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2017.11.30 06:12/ Jun

あなたの能力開発の責任は「誰」にありますか?

 あなたの能力開発の責任は「誰」にありますか?
  
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 かなり前の出来事になります。
   
 ある新入社員の皆さんの一群と、オチャケを飲む機会がありました。
 宴席自体は非常に楽しかったのですが、その場での、ある新入社員の方の発された「ひと言」が、気になって気になって仕方がなくて、宴席が終わったあとに、しばらく考え込んでしまったことを覚えています。
   
 その「ひと言」というのが、
  
 うちの組織には、まともな能力開発がないから、仕事ができるようにならない
  
 というものでした。
   
 いや、これが本当に「当該の組織が、まともな能力開発をしていない」のなら、僕は、それほどモンモンとはしないのです。
 ちなみに、その組織は、新入社員の育成として「1年間」を明確にかかげ、おそらく、研修制度などは、もっとも充実している組織のひとつでした。組織の提供する能力開発機会が、外部とくらべて質的に優れているかどうかは、測定をしているわけではないのでわかりません。
 ただし、専門の目からみて「その組織が、まともな能力開発をしていない」ということはないのではないか、というのが見たてでした。
  
 このとき僕は、脳裏でこんなことを考えていました。
  
 組織が、能力開発の制度や機会を充実させていくことは必要だ。
 しかし、ここには「組織の抱える能力開発のディレンマ」がある。
 組織が、能力開発の機会を洗練させていけばいくほど、もしかすると、そこに「寄りかかる個人」が増えていくのかもしれない。
 すなわち、自分の能力開発の責任は、自分には「なく」、組織に「ある」と誤解してしまう人が増えていくのかもしれないな、と。
  
 だとすれば、組織は、一方で「能力開発の機会」を整えつつも、一方で、「能力開発に依存しない状況」を創らなければならない、という矛盾に向き合うことになる。
 これは、組織の能力開発が抱える「ディレンマ」なのではないか、と。
    
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 ここで誤解をいただきたくないのは、
  
 能力開発を進めれば進めるほど、それに「寄りかかる個人」が増えていくので、だから、組織は能力開発を行うべきではない
  
 ということを、僕は短絡的に主張しているのではない、ということです。
  
 仕事環境が高度化・スピード化・複雑化していくなかで、能力開発の機会を増やしていくことは、まずは重要なことでしょう。
 しかし、一方で、能力開発を洗練化していけばいくほど、確立されたシステムに依存していく個人が増える可能性がある。このリスクを常に察知し、適切なメッセージングを行っていく必要があるのだろうな、と切に思いました。
  
  ▼
  
 今日は、組織が行う能力開発の抱えるディレンマについて書きました。
  
 あなたの能力開発の責任は「誰」にありますか?
  
 この問いに「あなた自身」なら、どう答えうるでしょうか?
  
 あなたの能力開発の責任は「誰」にありますか?
  
 あなたの「組織の新入社員」なら、この問いに、どう答えますか?
  
 そして人生はつづく
   
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