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2022.2.24 07:31/ Jun

教師をどのように育てるか!?:中央教育審議会・特別部会・基本問題小委員会における中原の意見

 せんだって、中央教育審議会・特別部会・基本問題小委員会という会合があり、不肖・中原参加させていただきました。
   
 今回のテーマは、
  
 教員養成系大学・教職課程(教師をどう育てるか)
  
 という超ヘビー級の内容(笑)。そんなん、1時間〜2時間で議論できませんがな(笑)。
   
 当日は、議論時間が限られており、要所のみを話したため、わかりにくい意見陳述になりました。下記に本来ならば、お話ししたかったことをまとめてあります。どうぞご覧くださいませ。
  
「教員をどのように育てていくか」という問題において、教員養成系大学の果たす役割」は少なくないと思います。ただ、現段階の議論は、課題解決として「解くべき課題」と「解決策」が、「クリア」に議論できていない気がします。何らかの思考のヒントになることを願っております。
  
【資料】中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会基本問題小委員会(第3回)・初等中等教育分科会教員養成部会(第128回)合同会議
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2021/1422489_00018.html?fbclid=IwAR1EkO63O5HAUsXcA_YLgvtVd0vy3Sv-_CbVFkiTOd4x0A_9mVUR4gB1q20
  
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中央教育審議会・特別部会・基本問題小委員会
中原の主張
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■教員養成系大学の学びのあり方を模索するにあたり
   
・教職課程にまつわる現状(as is)と将来(To be)
 の「ギャップ」が「クリアになっていない」ように見える
 
・教職課程に本質的に解決しなければならない課題とは何か
 がクリアになっていないように見える
 
   ↓
 
 何が「問題」なのかを明らかにして、そのうえで、
「教員養成系大学が果たすべき役割」を考えた方がいいのでは
ないだろうか?
(教員養成系大学を通して、実現出来る課題が何かがクリアに
 設定されているようには、残念ながら、見えない)
   
つまり、本日の打ち手の議論の「はるか手前」で、教職課程にまつわる
何の問題を、教員養成系大学のいかなる課題を通して、解決につなげたいのかを確認したほうがいい

  
   ↓(そいうでなければ、下記のようになる)
  
課題解決で「どハマリ」する3つの失敗パターンとは何か?:課題とってつけ王子にご用心!
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/13746
   
  ▼(そのうえで・・・)
  
(本来ならばデータを踏まえるべきだが、人材マネジメントの観点からは
 下記の4点が教職課程の役割として検討の論点にあがりうると思う。
 ただし、くどいようだが、教職課程の何が課題なのかがクリアではないので
  あくまで論点の提示にとどまる)
  
論点1.教員のなり手をさらに確保したい
  
論点2.力量ある教員をさらに育成して欲しい
 
論点3.高度な教育手法を教えて欲しい
   
論点4.現代的で社会的ニーズの高い教育内容を
 カリキュラムで取り扱ってほしい

  
 ▼(これが是という前提で、下記それぞれにコメントする)
 ▼(それぞれに本来はデータを踏まえた議論を行うことが重要)
  
(ちなみに、下記の4点は、新規の事項というわけではない。
 またすでに多くの現場で実践されていることでもある。

ポイントは、一部の現場でおこなわれているこれらの試みの
なかで、課題解決に本当に資するものがあるなら、その検討
をおこなうべきであり、ヒトモノカネを総動員することである。
くどいようだが、まず、なすべきは、現状と目指す未来のギャップ
、課題が何かに関する議論であり、それらを先行するべきである。

そのうえで、力量ある教員の採用・育成の仕組みを
正規化することである。
  
========================================
論点1.教員のなり手をさらに確保したい
========================================
  
この背景には
  
 1.長時間労働ができず、かつ、待遇があっていない
 ため、職場のイメージが低下し、採用力そのものが落ちている

  
 2.企業採用の早期化と、教員採用の遅さの解消
 (4年生春から、採用プロセスがはじまるのは遅い)

  
 がある。
  
 まず、1の長時間労働是正問題、待遇改善問題は「一丁目一番地」である。
 この問題の解決なくして、教員の人手不足は解決しない
(教員養成系大学の課題より、はるかに手前に、この問題がある)

 ヒトモノカネをつけること、と
 同時に、学校で為すべき事の選別。
 さらには管理職の意識向上を行うことが必要。
     
  ↓(その上で・・・もしやりうるならば・・・)
   
 ・初年次から、教職の魅力を伝える授業を増やす
 ・初年次から、不安を解消する機会を増やす
 ・初年次から、親向けにもメッセージングを行う
 ・初年次から、学校・教員に親しむ機会を増やす
  
 (Early Exposure:早期露出とコンタクト
  ポイントを増やすなどがありえる)

   
 (ただし教員養成系大学および、学校には
  リソースをつける必要がある)

   
 また、教育研究においては、長時間労働問題
 に関する研究をさらに強化する必要がある
   
   +
  
 2の教育実習の実施時期、教員採用プロセス」
 に関しては、企業の採用プロセスを研究して
 「前倒し」を検討する

 (教育実習を廃止するという議論は
  データに基づき慎重な議論が必要。副作用が大きい)

  
ただし、上記の採用プロセスの見直しは、採用のブランディング
 採用力強化にはつながらない。職場の改善、待遇改善こそが
 最大の採用メッセージになりうる

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論点2.力量ある教員をさらに育成して欲しい
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もし、これらが教員養成系大学の「課題」でありうるならば、
提示されている方向性はよいと思う

【理論と実践の往還を重視した教職課程への転換】
(教育委員会・現場と教員養成系大学の連携)
(教員養成系大学は「教育委員会や教育機関と
 連携して、学生を育成し、学校に円滑にトランジション
 させる機能を高めていくことを重視する」べきである)

  
「カリキュラム全体」を通して
  
 1.学んだことを教壇で実践する(Transfer)
 2.実践したことにフィードバックを得る(feedback)
 3.実践したことを「振り返る」(reflection)
  
 機会を増やすことが重要。
 模擬授業の実施、学校での実践などを増やす必要がある
   
 本日ご紹介いただいた
  
 学校インターンシップ(立命館大学)
 学校経験実習(北海道教育大学)
  
 なども一計である。
  
 これらの施策においては、
     
 1.行く「前」と行った「後」が極めて重要
  
 2.単なる「経験」にならないようにする
  
 3.「行って嫌になる」可能性もある
  (だから、長時間労働問題と
   職員室の心理的安全確保が重要)
   
4.「現場に負荷をかける」可能性がある
 (だから、長時間労働問題と
   職員室の心理的安全確保が重要)
  
 そのうえで
    
 ・意識付け、目的打ち込み
 ・フィードバックやリフレクションを
 ・大学内においてきっちりとることが重要
   
    ↓(それに加えて)
  
きっちりと資源(リソース)を投入することが必要
  
 1.教員養成系大学に対するリソース
 2.教育現場・学校に対するリソース
  
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論点3.高度な教育手法を教えて欲しい
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「子どもの学び」と「教員の学び」の同期させることが重要
  ↓
「学校においてこれから子どもが行う学び方」と
「教員養成系大学における学生の学び方」を極力同期させるべき
  ↓
 教員は「自分が学んだ方法」を「子ども」に実践する
   
「個別最適な学び」と「協働的な学び」が教職課程で学ぶ
  ex. CBTの取り組み(北海道教育大学)
   
「主体的・対話的で深い学び」で教員が教職課程で学ぶ
     
これらをすすめるために、リソースを導入し
教員養成系大学の環境整備を進めることが重要
     
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論点4.現代的で社会的ニーズの高い教育内容を
 カリキュラムで取り扱ってほしい

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・STEM教育、ICT教育、教育格差の問題など、
 現代社会にあった教育内容をカリキュラムで
 扱ってほしい
  
 単一の大学で難しければ、遠隔教育での実現、
 オンデマンド教育、単位相互互換の検討も必要
  
  ▼

・また教員養成系大学における従来の講座・
 教育内容に関しては見直しを行うことも検討するべき
    
  ↓  
      
 基本的には「免許」「目指す教員像(教師の資質)」
 「教員養成大学のカリキュラム(教育内容)」
 「組織体制」「試験」「教員評価」は
 ゆるやかな「一貫性」が必要である

  
 これらに「同期」が見られない場合、
本当は 必要な力量を「あとで現場でそのつど、その現場ごとに
 学ぶ必要性」がでてくる=現場のOJTですべてを
 拾わなくてはならなくなる

   
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5,まとめ
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このように教員養成系大学が果たす役割は少なくないl
  
ただし、教員養成系大学の何が課題なのか、
教職課程の「何」が「解決しなければならない課題」なのかが
クリアにみえない。
解決策による改善することで何が得られるかが、クリアに感じられない
      
学校インターンシップや、学校見学は貴重な試み
だが、それだけで課題解決が行えるとは思えない。
  
一方で、教員の採用数確保、人手不足問題は
個人的には、あの手この手、なりふりかまわずやっても、
現在抱えている問題の深刻さを埋めることは極めて
難しいと見積もる。とりわけ、長時間労働是正と待遇改善は
極めて重要な観点であり、教員養成系大学の見直し
以前に着手するべき課題である

  
また、残されている時間は、そう多くはない。
本当に学校機能の一部が機能停止に陥る前に
早期に対応するべきである
  
(民間企業的な感覚でいえば、すでに事業拡大ができないレベルに達し
今後、この問題を放置すれば、事業存続が危険なレベルのリスクが
生じていると見積もると思う)
  
  ↓
  
課題解決で「どハマリ」する3つの失敗パターンとは何か?:課題とってつけ王子にご用心!
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/13746
  
  ↓
  
・データに基づき包括的な見直しが必要であると思う
  
・また、この改革のためには教員養成系大学、現場に対する
 リソースが必要。これを現場の努力、大学の努力だけで
 解決することは不可能

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