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2020.5.15 07:25/ Jun

人はみな「自己矛盾」に囚われている!? 笑っている自分が、実は、他人から笑われていることに気づくこと:細谷功著「自己矛盾劇場」書評

 ひとはみな「自己矛盾」の囚われである
 しかし、自らが「自己矛盾」に囚われていることに、あまりにも無頓着である
   
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  ・
  
 細谷功著「自己矛盾劇場」を読みました。また、猛烈に面白い本でした。著者の知性に敬服しました。
  
 
  
 ここで自己矛盾とは「他人を指摘している自分こそが、実は、指摘される対象である」という皮肉な状態ことだと思います。
   
 たとえば、下記のような言葉が「自己矛盾」にあふれた言葉でしょうか。本書には、このような自己矛盾に満ちた言葉が、いわば「喜劇」のように取り上げられ、論じられています。
  
「これ、絶対、他人に言っちゃやばい話なんだけどさ」
(=自分は言っている)
  
「お前の意見を押しつけるな」
(=という自分こそが押しつけている)
   
「視野が狭い奴は、絶対に許せない」
(=絶対に許せない、という自分こそが、視野が狭い)
  
「他人の考え方に口だしするべきではない」
(=自分は、他人に口をだしている)
  
「全社一丸となって多様性を推進します」
(=全社一丸になれないひとを受け入れることが多様性なのではないか?)
  
「ネガティブな意見は禁止」
(=その命令こそがネガティブなのではないか)
  
「こちら、大変に有名な方なんです」
(=有名ならば、いう必要がない)
  
「わたしの長所は謙虚なことです」
(=謙虚なひとは、言わない)
  
「先進事例を真似したい」
(=真似した時点で、先進事例ではなくなってしまうのでは)
  
「ボトムアップでアイデアを出すように!」と社長から言われた
(=社長から言われた命令は、トップダウンでは?)
  
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 いやぁ、まいった「抱腹絶倒」。
 思わず、笑い転げてしまいました。
   
 でも、すこし考えると、背筋に寒いものも感じます。というのは、自分も「自己矛盾」に囚われていることに気付かされるからです。
  
 胸に手をあてて考えてみましょう。
 皆さんも、わたしも、こういう言葉をいつも「呪詛」のように使っていませんか?
  
 そう、著者が本書で述べるように、自己矛盾は、自分では気付きにくいものなのです。
 それはわたしたちは、自分が自己矛盾に陥らないためには、どのようにあればいいのでしょうか。それを著者は「メタ認知」に求めます。
  
 それでは、著者が語る「メタ認知」とは・・・
  
 それは、ぜひ本書を手に取ってみてください。
 ネタバレすると面白くないからね。
 
 

   ▼
  
 人間の知性とは、まことに「滑稽なもの」だと思います。
 どんなに自己を見つめようとも、なかなか自分を縛り付けるものには自覚的になれない。
   
 指摘している自分こそが、実は、指摘されている側に立っている。
 笑っている自分が、実は、笑われている側の人間である
  
 そういった「自己矛盾」から、ひとは、なかなか逃げることはできません。
  
 しかし、本書を読んだ後には、自分の発する言葉に、より敏感になれるかもしれません。
  
 今週末も、ステイホーム。
 読書で、よりよい一日を過ごせるといいかもしれませんね。
  
 そして人生はつづく
  
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