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2022.4.28 08:14/ Jun

あなたは、他者からの「提案」に対して「難しい」を連発していませんか?

 わたしたちは「それは、難しい」という言葉を「思考停止」して使っていないだろうか?
    
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 ちょっと前のことになりますが、ある方のご縁で(Nさん、ありがとうございます)、ファシリテータの森時彦さんにお会いしました。
    
 森さんといえば、名著『ザ・ファシリテーター』の著者であり(大学院の参考図書として掲げさせていただいておりました)、経営者でもあり、大学でも教鞭をとられている、とても著名な方です。マスク越しに1時間半、じっくり、ゆっくりと対話することができました。
    
 コロナ禍も、まだ収束していないのですが、このようなご縁がもてたこと自体に感謝しておりますし、お忙しいところお時間をつくっていただいた森さんに、心より感謝いたします。
      
  ▼
    
 森さんとの対話は、どの話題も、非常に興味深いものでしたが、個人的にもっとも印象に残った言葉は、
    
「それは、難しいですね」という口癖(習慣)こそが、組織変革を阻む
    
 というお言葉でした。
       
 確かに、わたしたちは、日々、様々な他者から「提案」を受けたりします。
 もちろん、その「提案」のなかには、実行が容易なものも、そうでないものもあるでしょう。
    
 しかし、そのフィジビリティ(実現可能性)をちゃんと判断する前に、ついつい、私たちは「思考停止」して、こういう言葉を、提案した相手に投げかけていないでしょうか。
     
「それは、難しいな」
「うーん、難しいんじゃね」
「ていうか、そりゃ、難しいよ」
     
 本当に、本当に、本当に提案内容が「難しい(=無理)」なら、それでいいのです。できるものは、できる。できないものはできない。
 ただし、森さんがおっしゃっていたのは、そういうことではないと思います。シャバで頻発していることは、そういう「知的誠実さの行使」ではない。
          
 むしろ、
      
「難しい」という言葉が習慣化・口癖化して、何を言われても、思考停止してしまう
  
 ということです。
  
 そして
  
「難しい」を連発する組織に「変革」は起こらない
     
 ということです。なぜなら「難しい」という一言で、問題を片付けてしまうからです。本来ならば「難しいけれども、それをどのように実現するか?」という風に問いが切り替わらなくてはならないのですが、「難しい」の言葉の破壊力は甚大です。あらゆる提案を「1秒」で破壊してしまう、悪気のない習慣化した一言、それが「難しい」です。
  
 慧眼だと思います。
 森さん、とても勉強になりました。
 ありがとうございました。
     
  ▼
  
 今日は「難しい」という言葉について考えました。
  
 あなたは、他者からの「提案」に対して「難しい」を連発していませんか?
 あなたの上司は「難しい」が口癖化していませんか?
  
 自戒をこめて
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
【ぜひご覧ください】
  
昨日はNHK総合「クローズアップ現代」「あなたの先生は大丈夫?教師の過重労働 その果てに何が」のスタジオでコメントをさせていただきました。先生の人手不足問題、長時間労働問題、給与問題を扱った番組です。見逃し配信が、5/4(水) 午後7:57 までNHKプラスで見ることができます(無料です:ただし登録必要)。どうぞご高覧ください。
  
27分間の「尺」(そのうちトーク部分はおそらく5分程度)のなかで「言えること」は限られています。スタッフの方々と入念に打ち合わせさせていただき、泣く泣く、削った部分も多々あります。言い足りていないこと、言い過ぎていることは多々あるかと思いますが、ご寛恕ください。
  
申し上げたかったことは
  
・教員の長時間労働の是正は、一丁目一番地
・教員の長時間労働の是正は「先生の課題」ではなく「みんなの課題」
・教員の働きがいの向上は、回り回って、「子どもの未来」に直結する
  
です。
  
今後、この問題が多くのひとびとの関心にのぼり、現場の課題解決につながることを願っております。最後になりますが、現場のスタッフの皆様、とりわけNHK報道局 社会部記者の能州さやかさん、NHK報道局 社会番組部 ディレクターの藤田盛資さん、キャスターの桑子真帆さんに心より感謝いたします。この番組をつくるために10数名の制作スタッフの皆さんが尽力なさったと思います。本当にお疲れ様でした。
  
【内容】
取材班に中学生から苦悩の声が…「国語と美術の授業が数か月間、全て自習のように」。担当教師が休職、代わりの先生がこないのが理由だが、生徒は「先生たちが多忙でかわいそう」と学校に掛け合うことはしなかった。教師の過重労働。国は働き方改革を進めてきたが、取材を進めると現場では勤務記録改ざんも。過重労働を背景に教員志望者は減少、教員不足が深刻化する負の連鎖も。学ぶ機会にまで影を落とす現実と教師の模索に迫る。
  
NHK総合「クローズアップ現代」「あなたの先生は大丈夫?教師の過重労働 その果てに何が」
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2022042730843?playlist_id=c62990e7-250f-4817-b8ed-8c3366df4c87

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