NAKAHARA-LAB.net

2019.5.13 06:45/ Jun

わたしが「リーダー」だなんて「おこがましい感」をいかに「変化」させるのか?:効果の高いリーダーシップ開発プログラムとは?

 わたしが「リーダー」だなんて「おこがましい」・・・
  
  ・
  ・
  ・
  
 仕事柄、たくさんのリーダーシップ開発に関する論文を、大学院生たちと一緒に読みます。立教大学大学院・中原研究室で僕が指導している学生は、D2の辻和洋さん、M2の伊倉康太さん、M1の加藤走さんの3名で、まだまだ小さな研究室です(ゼミには他にもご参加いただいている、志の高い方々がいらっしゃいます!)。
 せんだって、大学院・中原ゼミで、大学院生の加藤走(かとう・かける)さんに、面白い論文をご紹介いただきました(お疲れ様です&ありがとうございます!)。
  
 その論文は、
 
 あるリーダーシップ開発プログラムへの参加を通して、リーダーが、どのように「リーダーとしてのアイデンティティ」を発達させていくか?
  
 ということを探究した論文です(Miscenko, Guenter and Day 2017)。
  
 論文では「潜在曲線モデル」という手法を用いながら、リーダーのアイデンティティが時系列で、どのように変化していくかを調べていました。
 ここで「リーダーのアイデンティティ」とは「自分が、リーダーとして取り扱われること」に肯定的かどうか、というシンプルなものとします。
  
  ▼
  
 この論文が導き出した結論は、
  
 リーダーのリーダーシップアイデンティティの発達は「J字」を描く
  
 というものでした。
  
 つまり、あるリーダーシップ開発プログラムに参加した場合、
  
1.最初のうちは、リーダーのリーダーシップアイデンティティは「低下」していき、いずれ「底」をうつ
  
2.「底」をうったあとで、徐々に、もう一度、リーダーシップアイデンティティは高まっていき、「J字」を描くようになる
  
 ということです。
  
 なかなか興味深い知見です。
  
  ▼
  
 仕事柄、僕は、年間に何本かのリーダーシップ開発プログラムの開発・実施にかかわっていますが、この知見は、非常に「実務」的にも納得がいくものでした。
  
「全員が全員」というわけではありませんが、リーダーシップ開発プログラムのなかで、様々な課題を取り組むうちに、多くのリーダーは、いったんは「自分がリーダーとしてやっていけるか、どうか」に疑問をもつことがございます。
  
 すなわち、
  
 思っていたよりも、自分は「できない」
 考えていたようには、他者は「動かない」
 よって、わたしが「リーダー」なんて「おこがましい」のではないか
  
 と思うようになる方も少なくないのです。
  
 クルト・レヴィン風は、かつて、組織変革には3段階のモデルがあるとして、「解凍ー変革ー再凍結」という三段階モデルを提案しました。こちらは、もともと「組織レベルの変革のプロセス」を表現するモデルとして提案されたものですが、こちらを、今、もし仮に「個人レベルの変革」に「援用」するという知的暴挙が許されるのだとしたら、こうもいえそうです。
  
 すなわち「わたしが「リーダー」なんて「おこがましい」のではないか」という思いは、いわば「解凍」のプロセスにあたるのかな、と思います。それらに「変革」を加え、さらに「定着」(再凍結)させるためには、いったん「解凍」するプロセスが必要だとも言えるのかもしれません。
  
 しかし、いったん「解凍」されたリーダーシップアイデンティティを、解凍しておいたままにしてしまえば、グズグズのままです。それを「定着」の方向にもっていく必要があります。
  
 すなわち、いったんは低下したリーダーシップアイデンティティをいかに安定させ、向上させることができるか。
   
 これが、リーダーシップ開発プログラムの要諦です。
 研修転移研究の知見からも、研修転移(すなわち、研修やワークショップで学んだことを、しっかり実践させ、成果を現場で出してもらうこと)ためには、リーダー自身の自己肯定感(やれば、できる!感)を高めていく必要がございます。「J字」のごとく、最後の最後は、リーダーシップアイデンティティを「高める」。これが重要なことです。
  
  ▼
  
 今年も新年度がはじまり、様々なリーダーシップ開発プログラムがはじまりました。
 ちょうど今頃は、参加なさっている方々のリーダーシップアイデンティティは、「J字」の底か、ないしは「低下中」なのかな、と思います(笑)
  
 数々のチャレンジをへて、「J字」のごとく、大きく飛躍していただきたい。
 そのためのサポートを全面的に行いたいと願いつつ、忙しい毎日を過ごしています。
  
 あなたのリーダーシップアイデンティティは、いま、どういう状態ですか?
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
新刊「残業学」重版出来、6刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

   
  ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・ラーニングエージェンシー 旧:トーマツイノベーション著)が重版出来!1万部突破です!AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました!。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
  
新刊「組織開発の探究」発売中、重版4刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
   
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約11000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
   
友だち追加
  

 
 

 

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.3.29 08:06/ Jun

【参加費無料】リーダー育英塾2024募集開始!:特色ある学校づくり+持続可能な学校づくりを進めたいあなたへ!

ひとを褒める「語彙(ボキャブラリー)」を増やす!?

2024.3.22 08:31/ Jun

ひとを褒める「語彙(ボキャブラリー)」を増やす!?

20代ー30代のビジネスパーソンが陥りやすい「学びの死の谷(デスバレー)」!?

2024.3.21 08:12/ Jun

20代ー30代のビジネスパーソンが陥りやすい「学びの死の谷(デスバレー)」!?

2024.3.19 08:33/ Jun

私たちには見えている「将来の光景(vision)」!?:心ゆくまで知的に暴れてください!

なぜ?(why)と聞くより、How と What を聞け!:学生面談・部下面談をより有意義にするためのコツ!?

2024.3.15 10:38/ Jun

なぜ?(why)と聞くより、How と What を聞け!:学生面談・部下面談をより有意義にするためのコツ!?