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2021.1.26 08:33/ Jun

「手強い相手」と「対話」するための「腐ったミカンの方程式」!? : 対話型「金八」鑑賞法とは何か?

「手強い相手」と「対話」するために必要なものとはなにか?
     
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 最近、夜な夜な、中学生の息子「TAKUZO」と楽しみにしていることがあります。なにを隠そう、ネットTV(Paravi)で、「3年B組金八先生」を一緒に見ることです。
  
 何がきっかけになって「40年前のドラマ」を見ることになったのか、そのことさえも、今は思い出せません。
 ただ、何かの理由で、TAKUZOが「金八」を知ることになり、それを「見たい」といってきた。じゃあ、ネットでしかないから、契約するか、おれの財布もってこい、という話になったんだと思います。
  
 最初は、単純に、ぐだぐだ見ていたでした。しかし、シーズン1を終える頃には、僕は「興味深いこと」を発見しはじめました。
  
 何を隠そう、わたしは
  
 専門:人材開発・組織開発
 趣味:人材開発・組織開発
 特技:人材開発・組織開発
  
 です。
  
 本当にプロフィールに書いてある!
 http://www.nakahara-lab.net/profile
  
 寝てもさめても、自分の専門のことを考えています。
 今日は、そのことをお話ししましょう。
   
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 「3年B組金八先生」を現役中学生の息子と一緒に見るようになって、僕たち親子にどのような変化が生まれたか。
  
 それは端的に申し上げると、
  
「中学のこと」「勉強のこと」「将来のこと」など、なかなか、息子と対話できないことテーマを、親子で対話できるようになってきた。
 
 ということです。
  
 中学生のTAKUZOと、僕は、関係は悪くはないとは思います。まぁ、ことさらよいわけではないですし、喧嘩もしますが「焼き畑状態」になっているわけではない。
  
 ただ、彼も思春期真っ盛りの現役中学生です。「フツーの親子」がそうであるように、我が家においても、僕が何かTAKUZOに指摘すれば、口に出さないまでも「うるせー、オヤジ」的な反発はままあります。
 そうなると、僕も、けんかっ早いので、「なにこらー、おら、ちょっと来い!」って話になっちゃう。いつもの、我が家の見慣れた風景、いっちょあがりです。
  
 親になって痛感するのは、「子どもがもつ高度な技術」です。
 子どもというものは、親が何か説教をはじめたときに、ただちに「耳をふさぐ高度な技術」をもっているように思います。そりゃ、世界最先端の技術です。親が説教をしはじめたり、お小言をいえば、0.001秒で耳をふさぎます。
  
 とりわけ、「中学のこと」「勉強のこと」「将来のこと」といった話題は、なかなか話しにくい。すぐに、彼は「自分が責められた」と感じて、シャッターをガラガラと閉じてしまいがちです。
  
 そんな、わたしたちのコミュニケーションを変えてくれたのが「3年B組金八先生」です。「金八先生」は、僕とTAKUZOの「あいだ」に入り、僕らの「対話の素材」になってくれるのです。
 
 下の図を見てください。
  
 
 
「ビフォー金八(金八先生を見る前)」の僕とTAKUZOは、「中学のこと」「勉強のこと」「将来のこと」を話すときには、面と向かって、対峙していました。だからこそ、反発もしますし、葛藤もします。
  
 しかし、ウィズ金八の僕とTAKUZOは、ぼくらの「あいだ」には「金八」があるのです。この「第三項」をうまく用いながら、僕らは対話を行うことができる。
   
  ▼
   
 金八先生は「40年前」のドラマです。
  
 画面にあらわれるのは「現在の中学生」とはまったく異なる環境に置かれている「40年前の中学生」です。
 この意味で、「現在の中学生」と「40年前の中学生」は、まったく「異質な存在」と考えてもよい。だから金八は「虚構」です。
    
 しかしながら、それは単に「虚構」と言い切れない部分があるのです。
 40年たっても、両者には、まったく変わらない部分もあります。成績、偏差値に振り回される生活。親や先生への反発。恋愛や人間関係への悩み。そうしたものにおいて、「現在の中学生」と「40年前の中学生」は延長上にあります。だから、これは「現実」です。
  
 そして、この「虚構」と「現実」の混ざり合った「第三項」は、対話を促します。「第三項」と「現実」のあいだには「ギャップ」が存在しており、下記のような会話が、すぐに成立するからです。
  
 ーーー
 
TAKUZO「いや、いまのクラスは、こんなに荒れねーよ。40年前、やべー」
 
ぼく「そう? おれ、おまえの学校いったとき、たいしたかわんねーなと思ったけど」
 
TAKUZO「いや、違うよ。だって、こないだだってさ、あんなことがあって、こんなことがあって・・・・・」
 
 ーーー
 
TAKUZO「いやー、この進路は厳しいよ。受からないって」
  
ぼく「そう? この子はうかると思ったんじゃないの?」
  
TAKUZO「おれなら、ここは、あっちの高校受けるなー」
  
ぼく「そうか、おまえの進路からすると、それでもいいかもなー」
  
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 もうおわかりでしょう。
  
 「40年前の中学生」は「会話の呼び水」なのです。
 僕たち親子は、今とは少しだけズレていつつも、今とひそかに連続している「40年前の中学生」を「素材」にして「現役中学生=TAKUZO」の「今、ここ」を語っているのです。

  
 名付けて、対話型「金八」鑑賞法。
   
 というのは冗談ですが、これをやや抽象的に考えますと、ひとが「手強い相手」と対話していくときには、必要なものがあることに気付かされます。
  
1.面と向かって起こる葛藤をさける「第三項=会話の呼び水」
  
2.「第三項」を媒介しながら、それぞれが自分の意見を相手に伝えること
 
3.相手の意見を否定せず、受け止めること
  
4.2と3の繰り返し
  
 願わくば、これらのプロセスを通して、親と子どもが「同じ風景」を脳裏に描けるといいのですがね。それには、長い時間も必要なようです。
 
  ▼
 
 今日は、金八先生? 対話型「金八」鑑賞法をご紹介しながら、
 
 ひとが対話を行うために必要なこととは何か?
  
 を半分冗談、半分本気で考えてみました。
 別に、金八先生じゃなくてもいいんだと思います。良質な映画やドラマであれば、何が素材であっても、それは対話の素材になるのではないでしょうか。
 
 皆さんも、お気に入りの作品で、対話型「金八」鑑賞法、やってみませんか?
   
 そして人生はつづく
    
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「腐ったミカンが箱の中に一つあると、他のミカンまで腐ってしまう。他のミカンを救うためには、腐ったミカンは放り出さなければならない」
  
「我々は機械やミカンを作ってるんじゃないんです、人間を作っているんです
そして、人間の性根が腐りきってしまうことなんか、絶対に有り得ないんです、
それを防ぐのが我々教師じゃないんですか」
 
 金八、あついぜ!
  
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