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2017.4.26 06:15/ Jun

「悪い知らせ」を相手にいかに伝えるのか?:Buckman, R.(著)「真実を伝える」書評

 いつか、その時がくるのではないかと「覚悟」していることがあります。
  
 実は、我が家は、親子代々、一族郎党つづく「胃がん家系」です(泣)。
 僕も、あまり胃腸が丈夫ではなく、また長年ピロッていたせいで(泣・・・除菌済み)、状態もあまりよくありません。若い頃から、気をつけなければと思い、半年に一度は、内視鏡での検査を受けています。「おっかない」ので、検査は鎮静剤下で行います。小生、見かけによらず、恐がりなので。眠っている間に、検査自体はすぐに終わります。
  
 しかし、何度経験しても嫌なのは「このあと」です。
  
「検査のあと、医師から検査結果を聞くこと」は、どんなに検査を繰り返してしていても、慣れるものではありません。
「今回、悪いものが見つかったのではないか」、という疑念が、どうしても頭をよぎります。毎回、検査結果を聞くために、診察室のドアをあけるときには、緊張で、手に汗を握っていることに気づかされます。
  
 ▼
  
 Buckman, R.(著)恒藤暁、平井啓、前野宏、坂口幸弘 (訳)「真実を伝える―コミュニケーション技術と精神的援助の指針」を読みました。
  

 
 ワンセンテンスで述べるならば、本書は「悪い知らせの告知指南書」です。
  
 お医者さんがいかにして患者に「悪いニュース」を伝えるのか、という視点で、臨床におけるコミュニケーションのあり方を論じた本です。
 コミュニケーションのあり方を47の原則でまとめるほか、告知自体のプロセスを6段階のプロセスとして考察しています。
  
 告知の現場は、まさに「修羅場」です。
  
 お医者さんは、信頼関係を築いたうえで、しかし、相手にとって「どんなに悪い知らせ」であっても、明晰に、かつ、率直に腹をわって伝えなければなりません。お医者さんは「本当のこと」を告げなければならないのです。
 しかし、お医者さんが「本当のこと」を伝えたからといって、相手がボールを拾ってくれるとは限りません。それは人の生き死にがかかった修羅場です。
  
 本書では、そうした視点から、「本当のこと」をつたえるときに、お医者さんが留意するべきポイントが整理されていました。
  
 要するに、
  
「本当のことを言うときは、気をつけなければなりません」
  
 なぜなら、それが「本当のこと」であり、本人が「知りたくない現実」であるからです。
 知りたくない現実は、人を「動転」させます。
     
 ちなみに、悪い知らせを伝えなければならないのは、医療の現場だけではなく、通常のシャバワールドでもよく見受けられます。そうした観点から読んでみると、大変勉強になりました。ちなみに、日本のお医者さんが書いた書籍としては、下記がございます。
   
Supportive environment:支持的な場所を設定する
 How to deliver the bad news: 悪い知らせをいかに伝えるか
 Additional information:付加的な情報をいかに伝えるか?
Reassurance and Emotional support :安心と緒的サポート
 
 の頭文字をとって、「SHARE」という4つのプロセスで難治がんの告知のあり方を論じています。 
  
 
 
 ▼
 
 今日は「悪い知らせの伝え方」について書きました。
  
 朝っぱらから暗い話題で、まことに恐縮なのですが、国立がんセンターの推計によれば
  
 一生涯のうちに何らかのがんになる割合は、男性で49%、女性で37%。
 すなわち、日本人男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんになる
  
 のだそうです。
 そういう意味では、この問題は他人事ではないような気もいたします。
  
 小生、「悪い知らせの伝え方」に対する書籍は、ほぼ出版されているものは読み尽くしたと思いますが(笑)、しかしながら、自らが「悪い知らせ」をうまく受け取ることができる自信は1ミリもございません。きっと狼狽すると思いますし、それが僕なんだ、と思います。そりゃ、するよ。
  
 とはいえ、「悪い知らせ」を伝えなければならない局面は、医療現場だけでなく、日常世界に広がっています。そういう視点で読んでみると、新たな発見があるかもしれません。
  
 お互い健康には気をつけましょう。
 半年後の検査、予約しよ。
 
 そして人生はつづく
  
 ーーー
    
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