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2007.7.5 07:34/ Jun

あなたの組織には物語がありますか?:Storytelling in Organization / Organizational Storytelling

 あなたの組織には、物語はありますか?
 組織の中の物語行為(Storytelling in Organization / Organizational Storytelling)というコンセプトがあります。
 いつものごとく、専門家に知られたら便所スリッパで「スパーン」と後頭部を引っぱたかれそうな”オレ流の解説”をしますと、こんな感じになります。
 —
1.人間とは「物語る」動物である。人間の生きている場、社会、集団には「物語」が満ちている。
2.物語とは「出来事」の連鎖である。「出来事」は「主人公」「脇役」「背景」などが複雑に絡み合って、構成されている。
3.人間が「物語る」のは、モノゴトを理解したり、伝えたりするためである。人間は「物語の形式」で、理解を進めたり、コミュニケーションを行ったりする。「出来事の連鎖」から、ハラのそこから納得したり、説得されちゃったりする。
4.組織の中には「物語」が満ちている。そして、そこに生きる人々の学習やコミュニケーションは、多くが「物語の形式」ですすんでいる。
5.組織にとって「物語」とは、人々がコミュニケーションをしたり、業務を達成したり、学習したりするための「手段」である。
6.業務改善、組織コミュニケーションの改善、人材育成、組織変革などの「手段」として「組織の中での物語行為」に焦点をあてた手法が注目されているってことです
 —
 うーん、うまく説明できないな。わかっていただけましたでしょうか。わかんなかったら、ごめん。
 つまり、当初、「組織」とは「物語行為」とは無縁の場所だと思われていたわけですね。「組織」みたいな「ハードな場所」に、物語みたいな「ソフトなもの」が存在するわけないだろう、と。
 えっ、物語? えーと、お話のことかい? 子どもの好きなお話? このクソ忙しいのに、組織人が、お話なんかつくってるわけないだろう?
 まぁ、こんな感じ。
 でも、組織研究者たちは次第に気づいていくんですね。うーん、実は、組織のコミュニケーションとか、業務遂行にとって「お話」は、実は重要な位置をしめてるぞ、しめしめ、ヒヒヒみたいな。
 正確にいうと、人文科学で起こった「Narrative Turn(ナラティヴ・ターン)」「Narrative approach(ナラティヴ・アプローチ)」という知的思潮の展開が、組織論にも波及した、ということなんでしょうけど。とにかく、彼らは「組織の中での物語」の「役割」と「価値」に気づいていった。
 したっけ、物語ってこれ、「使える」ンでないかい?
 北海道弁だったらこんな感じ。まぁ、北海道はどーでもいいけどよ、とにかくそう思ったわけです。
 胸に手をあててよーく考えてみれば(こう言われて、実際に胸に手をあてたヤツを知らない)、組織人だって、お話づくりしてるんですよ。あと、お組織の中では、大量のお話が、日々、語りつがれ、語り直されている。
 あの○○というスゴイ商品をつくった○○さんは、最初は窓際からのスタートだったらしいよ、それがさぁ、あるとき、こんな出来事がおこって、人生変わったんだよね。で、奮闘のすえ、○○が生まれた・・・スゴイ人っているよねー。
 みたいな「パーソナルヒストリー」もあれば、
 うちの会社は元来、○○という歴史をもっていた。創業者は、常に○○って言っていたんだな。だから、うちは、今、この事業に手をだすわけにはいかないんだよ。
 といったような「組織のヒストリー」もある。
 いいか、よく聞け。オレの若い頃はなー、今なんかよりずっと大変だったんだ。実はこんな出来事があってなぁ・・・ヒック、おい、生ビールおかわり!
 という、ワカモノにとっては「はた迷惑なストーリー」もありますね。
 要するに、「花金」になれば新橋あたりの「居酒屋」で、ネクタイを頭にまいたおじさんたちが話している話の多くは、すべて「組織の物語(Organizational lore)」ということになります。それは日々語られ、様々な人々によって解釈しされ、さらに語り直されている。
「おい、そりゃー、違うな、高橋さん。その話は、実は、こういうウラがあるんだよ。実はね・・・」
 みたいな感じ。
 で、実務家の方々は、「組織と物語」というキーワードにピピンときた。しめしめ、これを「組織改善」「組織コミュニケーションの向上」「人材育成」の手法として応用しよう、と。
 たとえば、
「上司が部下に経験を語ることで、部下育成をしようという試み」
「組織の価値を伝えるために、みんなでお話作りをする試み」
「組織の戦略や戦術を構築するために、みんなでありえる未来のシナリオをつくる試み」
 なんかがはじまるわけです。
 もちろん、いつものごとく、別々にやられているし、それぞれは全く他と関係しているなんて思われていますけど、根っこは同じです、根っこは。
 いずれにしても、中心には「物語を語る」「物語を聞く」「物語をつくる」という人間の根源的な知的活動が、「手法」として応用されている、ということです。
 かくして、今、密かに「組織の中の物語(Storytelling in Organization / Organizational Storytelling)」がブームになりかけているわけですね(もしかすると、まさか、オンリーマイブーム?)。
 —
 ところで、組織と物語、というとですね、先日、ある記者さんと、こんな話になりました。
 結局、組織構成員に「物語られる組織」って健全なんじゃないんですか。そこで創られる物語がプラスであろうと、ネガティヴであろうとさ、人々に「物語られてる」ってことは「そこに関心が残っている」ってことですから。
 一番ヤバイのは、「物語るものがない組織」「物語をつくろうにも物語が生まれない組織」「物語られない組織」。だって、もう、人の関心がないんだもん、どーでもいいんだ、そういう組織は。
 うーん、確かにそうかもね、と思った。
 そして、これがもし仮説として正しいとすると、「組織の物語」というのは、「組織の健全さ」をはかるバロメーターになるかもね、と。
 あなたの組織には、物語がありますか?

追伸.
 今日のエントリーは難しかったな・・・うーん、うまく説明できた気がしないなぁ、モンモン。

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