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2007.5.24 07:53/ Jun

なりたかった自分になるのに、遅すぎることはない:放送大学への期待

 元・一橋大学学長、元・政府税制調査会会長の石弘光氏が、放送大学学長に就任したそうだ。
 放送大学は、現在、大学・大学院あわせて在学生が9万2千人程度。本日の朝日新聞2面によれば、在学生は2003年に10万人を突破して以降伸び悩んでいるのだという。ここに年間80億の国費が投入されている。
 おおざっぱな統計ではなく、一年間にどういう人々が何人放送大学に入学してくるのか、どういうプロセスで卒業に到っているのか、がわかるとよい。
放送大学・在学生
http://www.u-air.ac.jp/hp/guide/guide06.html
 —
 朝日新聞によると、石弘光氏は「古い組織にしがみついていては前に進めない」と職員の前で挨拶し、学内には緊張が走ったそうだ。
「団塊世代の取り込み」「破綻した大学の学生の受け皿になれないか」「ネット配信を増やせないか」など、改革を考えていらっしゃるようだ。
 特に、「ネット配信」に関しては、ぜひ、実現して欲しいと思う。自分の身内にも、放送大学を利用した人がいたが、それができると格段に利用度があがると思う。
 放送大学では、現在も、周辺的かつ部分的にインターネット配信が行われているが、「インターネット配信を準備しています」という建前程度に実現されている感覚が否めない。ネット配信については、僕が幕張に勤務しはじめた頃から(2001年あたり)、「検討課題であった」が、今なお、まだ実現には到っていない。
 かつてはテレビ放送網を維持するのに莫大な費用がかかったため、他大学はコンペティターになりえなかった。しかし、いまやブロードバンド化がすすみ、比較的安い費用で、講義の配信が行える。
 放送大学以外の大学が本格的にネット配信をはじめ学位をだすようになってしまえば、放送大学の社会的意義は薄れてしまう。その前に、「動く」必要があるのではないか、と思っているのは僕だけだろうか。
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 もちろん、一連の改革が非常に困難なことは想像にかたくない。
 朝日新聞で石氏も指摘しているように、放送大学には「官僚的思考がはびっこって」おり、幹部・職員は文部、総務、財務からの出身者・出向者である。出向者の場合、基本的には数年でローテーションしてしまい、古巣に戻ってしまう。
 さらに、放送大学においては学長の石氏が最高ポストではなく、その上に放送大学学園長という文部事務次官の天下りポストがあるはずだ。ともに協力し、大学改革のリーダーシップを切ることができるか、今後が問われる。
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 放送大学のことになると、つい熱くなってしまった(笑・・・僕はつい2年前まで放送大学の横にある研究センターに勤務していたのです)が、僕はものすごく期待している。
 石氏は学長挨拶の中で、イギリスの小説家ジョージ=エリオットの言葉を引用している。
It is never too late to become what you might have been.
(なりたかった自分になるのに、遅すぎることはない)
「なりたかった自分になるのに遅すぎることはない」と、誰もが胸をはって言える社会を築くために、放送大学には、まだまだできることがあると思う。
 放送大学の今後を注意深くウォッチしたい。

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