NAKAHARA-LAB.net

2007.2.1 05:00/ Jun

大学教員の評価

 先日、僕と同じ世代のある大学の先生が、こんなことを言っていた。
 —
 うちの大学では、授業評価の結果を個人が特定できるかたちで公開するかどうかで、公開するとしたら、学内にとどめるか、学外にも情報を出すかで、教授会が紛糾しています。
 僕のように若い教員はどちらでもいいのですが・・・それより教授会が早く終わって欲しい(笑)。
 でも、妙に強烈な抵抗をする人がいるのですよね・・・学問の自由だとか、プライバシーだとか。あれは一体何なんでしょう?
 現実問題考えてみると、あまり意味がないとおもうんですよね、そんなことを議論していても。
 自分の授業の評判、自分の評判なんて、自分の名前を検索窓にいれてググッてみれば、一発でわかるじゃないですか。学生たちが、すでに自分たちで授業評価システムをつくって、Webで公開している。
 学生のブログにもひっかかりますし。結構言いたいこと書かれているしね。たまには「2ちゃんねる」なんかにひっかかったりして・・・それにはヒヤッとしますが。
 我々教員は、既に、そういう時代に生きているのですよ。ほとんどの先生は、そういうサイトの存在すら知らないですけれども。
 —
 確かに、この先生の言うことは事実である。
 今や、インターネット上には、大学教員の評価サイトが溢れており、自分の授業の評価は白日のもとにさらされている。たとえば、下記のようなものが有名だ。
ミルキャン
http://campus.milkcafe.net/
 グローバルでは、下記のようなサイトがあり、600万人の利用があるのだという。
RateMyProfessor
http://ratemyprofessors.com/index.jsp
例えばハワードガードナーさんは?
http://ratemyprofessors.com/ShowRatings.jsp?tid=302535
 もちろん、こうしたサイトに問題がないわけではない。インターネット上の評価サイトに集められる意見は、そもそもサンプルが少なく、偏りがある意見も多く含まれる。そこで公開されている評価情報が、どれだけ信頼のおけるものなのか、に関しては議論が分かれるところである。疑わしいもの、怪しいものも少なくない。
 だけれども、忘れてはいけないことは、それは「もう既に流出してしまっている」ことにある。物事の是非を論じようと議題を設定する前に、議題になるべき事項は現実のものとなっている。
 いかに大学や教員が、ある種の権威をもって、キャンパスの事実を覆い隠そうとしても、「5つ星教員」と「1つ星教員」とレィティングされる教員がいること、その授業や熱意には差があると思われていること、は隠しようがない。インターネット上に投稿された内容は、「事実」として一人歩きをしはじめる可能性が高い。
 教員が自分に冠された「星の数」を知らなくても、教員以外は皆知っている。異議申し立てをしようにも、誰を訴えてよいのやらわからぬ状況の中で。
 それがよいことか、どうかの善悪判断は敢えてしない。大学教員として僕個人は、「正直、キツイなぁ・・・」と思うけれども。
 —
 今、「教育」の世界は、急速なオープン化の流れの中にある。「学校の中だけで通用していた慣習や論理」が急速に瓦解し、「学校の外の世界」と急速に接続しようとしている。
 数年前、「病院ランキング」が流行したとき、ある先生がこんなことを言っていたことを思い出す。
 「医者の世界は大変だねー。名医ランキングだってさ」
 数年後、自分もその渦中にあることを、かの教員は予想すらできなかったことだろう。
 「うわー、大学教員は生徒に評価されるんだって。Webで実名で公開されているって? うひゃー、大変だねー。」
 今日の日記を読んで、そう思った「あなた」。
 次の瞬間には、あなた自身が、まさに同じ立場にいるかもしれないのですよ。

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