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2014.4.22 08:25/ Jun

インターンシップの6つのパターン!?:「安価な労働力」から「ファストパス」まで

 インターンシップとは、一般に「学生が、まだ教育機関に在籍しているあいだに、自らの興味関心に近い会社・組織において、短期間ー中期間の就業体験を行うこと」を意味します。
 こうした就業体験は、学生の「働くこと」に関する「適切な初期期待」や「明瞭なイメージ」を醸成することが期待できますし、自らのキャリアを考えるきっかけにもなりますので、個人的には「よいこと」のように思います。
 しかし、一方で、それを受け入れる企業にとっては、ただでさえ「ク●忙しい時期」に「学生の体験学習」を組織化しなければならないので、負荷・コストはそれ相応にかかります。
 先だってヒアリングさせていただいた、ある企業の採用関係者の方は(この企業では採用にインターンを紐付けて捉えています)、こんなことをおっしゃっていました。
「昔は採用担当は、”季節労働者”と言われていたんです(採用活動のないときがあったから)。
それが今は(インターンを1年中やっているため)1年間、常に”繁忙期”です。」
 この企業では年に100回を超える短期間のインターンを組織なさっているようです。
  ▼
 ところで、企業にとって、インターンをどのように経営活動に位置づけるのか、意味づけていくのかというのは、なかなか悩ましい問題です。
 それには、下記のように、いくつかの類型が存在しているように思えるのですが、いかがでしょうか。
1.安価な労働力としてのインターン
2.社会貢献としてのインターン
3.新規プロジェクトとしてのインターン
4.職場活性化としてのインターン
5.育成経験としてのインターン
6.採用活動としてのインターン
 まず第一は「安価な労働力なインターン」です。
 つまり、学生を受け入れても、あまり学習になることはさせず、「オペレーショナルな仕事」の一部を任せて、労働力の一部として使うということです。
 これは、インターンの趣旨とはかなりズレているようですが、ケアのないインターンは、これになってしまいがちです。
 第二に「社会貢献としてのインターン」は、インターンを企業のCSRに位置づけることです。企業にとっては、直接のメリットはないけれども、社会貢献としては実施しましょう、というスタンスです。
 また、インターンは、もはや国が推進しているものでもありますので、「義務化」といったら言い過ぎですが、企業としては「立場上、断れない」ところもあるようです。こうした動きもここに含めることにしましょう。
 第三に「新規プロジェクトとしてのインターン」です。これは、フレッシュな感覚をもつ学生のグループに、やる気のある従業員を加えてグループをつくり、これをきっかけとして、通常業務では行わない「新規プロジェクト」を立ち上げ、実施していくというものです。
 「イノベーション」というと大げさですが、そうした「新しいもの」を生み出すきっかけとして「インターン」を利用しようと考えます。
 第四には「職場活性化としてのインターン」です。これは、職場などに学生を配属させ、職場を「活性化」させるための触媒にインターンを利用することです。
 第五には「育成経験としてのインターン」です。これは、学生をケアする役割として社員をひとりアサインし、育成経験を担ってもらう、ということです。これは、育成経験をあまりもたない社員がいる会社で、時折行われるものです。
 そして最後、第六には「採用活動としてのインターン」です。これは、もうおわかりですね。インターンの最中に見所のある若者を選別してしまい、そのまま採用するか、あるいは就職活動にとってプラスになるような「ファストパス」を渡してしまうことです。
 さすがに「インターン終わったら、即採用」というのはケースとしてはまだ少ないようですが、明示的、ないしは非明示的に「ファストパス」が生まれることは、あり得ます(ただ就職協定に縛られている企業は、その存在を明示はできないと思いますが・・・)。
 ▼
 今日は、企業は「インターン」をどのように意味づけるか、ということで6つの類型を出してみました。
 実際には、これらは明確に別れているわけではなく、たとえば「3.新規プロジェクトとしてのインターン」と「5.育成経験としてのインターン」などが結びついていることがほとんどですが、この記事では、わかりやすいように敢えて別々に記述しました。
 最後に、学生さんにとって、このことからわかることは何か?
 それは、会社によってインターンの位置づけは相当異なり、また、そこで提供される体験も様々である、ということです。インターンといっても「十把一絡げ」で考えることはできません。
「学生の望むインターンのあり方」と「企業が望むインターンのあり方」がマッチすればよいですが、それはなかなか難しいことでもあります。
 中には「ペンペン草もはえないようなインターン」もありますし、「担当者が”やる気なし男君”なインターン」も存在します(ブラックなインターンが)。しかし、それも「社会」です。会社は「均質な価値を均等に提供してくれる教育機関」ではありません。
 インターンなら何でもいいや、と軽く考えるのではなく、やはりここでも「賢さ」が必要なようです。
 そして人生は続く
 ーー
追伸.
 5月9日、拙著「駆け出しマネジャーの成長論」が中公新書ラクレにて刊行されます。この本は、「実務担当者がいかにしてマネジャーになっていくのか」を扱った本です。人材育成研究の知見と、先達マネジャーの語りから、新任マネジャーが直面する7つの挑戦課題について、それをいかに乗り越えるかを考えています。記述は、新書スタイルで、一般向けになるべく平易に書きました。また玄人の方にもお読み頂けるよう、脚注も充実させています。どうぞご笑覧ください! 

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