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2022.3.24 07:58/ Jun

「理論なんて実務に役立たない!」と言い張る人と向き合うときの3つのポイント!?

 ちょっと前のことになりますが、ある社会人大学院につとめる、若い先生から、こんなご質問をいただきました。
 対応が難しい社会人大学院生とのやりとりにまつわる質問ですね。このような質問というか(言いがかり)は、若い先生であればあるほど、受けます(笑)。おそらく、社会人が学ぶ大学院で教えていれば、3年に1度は、巻き込まれ事故のように出会っちゃったりします(笑)。
  
 大丈夫。先生、順調に課題を抱えておられるだけなんですよ。大丈夫。大丈夫。
 今日は、社会人大学院で教えていると、よくある社会人からの質問について、その対応を考えてみましょう。
  
  ▼
  
 若い大学の先生が抱えておられた課題とは、下記です。
     
「この道30年の実務家に、理論なんて実務に役立たない!、と言われたんです。こういうとき、先生だったら、どのように対応しますか?」
    
1.「役に立たない」と開き直る
2.「役立つ」と言い張る
  
 さて、皆さんなら、どのように対応しますか?
  
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 わたしなら、こうします。
 ごめんなさい。
 わたしの答えは、1でも、2でもないです。
  
 まず、ポイント1【問いをズラす】
  
 問いを「役立つー役だたたない」という二項対立の軸から大きく変えて、こんな風に、その方の「経験」を問います。あえてあえて言うならば、「現象学的な問い」を再設定する、といえるのかな。そのひとが、ある認識をもつその瞬間や、その経験を問うような問いに、変えてしまいます。
  
 曰く
  
中原「理論が実務に役だたたない、というお考えはわかりました。なるほど。それについてはあとで答えをだしましょう。ところでその前に、少し話し合いませんか?」
  
中原「Aさんは、理論が実務に役立たない、と思ったのは、どんな瞬間ですか? 過去にどんな経験をして、理論が役だたたないと、感じましたか?」
  
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 ・
 ・
  
 つまり、問いを「理論が実務に役立たない」という認識をもつにいたった、Aさんの「経験」「意識の流れ」の方に向けてしまいます。
   
 そうすると・・・たいていの場合、今まで「役立つー役立たない」という二項対立の問いに絡め取られていたAさんが、自らの経験を語ってくれます。
  
Aさん「実は、わたしは、ある企業で、人事部長をしているんですが、経営学には、ホニャララ理論って、あればどうもわたしの会社にはフィットしないんですよ。全然うまくいかない・・・先日も、こんなことがありましてね・・・」
  
 このように経験を聞き出していきます。
 Aさんのことを受け止め、つぎに話をクラスに広げます。

 ポイント2【クラスを巻き込み、対話する】
    
中原「Aさんは、先ほど、ご自身の経験を教えてくれました。Aさんと、同じ経験、あるいは、違った経験をなさった方はいらますか?」
  
Bさん「わたしは、メーカーで事業部門の人事をやっているんですが、ホニャララ理論って、ある意味であたってるな、と思うときもあります」
  
Cさん「僕は、このかた40年、人事をやってきましたが、昔は、ホニャララ理論があたってるところもあるな、と思います。でも、今の時代にあっているか、どうかは、どうもね。でも、役立つとは思いますよ。」
  
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  ・
  ・
  
 このようにクラス全員で対話を続けていくと、「理論が実務に役立つ」といっても、いろんなケースがありえることがわかってきます。みんなに共通している点もあるし、Aさんの会社だけが陥っているケースもありえます。
    
 ここまで来たら、クロージングです。
 最初に質問をくださったAさんには、こう言います。
  
「理論が実務に役立つのか、役立たないのかは、いろんなケースがありそうですね。どうでしょ。でも、Aさんが本気なら、この大学院の授業で、ともにその答えを探していきませんか?」
  
 ポイント3は「一緒に考えよう」ということです。
   
 このシャバの世界には、結局、3種類の教員しかいません。
  
 ビジネスパーソンから素朴な問いを受けたときに、「激高して、つっぱねる」か「萎縮して、いじける」か、「ともに考えよう」と言うか、その3種類です。
   
  ▼
  
 今日は「この道30年の実務家に、理論なんて実務に役立たない!」と言われたときに、あなたなら、どうするか、というお話を書きました。
  
 1.問いをズラす
 2.クラスで対話する
 3.一緒に考える
  
 これだけにも対応策はあるでしょうが、ご参考までに!
 若い先生は応援したいです。ま、20年選手の僕も、まだまだヤングですが(死語)。
   
 そして人生はつづく
    
【卒業おめでとう!】中原ゼミ2期生の卒ゼミ会。3期生が中心になって企画してくれました。ありがとう!
  

  
今年卒業する2期生とは、コロナ禍と「ともに」戦った年代でもありました。最後に、対面で、2期生全員と会えて嬉しいことでした。
   
 
  
社会は楽しい。いや、社会は、楽しくすることができる。
それぞれの、新たな舞台で、心ゆくまで暴れてください!
君たちの世代の逆襲・活躍を楽しみにしています!
   
卒業おめでとうございます!
そして人生はつづく
   

   
(写真は感染対策を行ったうえで、かつ、マスクを直前まで装着して撮影しております。なお、アルバムに3年生のはなこの写真がまじっていました。なんか、面白かったです!はなこ準備をありがとう!)
  

    
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中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
       
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
     
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
ピアトラストお問い合わせ
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