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2022.5.24 08:14/ Jun

「言葉の貧困」は「実践の貧困」を生み出す!?:実践を豊かにする「共通言語」をもつことの意味!?

「言葉の貧困」は「実践の貧困」を生み出す!?
   
  ・
  ・
  ・
  
 今から20年ほど前、わたしが人材開発の研究に取りかかったころ、この国の「経営学」「人事管理」の教科書には、「人材育成」にわずか「1〜2ページ」くらいのページ数があてがわれ(ペラペラすぎて、ヒラヒラとページが舞いますね)、下記のようなことが書いてありました。
  
 要約すると、下記の通りです。
  
1.人材育成の手法にはOFF-JT(研修)、OJT(On the job Training)、自己啓発の3つがある
  
2.3つの手法の実施率は、いずれも大企業の方が中小企業よりも高い
  
3.中小企業には余裕がない
  
 以上。
 ピリオド。
 Fin(笑)
   
  ▼
 
 つまり、わずか20年前までは、人材開発を「語る言葉」が3つしかなく、圧倒的に「不足」していたのです。
 人材開発を「解像度を一歩高めて」語る言葉やボキャブラリーが流通していなかったのです。
  
 たとえば
  
 経験学習
 ストレッチ
 リフレクション
 フィードバック
 職場学習
 1on1
 越境学習
 オンボーディング
 組織社会化
 メンタリング
  
  ・
  ・
  ・
   
 今現在ならば、すこし勉強した方なら、使う人材開発の言葉は20年前には、一部の専門家しか知り得ぬ言葉でした。言葉が不足していることは、それ以上の悪影響をもたらします。
  
 冒頭申し上げたように、
  
「言葉の貧困」は「実践の貧困」を生み出す
  
 のです。
  
 当時は、人材開発を語る言葉は、OFF-JT(研修:Off the job Training)、OJT(On the job Training)、自己啓発の3つしかなかったので、それ以上、人材開発そのものの「プロセス」をよくしたり、改善していくために、人々が「共通言語」をもって語ることはできませんでした。解像度を高めて、より一歩踏み込んだ「デザイン」を行うことなどはできませんでした。
  
 極端なBADケースは、下記の通りです。今、2人の人事パーソンが「自社のOJTをよくするための会話」をしています。
  
Aさん「うちのOJT、なんかうまくいかないんだよね」
  
Bさん「OJTなんて、どこも、うまくいかねーよ。営業同行でも増やしとけば」
  
Aさん「それな」
  
  ・
  ・
  ・
  
 以上。
 ピリオド。
 Fin(笑)
   
 解像度がめちゃ低い会話です。OJTのなかには「営業同行」も含まれるでしょうから、語られている内容はトートロジー(同語反復:同じことを言ってる)です。すなわち
    
 OJTうまくいかないんだよね、だからOJT増やせばいいんじゃない
    
 と話していることになるのです。
      
 OJTをよくするために、OJT以上のことが語れません。
     
  ▼
    
 これが、人材開発を一歩進めて語る「共通言語」があるとどうなるか。
    
Aさん「うちのOJT、なんかうまくいかないんだよね」
  
Bさん「そうなんだ、ストレッチ(背伸びの仕事)を任せてるの?」
  
Aさん「それは足りてる。むしろ、やりすぎかも」
  
Bさん「やりすぎは見直しポイントかもね。じゃ、リフレクションは?」
  
Aさん「それは厳しいな・・・1on1も足りてないしな。その精度をあげるか」
  
 という風になるのです。今度は、OJT以上の世界を、より精度をあげて共通言語をもって話せていることがわかります。 言葉の豊かさは、実践の豊かさにつながる可能性があるのです。
   
  ▼
   
 わたしが何を申し上げたいか・・・それは「言葉を豊かにすること」の大切さです。
  
 たかが、言葉です。
  
 しかし
   
 されど言葉です。
   
 社会構成主義(言葉のやりとりが、現実をつくっちゃうよね、という考え方)を持ち出すまでもなく、
  
 Words create world(言葉は世界をつくる)
  
 のです。
  
 Words create practice(言葉は実践をつくる)
  
 といってもよいかもしれません。
  
 言葉が豊かになれば、ひとびとが共通言語をもって、一歩踏み込んで学ぶことができます。言葉があれば、解像度をより高めて、実践をデザインすることができるのです。
  
 だからこそ、わたしたちは、言葉を生み出すべく、「人材開発を研究」しつづけなければならない。人材開発を語る言葉を、より豊かに生み出すために。そして、人材開発をエンパワーしようとする方々は「学び続ける」必要があるのかもしれません。
  
 あなたの会社の人材開発のボキャブラリーは「貧困・飢餓状態」に陥っていませんか?
  
 そして人生はつづく
      
 ーーー 
  
ピアトラストさんとの共同研究で開発したミニミニ動画です。今回は「今さらきけないフィードバックです。ご笑覧くださいませ!
    

   
「今さらきけないフィードバック」
https://note.com/peertrust/n/n40eb6a51ae36?fbclid=IwAR0iFCI780BhmwmHorsVV8iyF6rl02_hAvVA9Ycbc7zIg4SCRK-mIz3jgGE
     
 ーーー
               
新刊「チームワーキング」がオンライン管理職研修になりました。JMAMさんからのリリースです(共同開発をさせていただいた同社の堀尾さん、ありがとうございました。中原は共著者の田中聡さんと監修をつとめさせていただきました)。どうぞご笑覧ください! 
      
リリースしました!「チームワーキング研修版」
https://www.jmam.co.jp/hrm/training/special/teamworking/
     
 書籍「チームワーキング」おかげさまで「重版」を重ねております。応援いただいた皆様に心より感謝いたします。
     
    
 
https://amzn.to/3esCOrW
            
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 ーーー
    
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  ーーー
       
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https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061   
  
  ーーー
   
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