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2018.12.13 07:07/ Jun

新刊「残業学ー明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?」好評発売中!:25000人のデータから解き明かす「残業問題」解決の秘訣とは?

 拙著・新刊「残業学ー明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?」(中原淳+パーソル総合研究所著)が光文社新書より刊行されました。
   

残業学ー明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?(AMAZON)
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 本書「残業学」は、2万5千人の方々にご回答いただいた大規模調査のデータを駆使して、
  
 1.残業はどのような職場や上司のもとで発生するのか、という根本原因を掘り下げること
 2.残業が、長期的にどのようなリスクを抱えるのかを論じること
 3.残業を抑制するためには、どのように組織ぐるみの工夫を行っていけばいいのかを
  
 を包括的に論じた本です。
  
 長時間労働に苛まれている働き手のみなさま、長時間労働是正になやむ現場マネジャーのみなさま、人事部・経営企画部・経営者のみなさま、皆様におよみいただきたい新書です。
  
 新書なので手軽に読むことができます。
 どうぞご高覧くださいませ!
  

  
  ▼
  
 新刊「残業学」は、パーソル総合研究所と中原が2年間にわたっておこなってきた共同研究の成果です。
 2万5000人におよぶ大規模調査の結果をもとに、残業がなぜ生まれるのか、それらのメリット / デメリットとは何か、残業をいかに抑制すればいいのかを、論じています。
  
 「論じている」と書きましたが、実は、本書は難しい文章がならぶ、いわゆる「論文」では断じてありません。むしろ、本書は「難しいことを、やさしく」書いてあります。
  
 本書の最大の特徴は、本書が「講義の実況中継形式」で書かれている
  
 ということです。
  
 中原が「教師」となり、大学、大学院の学生さんを対象にして、講義をするような形式で、本書が綴られているので、非常に読みやすく読むことができると思います。むかし、大学の受験参考書に「実況中継シリーズ」というのがございました。30年ぶりに、そのトーンを思い出して、書いてみたのですが、いかがでしょうかね。
  

  
 講義形式とっても、貴重な大規模データはフルに活かしてあります。また議論のレベルは落としていません。
 残業を、さまざまなデータと理論から、明らかにすることに挑戦しています。
     
 たとえば、残業が引き起こされるメカニズムの中には、
     
 職場のなかで、
     
 1.残業が感染する(職場の同調圧力のなかで、帰りにくい雰囲気が生まれる)
 2.残業が遺伝する(残業が多い上司の働き方が世代継承されること)
     
 といったことがありえます。
     
下記の図のように、職場の同調圧力は、若い世代ほど影響を受けることがわかっています。


     
 職場の同調圧力、残業を前提とした働き方は、しだいに、職場メンバーの働き方に影響を与えていくのですね。
      

 本書では、残業が引き起こされるメカニズムを、2500人の調査データを用いて明らかにしています。
     

  
 たとえば、本書の調査結果のひとつに、残業の悪影響を「残業麻痺」という概念でまとめたことにあります。
 長時間労働をおこなっているひとは、そうでないひとに比べて、「長時間労働によって、ストレスや病気のリスクを多々抱えつつも、一方で、主観的な幸福感を微増させていく傾向がある」のです。いわゆる「ランナーズハイ」。この「プチプチ幸福感」が、さらに、ひとびとを残業に向かわせてしまいます。本書では、これに警鐘を鳴らしています。
  

  
 それは、ストレスのなかで微増させていくプチプチ幸福感は、いわば「フロー(没我)」のような心理状態に近いものと思われます。「没我」ですので、怖いのです。くどいようですが、本書では、これを警告しています。
(残業をすれば、幸せになれるよと言っているのではありません!!!)
  

  
 巷を見回すと、一方で、ひとは、自分の残業を「武勇伝」として語り直す傾向もございます。本書には、いまをときめくイラストレータ「ヤギワタル」さんの作品が満載です。
  

  
 ちなみに、人生100年時代、仕事人生が長期化していく現代において、健康な限り長く働けないことは、中長期に個人にはリスクになり得ます。
 また、育児や介護など、さまざまな突発的出来事がひとを襲う現代にあって、長時間労働をなすひとびとは、そうした「訳ありの事情」が生まれれば、下記のように、離職につながってしまうリスクをかかえます。下記のデータは、「長時間労働をすればするほど、介護離職をせざるをえないと考えていくひとが増えていくこと」を示しています。
  

  
 長時間労働の問題は、「人生100年時代をいきるすべてのひとびと」にとっての問題なのです。
 要するに「みんなの課題」である、ということですね。今の時代を働くすべての方々に手にとっていただきたい書籍です。
    
 
    
  ▼
  
 それでは、つぎに、長時間労働は、いかに抑制すればいいのでしょうか。
 本書では、長時間労働抑制の「HOW」についても、しっかりとデータを用いて論じています。
  
 長時間労働の抑制といえば、巷では、よく「ノー残業デー」などが行われますね。
  

   
 しかし、それを行うだけでは、実際には、長時間労働を抑制することができません。下記に示すように、施策に対する組織メンバーのコミットメントをとりつけることが、とにもかくにも必要なのです。このあたりは、「理念研究のパラダイム」を長時間労働研究の研究パラダイムにあてはめてみました。
  

  
 残業施策については、「1ヶ月に死の谷(=効果実感が一番ひくく感じられる)」があることもわかっています。
  

  
 この「死の谷」をいかに乗り越えるのかがポイントです。
  
 なお、本書では、長時間労働の抑制のためには、
  
 1.時間の境界をはっきりとつけるハードな施策(外科手術のようなもの:PCシャットダウン)
 2.マネジメント力のアップ(漢方的な施策:人材開発)
 3.職場単位の組織開発(簡保的な施策)
  
 の3点が有効であると論じました。その具体的な方法についても、本書の中で、すべて論じてあります。
  
 「外科手術」と「漢方」
 「人材開発」と「組織開発」
  
 さまざまな施策を組み合わせ、長時間労働を抑制することができると思います。
  
 なお、世にも珍しい章として「残業代」の分析も行っております。
 このたび、さまざまな分析を駆使して、わたしたちは、働く個人を「残業」に向かわせてしまうのは「仕事」の要因もあるものの、「残業代」であることを論じています。残業代にいったん浸かった生活をしてしまうと、本人も、家庭も、そこから抜け出せない構造が生まれるのです。
     

  
 詳細は・・・・ぜひ、手にとって、ご覧くださいませ!
  

   
 ▼
  
 最後になりますが、本書の執筆のために、多大なるご尽力をいただいた皆さまに、著者を代表して御礼を申し上げます。
 まず、私と共同研究を進めてくださったパーソル総合研究所の小林祐児さん、青山茜さん、 田井千晶さんに、心より御礼を申し上げます。何度も何度もくじけそうになりながら、皆さまと「残業学」の研究プロジェクトにチャレンジできたことは、私にとって本当に楽しいことでした。
 とりわけ小林さんにはプロジェクトマネジャーを務めていただき、心より感謝をしております。ありがとうございました。
   
また、同社・代表取締役社長の渋谷和久さん、副社長の櫻井功さんにもこの場を借りて御礼を申し上げます。「残業学」という学際的な研究がしたい。それも、独自のモデルでこの問題に迫りたい。今から2年ほど前、同社の渋谷さん、櫻井さん、小林さんに、このようなご提案をさせていただきましたが、これが大規模調査に結実し、本書の出版に至ったのは、 ひとえに皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。
   
 また書籍化に関しては、構成を担当いただいたライターの井上佐保子さん、光文社新書の樋口健さん、髙橋恒星さんにも大変お世話になりました。井上さん、樋口さん、髙橋さんとは素晴らしいチームワークを発揮することができましたありがとうございます。
  
 一冊の本ができるまでに多くの方々のご尽力と思いがございます。
 この本が、多くの方々に届きますよう、著者のひとりとして願っております。
  

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 以下、目次です!
  
  ーーー
  
「残業学」目次
  
■オリエンテーション ようこそ! 「残業学」講義へ
「働く人」=「長時間労働が可能な人」でいいのか
 残業は「データ」で語るべき
 ウザすぎる! 残業武勇伝
 残業が個人にもたらすリスク
 残業が企業にもたらすリスク
 必要なのは、「経営のためにやる」という発想
 なぜ、「希望」が必要なのか
 大規模調査のデータ
 コラム1 ここが違うよ! 昭和の残業と平成の残業
  
■第1講 残業のメリットを貪りつくした日本社会
 「日本の残業」はいつから始まったのか?
 底なし残業の裏にある2つの「無限」
 「残業文化」にはメリットがあった
 第1講のまとめ
   
■第2講 あなたの業界の「残業の実態」が見えてくる
 1位が運輸、2位が建設、3位が情報通信
 明らかになった「サービス残業」の実態
 第2講のまとめ
 コラム2 「日本人は勤勉」説は本当か?
   
■第3講 残業麻痺――残業に「幸福」を感じる人たち
 「月80時間以上残業する人」のリアルな生活
 「残業=幸せ」ではないが……
 「残業麻痺」と「燃え尽き症候群」
 「幸福感」と「フロー」の関係
 残業しても「見返り」が約束されない時代なのに
 ただの「達成感」を「成長実感」にすりかえるな
 「努力」を「成長」と結びつける日本人
 「越境学習=職場外での学び」の機会の喪失
 第3講のまとめ
 コラム3 「男は育児より仕事」は本当か?
  
■第4講 残業は、「集中」し、「感染」し、「遺伝」する
 残業は「集中」する
 「できる部下に仕事を割り振る」は悪いことか?
 上司はつらいよ、課長はもっとつらいよ
 残業は「感染」する
 残業は「腹の探り合い」が 生み出す悲劇
 仕事を振られるのが嫌だから「フェイク残業」する
 「残業インフルエンサー」の闇
 「集中」「感染」が起こりやすい職業
 残業は「遺伝」する
 必要なのは「学習棄却」
 「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」しやすい職種は?
 第4講のまとめ
   
■第5講 「残業代」がゼロでも生活できますか?
 生活のための「残業代」
 残業代を家計に組み込んでしまうと……
 残業代が減ると、損をしたような気持ちになる
 「生活給」という思想
 上司の指示が曖昧だと、部下は残業代を当てにする
 解き明かされた残業発生のメカニズム
 日本全体で残業を「組織学習」してきた
 第5講のまとめ
  
■第6講 働き方改革は、なぜ「効かない」のか?
 企業の「働き方改革」は本当に効果が出ているのか? 
 残業施策の失敗による職場のブラック化への道
 段階1 残業のブラックボックス化
 段階2 組織コンディションの悪化
 段階3 施策の形骸化
 施策失敗の「3つの落とし穴」
 原因1 「施策のコピペ」の落とし穴
 原因2 「鶴の一声」の落とし穴
 原因3 「御触書モデル」の落とし穴
 第6講のまとめ
   
■第7講 鍵は、「見える化」と「残業代還元」
 「外科手術」の4ステップ
 ステップ1 残業時間を「見える化」する
 ステップ2 「コミットメント」を高める
 ステップ3 「死の谷」を乗り越える
 ステップ4 効果を「見える化」し、残業代を「還元」する
 第7講のまとめ
   
■第8講 組織の生産性を根本から高める
 「外科手術」の限界
 マネジメントの変革編1 「罰ゲーム化」したマネジャーを救え!
 マネジメントの変革編2 「希望のマネジメント」に必要な3つの力
 マネジメントの変革編3 「やることはいくらでもある」わけがない
 マネジメントの変革編4 部下への声かけは「2割増し」で
 マネジメントの変革編5 「抱え込み上司」にならないために
 組織ぐるみの改革編1 「残業の組織学習」を解除する「3つの透明性」
 組織ぐるみの改革編2 重なりあう「マネジメント・トライアングル」
 組織ぐるみの改革編3 「希望の組織開発」の鉄板フレーム
 組織ぐるみの改革編4 組織開発を実際にやる際のコツ
 組織ぐるみの改革編5 豊田通商を変えた「いきワク活動」
 第8講のまとめ
 コラム4 「やりっぱなし従業員調査」はなぜ生まれるのか
 コラム5 会議のムダはどれだけあるのか?
   
■最終講 働くあなたの人生に「希望」を
 残業と日本の未来
 「成果」の定義を変える――「努力+ 成果」から「時間あたり成果」へ
 「成長」の定義を変える――「経験の量」から「経験の質」へ
 「会社」の定義を変える――「ムラ」から「チーム」へ
 「ライフ」の定義を変える――「仕事との対立」から「仕事との共栄」へ
 平成が終わる今こそがチャンス
 「残業学」を学んだあなたへ 
  
■おわりに
 本書の調査概要
  

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