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2019.1.18 06:41/ Jun

あなたは、どんな「物語」を生きていますか?、あなたの組織はどんな「物語」に囚われていますか?

「自己」というものの成り立ちを「物語(ストーリー)」にもとめる学問的思潮のことを「物語自己論」とか「自己への物語論的アプローチ」といったりします。ここで読むのやめないで(笑)今日のお話は、難しいことは1ミリもございません。
    
「自己とは何か?」という問いに対して、わたしたちは、
  
 わたしって、過去に、あんなことや、こんなことをしてきた「ちょめちょめなひと」なの
   
 と語ります。
    
 これが「物語」です。
 物語自己論は、このように「自己」というものを「物語」でとらえようとしています。
  
 つまり、ひとは、それぞれ「自分を説明するための一貫したストーリー」をもっていて、それをもとに自己を「語り」、自己を確かめてると考えるのです。
 物語には、本人が他人に「わたしってちょめちょめなの」と「語る」ことで自己を実感する、という側面も多々ございます。
     
 自己とは物語である
 自己を物語ることで自己は意味づけられ、実感できるようになる
  
 これが物語自己論の中心的な考え方でしょう。
    
「物語自己論」「自己への物語論的アプローチ」は、いわゆる「社会構成主義」の学問的思潮のなかで、僕の記憶では1990年代後半ー2000年代あたりに注目されたような気がします。
  
  ▼
  
 先ほど述べましたように、ひとは、みな自分のストーリーをもっています。
  
 たとえば、大学生の場合、わたくしの周囲の事例で恐縮ですが、
  
 「過去に・・・なことがありました・・・私なんかが、人前にでるのは、おこがましい」
 「過去に、わたしは、何もしていません。私はまだまだで、何かをやるには、まだはやい」
 「過去に、失敗がありました。私なんか、取るに足らないスキルや能力しかもっていない」
  
 といったような典型的ストーリーを、よく耳にするような気がします。
  
 「過去の失敗経験」などをひきあいにだし、「自分にはおこがましい」「自分はまだはやい」「自分は取るに足らない」・・・「だから、今、できない、今、しない」というストーリーが物語られることが比較的多いような気がいたします。
  
 能力やスキルだけを見れば、本当は「できる」のです。
 できるのにもかかわず、ストーリーに囚われて、跳躍する機会を逸するのです。
   
 どうやって、学生のもつ、この「物語」に「亀裂」を生み出し、背中を押すかが、教員としての僕の仕事です。
 ま・・・なかなかうまくいきませんけれども(笑)。
  
  ▼ 
  
 物語は「学生」だけのものでしょうか?
 いいえ「大の大人」、すなわち「社会人」だって、立派な「物語」をもって生きています。自己を「物語」によって意味づけながら、日々、忙しく生きている。
  
 たとえば、僕は、仕事上、次世代の管理職、リーダー候補の方々に出会うことが多いのですが、そうしたリーダーの場合は下記のようなストーリーをもっているような気がします。
  
 典型的なストーリーは下記のようなものです。
  
 「わたしは成果をだしてきたので、わたしの言うとおりにやれば、成果はでる」
 「過去の経験から、わたしが強く言ったり、圧力をかけたりしなければ、メンバーはまとまらない」
 「すべてのことは、基本的には、わたしがやった方がはやい。メンバーは基本的には信頼ができない」
   
 こうしたストーリーをもっているリーダーは、メンバーとの距離がなかなか埋まらない傾向があります。よって、管理職としての駆け出し期に、「つまづき」を経験するパターンがまま見受けられます。
  
 たとえば駆け出し期の管理職研修、フォローアップ研修で取り組むべきは、このストーリーをいかにアップデートするか、という課題です。
  
  ▼
  
 物語論では、本人が「囚われているストーリー」のことを「ドミナントストーリー(支配的なストーリー:Dominant Story)」といいます。これは「囚われ」ですので、これが「現実」とマッチングしていない場合には、やはりこれを書き換えていかなければなりません。
  
 書き換えられたあとの、新たなストーリーのことを「オルタナティブストーリー(もうひとつのストーリー:Alternative Story)」といいます。
   
 「ドミナントストーリー」から「オルタナティブストーリー」へ
    
 物語論の立場からみた場合、この「ストーリーの書き換え」こそが「学び」と把握可能です。大人の学びは、ときに「痛み」をともなうことがありますが、こうしたストーリーの書き換えが、どうしても、必要になる局面が多々あります。
    
 ▼
  
 今日は、物語自己論のことを書きました。
  
 物語論は「よのなかを見つめるためのレンズ」のようなものです。
   
 たとえば、
  
 Aさんってさ、なんで、あんなことをいったんだろうね?
 本当に性格悪いよね。根性、ひんまがってよじれて、途中で枯れてるんじゃないの!
   
 という個人を非難するような事例があるときに、物語として現実を見る視点がわかっていれば、
  
 Aさんってさ、なんで、あんなことをいったんだろうね?
 Aさんに、あんなことを言わしめた理由は、Aさんが、どんな物語に囚われているせいなんだろうね?
 Aさんが、その物語に囚われるようになったきっかけってあるのかね?
  
 と考えることができます。
  
 もちろん、これが「ただちに解決」に向かうかどうかはわかりません。ただおそらく「Aさん、性格悪いよね。根性、ひんまがってよじれて、途中で枯れてるんじゃないの!」という「個人の性格オチ」で「思考停止」してしまえば、この問題の「解決策」は限りなくゼロです。
  
 それよりは、「Aさんが囚われている物語」を解読し、場合によっては、Aさんに働きかけ、「オルタナティブストーリー」を提案する方が、まだ事態が変化する可能性はあるのかな、と思います。
  
 いかがでしょうか?
   
  ▼
  
 ちなみに、今日は、「自己」を「物語」としてとらえる、というお話をいたしました。
 これを「組織」を「主語」にして、「組織」が有する「ドミナントストーリー」をいかに書き換えるか、という問題に置き換えれば、最近、大流行?の「対話型組織開発」ということになります。
  
「対話型組織開発」では、組織メンバーが有する「組織の語り方」を変えます。組織が有する「ドミナントストーリー」を「オルタナティブストーリー」に書き換えていく、語り方を変えていくのが、対話型組織開発です。
   
 対話型組織開発は、今になって、はじまった話ではありません。1990年代後半以来隆盛してきた物語論アプローチが「組織」に適応された結果、それが「組織開発」と重ね合わせられて、生み出されたものだと思います。
  
 学問は、すべてつながっています。
 そして、本当に大事なことは、いつだって、シンプルです。
  
 あなたは、自ら、どのような物語を生きていますか?
 あなたの組織は、どんな物語に囚われていますか?
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
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