NAKAHARA-LAB.net

2021.1.28 08:24/ Jun

人材開発・組織開発のアルバイトをしながら、人材開発・組織開発を学ぶ?:コロナ禍で変わりゆく学生アルバイト!?

 人材開発のアルバイトをしながら、人材開発を学ぶ?
  
  ・
  ・
  ・
   
 コロナ禍で、大学・学部生の飲食アルバイトが減っています。
 コーヒーショップにイタリアンレストラン、ハンバーガーショップに焼き肉店。僕の大学が位置している池袋は、街中、いろいろな飲食店に、かつては、学生が働いていました。どこにでもいるので、教員としては「気が抜けない」。
   
「先生、こないだ、ラーメン屋にいたでしょう!」
    
 なんてことを言われたりすることが、ままあったことも、よい思い出です。
    
  ▼
    
 しかし、コロナ禍は、この風景を一変させました。
   
 そもそも、僕自身は、1年弱にわたり、月1くらいしか大学に行きませんし(授業はほぼフルオンラインです)、学生の姿は大学のキャンパスから消えました。さらに、学生たちの行っている飲食アルバイトは、ぐっと減ったのだといいます。
     
 オンラインで学生と1on1などをしていると、「バイトのシフトが入らない」「先生、金なーい」という声をまま聞くことがあります。非常にゆゆしきことです。
    
  ▼
  
 コロナ禍で、大学生をめぐる現状が大きく変わるなか、興味深いこともでてきました。
   
 わたしの専門とする人材開発・組織開発の民間企業の皆さんのなかで、このような状況をご理解いただいている方が、学生にアルバイトやインターンなどを提供してくださっているのです(お声がけに、心より感謝します!)。
  
 たとえば、研修のZOOMオペレータ・研修のテクノロジーサポート
 昨今の研修業界は、かなりの研修がオンライン化しておりますが、ここの技術サポートなどを営業の方がやらなくてはならないケースが増えており、苦労なさっているようです。
  
 営業の方がはりつくと、本来の営業にかける時間が減り、売り上げがあがらないのです。私たちのケースでは、こうしたZOOMの操作や参加者対応を、学生にやってもらうというケースがでてきました。
    
 わたしのつとめる大学では、学生ひとりひとりが自分のZOOMアカウントをもって自由にグループワークなどができるようになっています。
 よって、彼らの多くはZOOMに慣れており、ブレークアウトセッションの割り当てなどはお手のものです。彼らは特段に訓練なしでZOOMの操作を行えます。
  
 また、わたしのゼミでは、年に一度、自分たちでオンラインワークショップを開発し、社会にお届けする、というワークショップの祭典「20’s展」をやっています(今年は3月6日です!お楽しみに!)。そんなこともあり、学生はワークショップのタイムスジュールを読み、それにあわせてZOOMなどの操作をすることには長けています。

 研修のZOOMオペレータは、ある程度、ワークショップ・研修設計を理解していつつ、しかもZOOMの操作に長けている必要があります。受講生対応も、ある程度、オンラインワークショップをやり尽くした経験が必要です。これが、コロナ禍ならではの「新たな仕事の創出」です。
    
 しかしZOOMの操作、研修への長時間の伴走は、緊張感をともなうものでもあります。そのため時給は飲食店で働く場合の数倍をもらうこともできているようです。素晴らしい!
  
  ▼
  
 他には、研修のワンコーナーをしめる「チームビルディング」や「ゲーム」などの開発を担当している学生もいます。
    
 最近の企業研修は、インタラクティブなものになっています。研修には様々なものがございますが、なかには、研修のワンコーナーで「チームビルディング」などが行われる場合もあります。アルバイトでは、それを学生に開発してもらう、ということです。
  
 新人研修や若年層向けの研修は、学生と年齢が近いところがあります。この研修のワンコーナーを学生に任せますと、より学習者に近い感覚のチームビルディング課題、ゲーム課題がでてきます。
   
 このようなアルバイトは、何もお金を稼ぐための手段だけではありません。学生はアルバイトのなかで、人材開発にとって大事なことを学んでいるようにも見えます。
  
 たとえば先だって、研修を開発していた学生は、
  
「研修では、相手本位にならなければならない。自分が何をしゃべるかではなく、研修受講者が何を受け取れるかを常に考えてほしい」
  
 というフィードバックをいただいていました(心より感謝です!)。素晴らしい学びです。
  
 他には、新人向けのOJTマニュアルの開発にチャレンジしている学生もおりますし、組織調査のデータ整理や分析を行っていた学生もいます。
  
 人材開発・組織開発の経験を、実社会で活かしながら、アルバイトにする、ということが、次第に生まれてきています。
(立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースの大学院生の場合は、ひとづくり・組織づくりの専門知識、データ分析手法を学んでいます。それよりもっと高度なことができるでしょう!)
  
  ▼
  
 このように、コロナ禍は、学生にとってたしかにシンドイ経験ですが、  
  
「自分の専門分野で、アルバイト・インターンを探す」
  
 ということのきっかけが生まれてきたことが、まことに興味深く思います。
 
 専門性を活かすので、お金も普通のアルバイトよりは時給が全然いい。しかも、自分の専門が、世の中で、どのようにかたちになっているかを学ぶことができる。
  
 しかもしかも、社会の皆さんから、ゴリゴリとフィードバックがもらえる。
  
 フィードバックに関して申し上げますと、学生というものは、教員の僕がいくら言っても、話半分でしかきかないこともあるものです。
  
「先生、また言ってる。うけるー」
  
 教員としては忸怩たる思いもありますが、同じ事を社会で働くビジネスパーソンから指摘されると、「しゃん」として、受け取ることが多々あります。多くの方々からフィードバックを受けて、ぜひ、成長してほしいものです。
  
 これは分野にもよりますが、
  
 すくなくともわたしの専門分野である人材開発・組織開発は、大学だけでは教えきれない!
  
 とも思います。社会で働いてみることで、知識や理論の必要性、データ分析の重要性がはじめて実感できる
   
 だから、アルバイトのしすぎは禁物ですが、うまくバランスをとって学業と両立する分には望ましいことのように思います。
    
  ▼

 今日は学生アルバイトのことを書きました。自分の専門である人材開発・組織開発で、日々の生活費を稼ぎながら、学ぶとができる学生が生まれつつあるのは、教師としては嬉しいことです。

 コロナ禍は、苦しい。
 しかし、コロナ禍を逆手にとり、新しい仕事を自ら創っていってほしい。
 
 と願っています。
     
 そのうえで、ぜひ、
  
 社会で揉まれながら
 社会に価値をお届けし 
 社会から価値に見合った正当な対価を得て
 社会に貢献できる人材になって欲しい
  
 と願っています。
      
 そして人生はつづく
    
  ーーー
      
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
  

新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
  
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)

   
  ーーー
     
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
   
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
   
  ーーー
  
ラーニングエージェンシーさんと中原研究室の共同研究により開発した「女性の視点で見直す人材育成:トランジションサポートプログラム」のご提供がはじまっています。ライフステージに応じて、役割移行を支援する、きめ細かい研修となっています。共同研究の成果は書籍「女性の視点で見直す人材育成」としても刊行されています。
  
女性の視点で見直す研修 トランジション サポート プログラム
https://www.learningagency.co.jp/service/transition/
 

 
 ーーー
    
。AMAZONの各カテゴリーで1位記録!(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。
長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
また残業学プロジェクトのスピンアウトツールである「OD-ATRAS」についても、ご紹介しています。職場の見える化をすすめ、現場マネジャーが職場で対話を生み出すためのTipsやツールが満載です。ご笑覧ください。
    

対話とフィードバックを促進するサーベイを用いたソリューション「OD-ATLAS」の詳細はこちら
https://rc.persol-group.co.jp/learning/od-atlas/
   
  ーーー
   
「研修開発ラボ」(ダイヤモンド社)が、フルオンライン化して大幅リニューアルしました。人材開発の「基礎の原理」を学ぶことのできるトレーニングプログラムです。どうぞお越しくださいませ!
    
研修開発ラボ 特別講座「人材育成の原理・原則を学ぶ」
https://jinzai.diamond.ne.jp/seminar/SEMINAR0495/
  
 ーーー
   

     
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
    

    
 ーーー
  
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
      
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。利用人数20名までは「無料」だそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
    
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
   
 ーーー 
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約31000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

自分の身体をどのように用いて、相手にプレゼンテーションを「お届け」するのか?:演劇の知とリーダーシップ!?

2024.4.26 10:34/ Jun

自分の身体をどのように用いて、相手にプレゼンテーションを「お届け」するのか?:演劇の知とリーダーシップ!?

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.24 08:22/ Jun

褒め方ひとつ間違えると「怯える、いい子」を量産してしまうメカニズムとは何か?

2024.4.17 23:54/ Jun

給特法、および、それにまつわる中教審審議に対する私見(中原淳)

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.17 08:17/ Jun

たかがタイトル、されどタイトル!?: 研究タイトルを「一字一句」正確に書いてきてね!

2024.4.15 08:05/ Jun

「タイパ重視の時代」だからこそ「時代遅れ!?のラーニング」を楽しむ!