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2016.8.17 05:52/ Jun

研修やワークショップをした後は「シオシオのパー的に気疲れする」理由!?:感情をいかにマネジメントするか?

 講師やワークショップのファシリテータをすると、僕だけかもしれませんが、妙に「気疲れ」するものです。
  
 1日、そんなことをやると、気疲れと身体の疲労で「シオシオのパー」
 いつも寝るのは9時とおこちゃま並にはやい僕ですが、そういう日は、8時30分には床につくことがあります(笑)。はっきりいって、2歳児なみです。
  
  ▼
  
 それにしても、講師やワークショップのファシリテータをすると、なぜこんなに「疲れるのか」。
  
 かつて、その理由を僕は下記のような2点にまとめました。
  
研修講師やファシリテータの「密められた仕事」とは何か?(前編):ステータスのマネジメント
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/3270
  
研修講師やファシリテータの「密められた仕事」とは何か?(後編):バウンダリーのマネジメント
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/3273
  
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 要するに、講師やファシリテータは、会の間中、ステータス(参加者との権力関係)やバウンダリー(参加者との境界)を、上下左右に、びゅんびゅんと移動させながら、会を進行させていかなければなりません。
   
 状況に応じて、参加者の様子に応じて、これを行うということが、気疲れの原因であると、僕は論じました。
  
 しかし、考えてみると、もうひとつ大きなことがあることに気づかされます。
  
 それは何かと申しますと、
    
「感情のコントロール」
  
 です。
   
 研修の講師やファシリテータは、会のあいだ中、「役割演技として感情のコントロール」することを求められることに気づかされます。
  
 たとえていいましょう。
  
 まずは明るい方から。
 皆を安心させ、リラックスさせよう。明るく前向きに課題に取り組んでもらおうとするときには、特に嬉しいこともあまりないのですが「ニコニコした顔」をしますよね。
 研修講師やファシリテータは、「自分」というメディアを使って、明るい雰囲気をつくりだすことを行います。
  
 逆にネガの場合はどうでしょうか。
 ここは厳しいことをいわなアカンな、というときには「ギョロギョロと相手をみつめる顔」や「しかめっ面」をする
  
 例えば、敢えて「沈黙」をつくりだしたり、素の感情だと思われるものをだしてみたり。
 今、この場が厳しいメッセージを伝達するべき場であることを、自分というメディアをもちいてハイライトさせます。
  
 こんな風な感情の上げ下げが、研修講師やファシリテータの日常です。
   
 要するに
  
 講師やファシリテータとは、「パフォーマー」なのです。
 しかし、その舞台に、事細かに演技を指示する「詳細な台本」はありません。
 
 そして、場面場面で必要な「役割演技」をしたり、自分の「感情を上げ下げ」していることに、疲れてくるのだと思います。
  
  ▼
  
 ちょっと話はとびますが、一般に、人材開発を専門とする人に、こんな資質が求められるといいます。
  
 「明るいこと」
  
 しかし、僕はちょっと違うな、と思っています。
   
 別に「ネクラ」でもいいのです。
 別に「明るく」なくてもいい。
   
 ただし、人材開発を仕事にしたい人には、
  
 「明るく振る舞えること」
 「明るく演じられること」
  
 は時に求められるんじゃないのかな、と思うのです。
  
 逆に、ネガティブな場合には、どうでしょうか。一般には、人材開発を志す人の資質としては、
  
 「厳しいことがいえるタフなマインド」
  
 が求められると言います。
  
 しかし、こちらも僕はちょっと違うな、という個人的感想を持ちます。
  
 こちらの方も、
  
 「厳しいことをいう、という演技ができること」
  
 が求められていることなのではないか、と。
  
 そして、たいがい、人材開発の現場にいる人は、僕がそうであるように「根が暗い人」だったり、あんまり「厳しいことをいうのが好きではなったりする」ので、それを演技しなければならない段になると「気疲れ」してしまうのかな、と思うのです。
  
 ▼
  
 かつて、アメリカの社会学者、ホックシールドさんは「感情労働(emotional labor)」という概念を創出しました。感情労働は、きっと、大学の教養の授業とかで出てくるんじゃないでしょうか。
  
 感情労働とは「自分の感情を抑制したり、わざとにぶくしたり、緊張させたりすることなどを、意図的に行わなければならない労働」のことをいいます。
  
 感情労働は、常に環境の変化に目をくばり、「自分自身の感情をコントロール」することが求められます。相手の行動や認知の変化にあわせ、そのつど、そのつど、自分の言葉や態度で感情を表出することが求められます。
  
 ホックシールドは、これらの感情労働が過剰になった場合、バーンアウト(燃え尽き)やメンタル不調などにつながる、としていますが、一部に感情労働的な要素を含む「人材開発の仕事」も、その危険がゼロではない、と僕は思います。
  
 ▼
  
 人材開発の仕事は、
  
 バウンダリーを意図的にひいたり
 ステータスを上下させたり
 そして
 感情をあげさげしてみたりする
  
 仕事なので、時に、十分な休息が必要ですね。
  
 ま、7月後半から8月中盤まで、僕は十分休みをとってしまったので、これから僕に休みはないわけですが(笑)
  
 そして人生はつづく

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