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2020.9.24 08:07/ Jun

2020年は「TPCK元年」かもしれない!? : テクノロジーを利用しながら教える知識を、どこで学び直すのか?

 2020年は「TPCK元年」といっても過言ではありません。
   
 TPCKといってもダイゴではありません。TPCKとは「Technological Pedagogical Content Knowledge:テクノロジーを使いこなし教えることに関する知識」のことをいいます。
  
 要するに、
  
「オンライン教育」「ブレンディッドラーニング」など、IT技術を用いながら学びを提供することに関する知識・スキルのこと
  
 を想起すればよろしいかと思います。
  
  ・
  ・
  ・
  
 従来、「教えることに関する知識」とは、「Content Knowledge(教える内容に関する知識)」が必要とされてきました。
  
 かつてスタンフォード大学のLee Shulman(リー・シュルマン:ショーマンと発音するひともいますね)は、いまや古典となった研究(講演)のなかで、
  
 教える内容に関する知識(Content Knowledge)だけもってても、不十分ちゃうん。効果的に教えるためには「Pedagogical Knowledge」もいるでー
  
 といってのけました。
  
 Pedagogical Knowledgeとは「効果的な教え方に関する知識」ですね。先の「Content Knowledge」を「伝える内容(What)」とするならば、「Pedagogical Knowledge」は「教え方(How)」を意味します。
  
 そして、この「Content Knowledge : 伝える内容(What)」と「Pedagogical Knowledge:教え方(How)」の2つがオーバーラップする部分を「Pedagogical Content Knowledge:教える内容を踏まえ、教えることに関する知識」といいました。
  
  
  
 で・・・これが主張されたのが1980年代後半。流行したのが1990年代ー2000年代。
 時代は流れ、テクノロジーが進展し、インターネットが普及しました。
  
 爾来、30年・・・
  
 いまや「Pedagogical Content Knowledge:教える内容を踏まえ、教えることに関する知識」すら、不足が生じる事態が、近年生じているような気がします。コロナ禍は、この傾向に拍車をかけています。
  
 冒頭申し上げましたように、「Technological Pedagogical Content Knowledge:テクノロジーを使いこなし教えることに関する知識」といったものが注目されているのですね。
  
 シュルマンらによって、現代「効果的に教えるため」には、下記に示すように、3つの輪がオーバーラップするところにある、「Technological Pedagogical Content Knowledge:テクノロジーを使いこなし教えることに関する知識」が必要だという指摘がなされるようになっています。
  

    
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 問題は、この変化に、教える側の「学び」がついていくスピードです。
  
 テクノロジーといわれても、わたくし、文系ですけんのー
  
 とか
  
 オンライン教育とかいわれても、わたくし、アナログ派じゃけんのー
  
 といったかたちで、なかなか、その学びが進展しません。
 やってみると、たいした難しい話ではありません。プログラミング言語を覚えて人工知能を作れ、と言われているわけではない。ITのプロになれ、と言われているわけではない。要するに「重い腰があがらない」のです。やってみようとするか、やらないか、それだけの話です。
  
 しかし、一方、世の中は、まったなしで変化しつつあります。
 かくして「教えること」が「世の中の変化のスピード」に追いついていかない、といった事態が生まれつつあるのかな、と思います。日本は、おそらくTPCKの観点でいえば、「TPCK後進国」といってもいいでしょう。
  
  ▼
  
 冒頭、僕は「2020年は、TPCK元年といっても過言ではありません」といいました。
  
 1年前の2019年までほぼ20年、「板書とチョーク」で授業をしていた僕が、突然、コロナ禍で、変わらなければならなかったことを考えると、少なくとも、僕にとっては2020年は「TPCK元年」であったように思います。  
   
 あなたにとって、2020年は、どんな年でしたか?
  
 あなたの学校は、TPCK元年を迎えていますか?
  
 そして人生はつづく
   
  ーーー
       
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