NAKAHARA-LAB.net

2006.4.12 16:59/ Jun

この1週間を振り返る!:最後の全米教育学会ネタ

 全米教育学会、ようやく終わりました!
 もう1週間たってしまったんですね、本当に早いです。昨日来たばかりのようにも感じますけど。そんなこたー、ねーやな。
 それにしても、英語にもよーやく慣れてきた頃に、「バイナラ」ですね(相変わらず死語だねぇ)。これで、また、全く英語がうまくならずに帰国ってことね。で、帰国したら、仕事満載ね、これ、常識ね・・・トホホ。
 とにかく、もう最後ですから、今回の学会を振り返って、何が旬だったのか、キーワードだったのかを考えてみましょう。もちろん、独断と偏見極まりないです・・・一般性ゼロね。ほとんど備忘録に近い。
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 今回の学会を振り返って、「よー聞いたなぁ、またオマエさんかい」というキーワードは次のとおりです。
 1).Large scale assesment(大規模な評価)
 2).School leadership(学校でのリーダーシップ)
 3).Professional Development(教師の専門性向上)
 4).Sustainablity(持続性)
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 5).Narrative Approach(ナラティヴ・アプローチ)
 6). Design Research / Learning Science
 7).Neuro science / brain science(神経科学/脳科学)
 これに勝手きわまりない解釈をつけていくと、こんな風になりますね。根拠レスな新春大放談ということで、よろしく。
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 まず1)の「大規模な評価」とは2つがあります。
 1つは、ブッシュ大統領がすすめているNo child Left Behindの影響による、州全体、あるいは州を超えた大規模テストのこと。
 もうひとつは、日本でもマスメディアでおなじみ「TIMMS」「PISA」の結果でしょう。やはりアメリカでもTIMMSやPISAの調査結果を見て、「想像以上にやべー、どないしよ?」みたいな雰囲気はあるようです。
 まぁ、いずれにしても、学力を測定するということに関するニーズは、しばらくの間増すことはあっても、下がることはないのではないでしょうか。これは、地域間格差や階級間格差の問題も絡んでいるから、なおさらかなと思いますけれども。
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 2)と3)の「学校リーダーシップ」「教師の専門性向上」は1)に大いに関係があります。
 要するに、1)のように学業成績の多寡が激しく問われるようになって、「校長はどのようにすれば、学校を変革できるのか」「教師は教えるプロになれるのか」という問題が浮上している。ちょうど、前者がトップダウンの改革、後者がボトムアップの改革と言えるかも知れないですね。
 2)のリーダーシップは、あまり日本の教育研究では語られないことですが、きっとこれからどんどん注目されるんでしょうね。でも、リーダーシップを行使するということは、その背後にはResponsibilityが伴うわけです。そういう意味では、どうでしょうね?日本で注目されるだろうか。
 3)の「教師の専門性向上」の部分では、日本のLesson Study(授業研究)が、やっぱり注目されていました。数学だったら、どう進めるか、理科だったらどうするか、など教科単位の議論も盛んでした。もちろん、オンライン環境での専門性向上も、もはやアタリマエダのクラッカー状態になっている気がします。
 でも、それにしてもオモシロイよねぇ・・・。
 日本の授業研究って、「教師がお互いの力量を高めあうために無償でやりますよね」。まさか授業研究するからといって、余計に給料よこせー、って話にはならない。そら、ならんわなぁ。
 だけれども、アメリカはそうじゃないところもあるんですね。まず基本的に職員室というものがない学校の方が多いし、もともと教員の孤立化(isolation)が問題になっている国です。そして授業研究はエキストラの給料払ってやるところもあるんだって。
 こりゃ、オラ、たまげたね。
 授業研究の発表している人に対して、「いくらインセンティヴを払ったんですか?」という質問がフロアから寄せられるわけです。
 どっひゃーだな、おい。
もちろん、アメリカは過剰一般化の危険な国ですので、Lesson studyだったら、すべて金を払っているというわけではないと思いますけど。少なくとも僕が参加したセッションでは、そういう話がでていました。
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 4)は、そのままですよね。
 要するに「打ち上げ花火的研究」とか「自分の研究室の中だけで完結する研究」はアカンぞ、と。外部とうまく連携して、なるべく「持続可能な実践」を構築せよ、と。そのためには、教員、学校、大学・・・のあいだに循環的な関係「ecosystem」をつくらなければならないぞ、ということではないかと思います。
 実は、これは6)とも関係しますね。6)のデザインリサーチにおいて、いわゆるプレ=ポストパラダイムを採用しない場合には、クロノジカルな比較っていうのが王道になるのではないでしょうか。その場合は、やっぱり持続可能な実践でないとね・・・経年比較にならんから、一発屋だと。
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 ここまでがかなり教育現場によった話で、5)、6)、7)は研究的な流行かなと思います。
 5)のNarrative Approachについては、注目されはじめてからずいぶんと長い時間がたちましたが、具体的な事例が報告されていました。
 6)の「Learning Science」はどこのセッションも満員近かったです。ただし、今年あたりは、いわゆる「テクノロジ利用」の既存のプロジェクトが終わり、大規模プロジェクトに移行する境目だと思うんですね。
 そういう意味では、既存の発表も新しい発表はあまりなかったように思います。来年、再来年あたりが楽しみですね。
 7)の「Neuro Science/brain Science」はどのように利用出来るか、を模索している感じでしょうか。
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 というわけで新春大放談でした。
 さようなら、また日本でお逢いしましょう。
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