NAKAHARA-LAB.net

2007.6.23 07:00/ Jun

THE NPO : アカデミズムと現場をつなぐ

 先日、留学中に知り合ったイベッタさんが、来日するとのことで、ランチを一緒にすることになった。
 彼女は、1年のうち半分をボストンのEDC(Educational Development Center)というNPOで勤務し、半分を故郷のマニラで過ごしている。
Education Development Center
http://main.edc.org/
 このたびの来日は、2年前から彼女が従事している「小学校の先生用の異文化理解プログラムの開発」の仕事の一貫であった。
 岩手大学の先生と協働で2年間かけて、カリキュラムをつくり、ワークシートをつくり、実際に岩手の小学校の先生を20名ほど集めてワークショップを行った。今回のワークショップでは、満足できる結果が残せたという。
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 前にこのブログでも話したことがあるけれど、米国の教育現場とアカデミズムを「つなぐ」役割として非常に大きな役割を担っているもののひとつに、NPOがある。
 NPOというと、なんか「小さな事務所」で「ボランティアな人々」が働いているイメージがあるけれど、それは違う。
 たとえば、先に紹介したEDCは、世界35カ国で320のプロジェクトを遂行するNPOで、そこには1000名以上の専任スタッフがいる。その様子は、ほとんど「会社」。「教育系の民間専門シンクタンク」といってもよい。その業務も、カリキュラム開発、システム開発、評価と多岐にわたる。
 こうしたNPOには、大学院で教育学を学んだ学生が、インターンとして働いている。ボストンが所在地なので、ハーバードの学生も多い。仕事をしているうちに、スキルや経験を積んで、コンサルタントとして独立するものも多い。博士号を取得している人も数多いので、大学の教壇に戻る人もいる。
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 「現場」と「アカデミズム」の連携が唱えられて久しい。多くの識者がそれを指摘する。
 しかし、そこで話題になっていることの多くは、「研究者は現場に尽くすべきだ」的な「精神論」か「現場に貢献するための方法にはこんな手法がある」的な「研究方法論」の話である場合が多い。
 そうした議論も必要だ。しかし、「現場とアカデミズムの連携を本気で考えたい」のであれば、二つをつなぐ組織間スキームを構築し、そこにうまくリソースが配分される「しくみ」を考えなければならない、と思う。
 米国NPOのいくつかが、大学と社会、大学と行政、大学と教育現場をつなぐ役割を果たしているのと同じような「しくみ」を用意しなければ、それはいつまでたっても、「研究者の資質」や「方法論」に還元されてしまう。
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 僕も、研究開発型のNPOを経営するひとりである。立ち上げからはや4年。ようやく事業は一定の軌道にのったように思えるし、Learning barなどの公開研究会も知られてきた。
 しかし、その活動は米国のそれと比べると、非常に限定的であり、心許ない。仕組みとしては、同じようなところをめざしているけれど、専従スタッフを抱えることのない我々の活動には限界がある。
 僕は将来何をするべきなのか・・・そして、何をしたいのか? そして、そのためには、アカデミズムと社会とのあいだに、どのようなスキームを構築するべきなのか?
 イベッタと話していると、つい、考え込んでしまう。

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