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2020.4.2 08:43/ Jun

「授業のオンライン化」とは、オンライン用に「もうひとつ別の授業」をつくることである!?

「授業のオンライン化」とは、オンライン用に「もうひとつ別の授業」をつくることなのではないか?
    
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 昨日、僕の勤務先の立教大学経営学部・学部長の山口和範先生から、経営学部の学生・大学院生に向けてメッセージがだされました。
    
立教大学経営学部:経営学部の新入生のみなさまへ
http://cob.rikkyo.ac.jp/news/3643.html
    
 山口先生は、吉岡総長(前・立教大学総長)の
   
「大学とは考えるところである。もう少し丁寧にいうと、人間社会が大学の存在を認めてきたのは、大学が物事を徹底的に考えるところであるからだ」
     
 というお言葉を引用しつつ、この未曾有の事態にあっても、大学は
   
「考えること、学ぶことを止めてはならない」
  
 とおっしゃっています。
  
 そのうえで、挨拶文のなかでは
  
「立教大学は、4月9日から、オンラインでの授業をスタートさせます。経営学部でも必修科目を中心に、学びの場の提供を行います」
   
 と宣言なさっておられました。これは、今年から立ち上がった「ひとづくり・組織づくりの大学院」であるリーダーシップ開発コースについても同じです。
       
立教大学大学院 リーダーシップ開発コース新入生の皆様へ
https://ldc.rikkyo.ac.jp/news/2020/0401/
      
 リーダーシップ開発コースにおいても、
    
「立教大学は、4月9日から、オンラインでの授業をスタートさせます。経営学研究科ではほとんどの科目を、グループワーク主体の科目も含め、オンラインとして開講し、皆さんの学びの場の提供を行います。」
    
 ということになっております。
     
 僕は、山口先生のお考えと思いに、心より共感します。
 そのうえで、自分にできることは、とにかくトライしようと思っています。オンライン授業は4月4日土曜日からはじまりますが、そこまで最善を尽くして準備を行い、新入生をお迎えしようと考えている次第です。
   
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 大学のレゾンデートルが「物事を徹底的に考えるところ」であるならば、「考えること、学ぶことをとめてしまった大学」は、その存在意義を見失うことになるでしょう
  
 考えることをとめない、学びをとめない、とは、大学という場所にとって「重い言葉」なのだ、と僕は思っています。
  
  ▼
  
 かくして・・・ここ最近「授業をオンライン化」するということにチャレンジしているのですが(泣)・・・実は、僕は学部・大学院ではパワーポイントなどのスライドを用いたことはほぼなく、これまで、20年弱、ほぼ「板書」で授業をしてきました(泣)
  
 もちろん「板書」をしている僕を撮影してストリーミングするということも不可能ではないですが、これは「ロックダウン」という事態も「まったくない」とは言い切れないことから、避けるべきかなと思いました。撮影スタッフがゼロになってしまうことを考えてしまうと、持続可能性がありません。
  
 だって、もし万が一、そうなってしまえば、
  
 教員も、スタッフも、学生も、みな自宅
  
 なのですから(号泣)。
  
 また、PCにいろいろ機器を接続して、こねくりこねくり回せば、板書に近いこともやれることもあるんでしょうけれども・・・万が一、ひとりで、すべて対応しなければならないことを考えると、あまり複雑なこともしたくありません。
   
 というわけで、ゼロから授業を考える、ということにチャレンジしております(号泣)。
   
  ▼
  
 ところで、すぐに授業スライドをつくりはじめて、すぐに気がついたことがあります。
  
 それは、
  
「自分の頭のなかにある既存の授業」は、いかに、「対面状況下のやりとり」や「自分という身体をもちいたパフォーマンス」に依存していたのか
  
 ということです。
  
 学生の集中力を持たせたり、注意を集めるために、教師は、黒板をノックしてみたり、いろんな発問をグリグリとしてみたり、教室を動き回ったりをしていきます。表情を変えたり、演じてみたり、ノンバーバルなコミュニケーションを駆使して、授業を行っています。逆にいうと、そういう即興的なもの、身体的なもの、そこで生まれるノリのようなものに頼っていた。
  
 しかし、今回、そういうものがオンライン授業では、使えない可能性が極めて高い。
  
 先生はマイクを使ってPCに向かう。
 生徒はマイクをミュートしながら、基本的にPCにうつる画面を見ている。
 何も工夫をしなければ、それだけです。
  
 そういたしますと・・・必然的に
  
 生徒の集中力をもたせることは、極めて困難になる
  
 という事態が生まれます。
  
 おそらく、オンライン授業を体験なさった多くの方々が、まず、指摘なさること「生徒の集中力をもたせるのに苦労する」は、かくして生まれるのかな、と思いました。
  
 かくして、次第に気づき始めたことは、下記のことです。
  
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  ・
  
 つまり「授業のオンライン化」という言葉自体が「誤解」のもとなんだ、と。
 (誤解していたのは僕だけかもしれませんが・・・)
  
 「授業のオンライン化」という言葉には、「既存授業を(そのままかえずに)オンラインで実施する=ネットを使って、今まで通りの授業内容をしゃべればいい」というニュアンスがどうしても入ってしまう。
  
 しかし、そうではないのだ、と思いました。
 おそらく、それでは
  
「生徒の集中力がもたず、授業として成立しなくなる可能性が高まる」
  
 のです。
   
 気づくのが遅いのかもしれませんが、
   
「授業のオンライン化」とは、オンライン用に「もうひとつ別の授業」をつくることなのだ
  
 と今更ながらに思いました。
 百歩譲るとすると・・・
   
「授業のオンライン化」とは、オンライン用に「もうひとつ別の授業」をつくるつもりで、腹をくくって、別のモードで、取り組んだ方がいい
   
 ということでしょうか。
      
 もちろん、既存授業をベースにしてもよいのですけれども、それをそのまま一字一句「ネット」を使ってマイクでしゃべっても、そのことで学生を「考えさせること」につながるとは思えない。
  
 むしろ「授業のオンライン化」とは、オンラインにあうように授業の内容、形式、活動を見直し、「もうひとつ別の授業」をつくることなのだ、つくづく思いました。
  
 つまり、授業のオンライン化とは「以前の授業をそのままネットで展開すること」ではないのです。もし学習効果を維持したい、高めたいというのであれば。
    
 経験者の方からは、
  
 気づくの遅い! あたりまえぢゃないか
    
 とお叱りをうけるかもしれませんが、今まで「板書」で授業を行ってきましたし、ZOOMを使うのも、ほぼはじめてです。
  
 しかし、それにはやく気づけたのは、よかったなと思います。
  
 かくして、具体的には、授業を下記のようにつくりかえることにしました。
  
1.まず授業を15分間の細切れのモジュールにしました。メッセージはシンプルにして、極力民にマムにしました
  
2.15分間に最低一度は、何らかの活動(学生からの反応を求める機会)を入れるようにします
  
3.投票機能(レスポンスアナライザ)、ブレークアウト、音声コントロール・・・手持ちの機能を十全にいかしながら、緊張感を保てるように、活動にバラエティを持たせます
  
4.グループワークに入るときには、必ず、個人で考えをまとめる時間をとります
  
5.グループワークは「その場のノリで、何とかしてください」では絶対に機能しないので、相当丁寧にインストラクションを行い取り組んでもらいます
  
6.30分に1度は、それまでの30分で学んだことを繰り返すフレーズ、スライドなどをいれます
  
7.授業の進度が、音声やネットワークのトラブルによって読めないときがあります。万が一、時間が足りなくなってしまったとき、また、時間があまってしまったときように、スライドを別に用意しました
  
8.万が一音声だけで授業をしなければならないときもありえるので、すべての資料は配付としました。音声だけでも、どこを注視して良いかわかるようにしました
  
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 これでうまくいくとよいのですが・・・。
  
 教育機関におつとめの方によっては、もう授業まで時間がない。明日からはじめなければならない、といった方もおられますよね。その場合は、少しずつ、少しずつ、既存の授業をベースにしながら、「オンライン用の授業のあり方」を模索していくことも一計かもしれません。

 僕の場合は、あと数日あります。残された時間にリハーサルを重ね、何とか安定的に授業ができるよう、準備を進めたいと思います。僕自身が猛烈に経験学習しています、最近は(笑)
   
 ▼
  
 今日は「考えることをとめない、学びをとめない」という山口学部長のお言葉をきっかけに、「オンラインで授業をつくること」について考えてみました。
  
 授業はあと2日で開始です。
 おそらく、わたしどもの授業は、経営学部でもっとも早くはじまる授業になるのではないかと思います。
  
 残された時間を有意義に使い、最後まであきらめず、試行錯誤を続けたいと思っています。
  
 そして人生はつづく
  
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