょう。
   
1.オンライン授業は、教室の収容数という物理的制約を「無化」する。これまでよりも大量の学生数に対するコンテンツの配信が可能になる。
(=同一時間に、同一の大学に所属する学生が、一カ所に集まって学ぶという、これまでの授業概念が変わる)
   
2.オンライン授業は、教員と所属大学との結びつきを「フレキシブル化」する。理論的には、教員は所属大学を超えて、より多くの教育活動を行えるようになる。
(=逆にいうと、所属という概念を守るのならば、魅力ある教員を引きつけるための手段が組織としては必要になる)
   
3.1と2によって論理的には、授業と大学の「アンバンドル化:大学・学部に囲われて束になっていたものが、分解可能になり、個々に共有可能になる」がすすむ。大学が束ねていた授業が、それぞれ個別に分解され、ものによっては、市場(他の大学)に提供される。そこには当然、提供数に応じた取引が生まれる
(=個々の大学は、どの大学と組んで、授業のリバンドル化を進め、学位提供をするかの意志決定を行わなければならなくなる)
   
4.大学は、授業の共有を行うことで、現在は、個々の所属組織で雇用している教員の固定費を下げることができる。
   
 この4点は、もちろん机上の空論であり、妄想です。
 しかしながら、この行き着く先には、今までとは異なる大学、教育機関の「あり方が広がっているような気がしていました。
    
 皆さんはいかが思われますか?
    
  ▼
   
 というか・・・このニュースを聞いて、僕は、この1年、オンラインで大規模に授業や講演を行っているときに、いつも感じていたことを、はじめて言葉にできました。
   
 それは、
   
 オンライン授業では、コンテンツを一方向的に伝えるだけなら、10人に教えようが、100人に教えようが、1000人に教えようが、その労力も、学習効果も変わらないよなー
   
 ということです。
  
 だって、10人だろうが、100人だろうが、1000人だろうが、Zoomひらいて、モニタに向かってしゃべっているだけ。チャットのコメントを拾いながら、コメントしつつ、授業しているだけ
    
 なんです。
 やっている作業はまったく変わらない。
 Zoomの操作の軽やかさも変わらない。ボタンをクリックする重さも変わらない。
 ポチッと画面共有して、一生懸命しゃべって、ポチッと退出するだけです。そして、同じ労力ならば、10人に提供するよりも、1000人に提供した方が、やりがいはあります。
      
 この1年、様々な規模の授業や講演を担当していて、一方向的に話すだけでいいのなら、さして「規模」は関係ないよな、と思っていました。だって、どうせ、モニタを前にしてしゃべるだけなので。
    
 先ほどの議論にもう少し引きつけて言えば、
   
 コンテンツを一方向的に提供するだけなら「ひとつの大学で10人に教える」のも、「10の大学に所属する1000人に教える」のも、さして変わらない
   
 ということになりますね。
    
 その先に、どういう未来が広がるか・・・ここから先の「妄想」は、読者の皆さんにお任せしますが、おそらく、現在の教育機関の姿ではないもの、現在の授業ではないもの、現在の教員の働き方ではないものが、生まれるのだと思います。
    
 たとえば、コンテンツ提供は、他の大学の授業を受ける。テストは、個々の大学、個々のサイトで行い、評価を個々に行うなどは、十分ありえる未来かな、と思います。
(オンラインではテストは難しいかもしれません。ただ、オンラインで授業を行う主体と、評価主体もアンバンドリングしてしまえば、いいという判断もあります。実際、評価と単位付与は、個々の大学で行うことになりますよね。現在の制度ならば。ちなみに、この程度のことならば、もうすでに、大学間授業共有は行われていますよね。)
    
  ▼
    
 ちなみに、もし、この動きに抗うのならば、何をすればいいでしょうか。
 そのひとつは、先ほどの命題の「条件」になっていた部分を、徹底的に「反転」させることだと思います。
   
 その条件とは「コンテンツを一方向的に提供するだけならば・・・」という部分ですね。
   
 つまり、
   
「一方向的なコンテンツの提供であるならば」、10人だろうと1000人だろうと、さしてかわらない。
   
 という命題のうち「一方向的なコンテンツの提供であるならば」を逆手にとればいいのです。むしろ、この条件を「徹底的に反転」させる。
   
 つまりは、授業の質や内容を「コンテンツの一方向的な提供」ではないものにしてしまえばいいということになります。つまり、ここにインタラクティビティ(双方向性)やエクスペリエンス(体験)といった概念が入ってくると、先の命題は成立しない。
   
 よって、先の流れに抗うのであれば、
    
「この所属で、この場で、このタイミングで、このメンバーでしか得られない体験・出来事をともなう学びで、めっこりとしたフィードバックのある学び」
    
 を徹底的に重視しなくてはならないことになります。
    
 コンテンツはいくらでも「コピペ」できます。
    
 しかし
    
 コミュニティはそう簡単に「コピペ」できません
 また体験も、そう簡単に「コピペ」できません。
 また双方向のフィードバックも、そう簡単に「コピペ」できません。
   
 皆さんはいかが思われますか?
     
  ▼
    
 今日は、2つの別々のニュースを「抽象化」して妄想してみました。そこに広がる「香ばしい未来」を皆さんはどのようにお考えになりましたでしょうか。
   
 今週も一週間がはじまります。
 いよいよ来年度の授業準備が本格化しています。
    
 来年度も、学部・大学院含めて、コピペできない、「めっこり、こってりした学び」を実現したいと妄想しております。 僕は、そっちの方が好きです。   

 そして人生はつづく
    
  ーーー
      
【事業部人事の大調査】への回答ご協力、どうぞよろしくお願いいたします! 「事業」に貢献する人事を元気にしたい、という思いから、調査を行わせていただいております。事業にまつわる人事を行っている方、ぜひ、回答をご検討くださいませ。明るく楽しい調査報告、他社の事業部人事とつながる会へにご招待させていただきます!
  
【事業部人事の大調査 調査へのご回答はこちら!】  
https://jinzai.diamond.ne.jp/survey/
           
  ーーー
   
新刊「チームワーキング」発売初日・重版決まりました! AMAZON「マネジメント・人材管理」カテゴリー第1位! 手にとってくださった皆様、お読みいただいた皆様に、心より感謝いたします。
   
 
https://amzn.to/3esCOrW
   
すべてのひとびとに、チームを動かすスキルを! これがこの書籍のメインメッセージです。チームを動かす新たなアイデアとして「チームワーク」ではなく、「チームワーキング」を提唱しています。データとビジネスケースから、チームを動かすためのスキルを学び取ることができるようになっています。どうぞご高覧くださいませ!
 
ニッポンのチームをアップデートせよ!
  

  
  ーーー
     
拙著「経営学習論」の増補改訂版が、東京大学出版会より刊行されました。新たに「リーダーシップ開発」の章を追加し、カバーの装いも変わっています。人材開発の基礎的な理論を体系的に学べる一冊です。どうぞご高覧くださいませ!
      

    

      
  ーーー
  
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
  

新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
  
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)

   
  ーーー
     
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
   
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
   
  ーーー
  
ラーニングエージェンシーさんと中原研究室の共同研究により開発した「女性の視点で見直す人材育成:トランジションサポートプログラム」のご提供がはじまっています。ライフステージに応じて、役割移行を支援する、きめ細かい研修となっています。共同研究の成果は書籍「女性の視点で見直す人材育成」としても刊行されています。
  
女性の視点で見直す研修 トランジション サポート プログラム
https://www.learningagency.co.jp/service/transition/
 

   
 ーーー
    
。AMAZONの各カテゴリーで1位記録!(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。
長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
また残業学プロジェクトのスピンアウトツールである「OD-ATRAS」についても、ご紹介しています。職場の見える化をすすめ、現場マネジャーが職場で対話を生み出すためのTipsやツールが満載です。ご笑覧ください。
    

対話とフィードバックを促進するサーベイを用いたソリューション「OD-ATLAS」の詳細はこちら
https://rc.persol-group.co.jp/learning/od-atlas/
   
  ーーー
   
「研修開発ラボ」(ダイヤモンド社)が、フルオンライン化して大幅リニューアルしました。人材開発の「基礎の原理」を学ぶことのできるトレーニングプログラムです。どうぞお越しくださいませ!
    
研修開発ラボ 特別講座「人材育成の原理・原則を学ぶ」
https://jinzai.diamond.ne.jp/seminar/SEMINAR0495/
  
 ーーー
   

     
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
    

    
 ーーー
  
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
      
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。利用人数20名までは「無料」だそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
    
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
   
 ーーー 
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約32000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

同じようなビルと、同じようなテナントが、果てしなく続くユートピア!?

2024.5.7 08:35/ Jun

同じようなビルと、同じようなテナントが、果てしなく続くユートピア!?

あなたの周囲では「従事軍」を見かけませんか?:モリモリに盛った「職務経歴書」の裏側にあるもの!?

2024.5.6 16:14/ Jun

あなたの周囲では「従事軍」を見かけませんか?:モリモリに盛った「職務経歴書」の裏側にあるもの!?

「わたしがチームから抜けたら、仕事が回らない」はイリュージョン(幻想)である!?

2024.5.3 08:41/ Jun

「わたしがチームから抜けたら、仕事が回らない」はイリュージョン(幻想)である!?

「余人をもってかえがたい」は「組織を腐らせる」!?

2024.5.1 08:35/ Jun

「余人をもってかえがたい」は「組織を腐らせる」!?

自分の身体をどのように用いて、相手にプレゼンテーションを「お届け」するのか?:演劇の知とリーダーシップ!?

2024.4.26 10:34/ Jun

自分の身体をどのように用いて、相手にプレゼンテーションを「お届け」するのか?:演劇の知とリーダーシップ!?