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2005.9.28 14:36/ Jun

日本教育工学会に参加した

 徳島で開催された日本教育工学会に参加した。
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 今日の研究発表で個人的にヒットしたのは、富山大学の高橋さんの研究。「高齢者用のWebの階層構造はいかにあるべきか」というもの。若年層と高齢者のWebの探索過程を丁寧に追っていったものである。
 「高齢者には、常に選択可能なものを1画面で表示する」のがよいのだという。マウスオーバーやスクロールなどをなるべく廃したデザインをしなくてはならないそうだ。時間はかかるが、とてもよい研究だと思った。
 あと、森田さん@長崎大学の研究もおもしろかった。
 簡易型のVRシステムをどのように利用すればよいのか、という研究である。実験デザインがとても勉強になった。今後は、簡易型のVRシステムのコンテンツを開発し、それを学校に持ち込み、役立てたいのだという。非常に楽しみだなぁと思った。
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 1日目、ユビキタスラーニングのシンポジウムを拝聴する。
 個々の発表はオモシロイが、全体としてまとまりにかけていたところは残念だった。「ユビキタス」という概念の曖昧さの中で、モバイルもセンサー系も、学校も社会施設もすべてひっくるめて議論を行うのは難しいと思う。
 今後は、ユビキタスというものの指し示すものを、いくつかに整理する必要があるだろう。またそれが使われる場所、文脈を整理するとよいと思う。
 ジャストアイデアだが、「ユビキタス」という言葉を一切使わないで、議論をするというのもオモシロイと思う。ユビキタスという言葉は、人間の思考を停止させるマジックワードでもある。
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 シンポジウム終了後、静岡大学の大島先生とお会いする。「少し話しませんか」ということになり、個人的には、非常にこれが勉強になった。
 いくつか印象に残ったことをメモしておく。
■モバイルと学校
 現在、モバイルは学校教育を拡張していく技術として利用されている。要するに、学校がその中心にある。今、学校で局地的に行われている実践が、この技術を使うと、家庭、そして郊外へと拡張していく。
 学校教育がその中心にあるということは、そのオーガナイザーは教師ということになる。それは妥当なことなのか、ということが議論になった。
 僕も大島先生もそこには懐疑的であった。
 まず、それによっておこる教師の負担をどうするのか?という問題。また、仮にその負担を教師が引き受ける覚悟をもったとして、それが本当に「可能なのか」という問題。そして、それが仮にできたとして、局地的に非常に整えられた環境で成功したものを、普及させることには無理があるのではないか、という問題。
 結局、もし現状のままで学校を中心にしたモバイル利用を推し進めていくということは、「現場の先生方に、今以上、働けますか」という覚悟を迫ることになるのではないかと思う。
■戦略的な学び手の学習環境はそもそもユビキタスである
 そうなのである。本当に優秀な学び手は、自分のまわりにある環境を、ユビキタスな学習環境に変えていける能力をもっているのである。たとえば、電車の中、トイレの中・・・時に暗唱したり、自分に問いかけたり、書き付けたり。そうした隙間時間をうまく使って、優秀な学び手は、常に学び続けている。
 デジタルデバイスをつかって、ユビキタスな学習環境をデザインしようとする際、すでに戦略的な学び手が行っていることを子細に観察してみるというのもおもしろいと思う。
■ユビキタス学習環境のエコノミクス
 このことは、いろいろな場所で言っていることではあるけれど、そろそろ「RFIDタグの教育利用」においては、経済学的な制約を考えて議論を進めた方がいいように思う。
 たとえば、よくある研究に「RFIDタグをあらゆる場所に配置してユビキタス学習環境」とするといったものがある。しかし、これは、本当に実現可能性のあるシステムなのであろうか(技術的に実現可能であることはわかっている)。
 簡単に考えれば、以下のときにユビキタス学習環境を整備しようという話になる。
 学習サービス機関(学習者)が受けるベネフィット>RFIDを配置するコスト
 しかし、実は、この不等式は成立するのがとっても難しい。
 なぜなら、RFIDタグを使ったユビキタス学習環境において実現される学習は、たとえば、言語学習、など特定のサブジェクトを学ぶものになる可能性が高い。コストをかけ、RFIDタグを配置しても、specificなことしか学べない環境しかできないのでは、先のベネフィットが向上することは、なかなか難しい。
 
 おそらく、僕の予想では、実現可能なのは、1)博物館のハンズオン展示のナビゲーション(展示は、そもそもspecificなことを学ぶ場なのである)、2)既存のインフラにすでにRFIDタグが用いられ、そこにオプションとして、学習情報をのせうることが可能な場所に限られると思う。
 そろそろそのあたりを考えるときなのではないかと思う。
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 そんなことを考えながら、学会に参加した。

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