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2019.12.11 08:54/ Jun

「生まれたての新規事業」が組織の中で「殺される」メカニズムとは何か?

 組織において「新規事業」がなかなか生まれにくいのは、「ひとと組織の要因」が大きいのではないだろうか?
  
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 こうした問題関心に基づき、田中聡さんと僕で編んだのが「事業を創るひとの大研究」です。最近、これに類する話題を、複数のビジネスパーソンの方々から、同じようなタイミングで聞きました。
  

  
「ひとと組織の要因」が新規事業の立ち上げを邪魔しているケースは、おそらく、この日本に多数あるんだろうな、と思われます。
  
 うかがったケースは、ディテールは異なりますが、こんな感じです。
 皆さん、それぞれの組織でご苦労が絶えないようです。

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「先生、うちの会社は、新規事業が生まれないわけではないんです。しかし、生まれたての事業を、組織内の既存の部門のどこに位置づけるかという問いをたてられることが多く、それで組織内でモメて、たいがいはポシャるんです。
  
 生まれたての新規事業は、組織のなかで「殺されている」んです。
 詳しく言うと、たいていのパターンは、こうです。
  
まず、採算がとれるかとれないかわからない新事業を、「組織のどの部門が面倒を見るか」という話を、たいてい、しはじめるんですね。
  
新規事業を組み入れられてしまえば、帳簿上、数字は厳しくなる。だから、どの事業部も、組み入れることに難色を示します。
  
そうやって、新規事業が「宙ぶらりん」になっていくのです。新規事業の担当者は「孤独」になっていき、最悪の場合、離職する。
  
新規事業は、まだオペレーションに堕ちていないので、担当者とともに流出です。そして、ポシャる。こうした悲劇を何度繰り返しても、うちの組織は変わりません」

  
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 いかがでしたでしょうか?
 日本のどの組織にも、多かれ少なかれ、この手の話は、生まれているような気がします。
 今回は、同じようなケースを、複数回、立て続けにうかがう機会があったので、非常に興味深いなと思いました。
  
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 組織は、よほどの成長市場にいないかぎり、「既存事業」を運営していくだけでは、いつかは「先細り」ます。
 新規事業によって、マーケットを拡大し、顧客を拡大していく必要がある組織の方がほとんどです。よって、組織に新規事業は必要です。
  
 しかし、問題は、採算が不透明な新規事業を、既存事業と折り合わせようとするときに悲劇が生まれます。
 今回の事例のように一時的に数字が下がることを忌避して、既存事業側が抵抗を示すパターンがゼロではありません。
  
 こうしたことを避けるためには、社長直下、あるいは、子会社をつくるなどして、既存事業と新規事業を性急に統合させず、運営するということもひとつです。あるいは、覚悟を決めて、新規事業を抱える既存事業に、予算をつけることを経営陣としてコミットすることです。
  
 ひとつ確実に言えることは、
  
「新規事業を、組織のどの部門が面倒を見るべきか」という「べき論」に性急に陥ってしまうと、視野は急激に狭くなります。みんな「自分の足下のこと」しか考えなくなるのです。そこで失われるのは「将来、組織をめぐる環境はどうなるのか? そのとき組織は、どうありたいのか? どんな事業ポートフォリオで組織を維持運営していくのか?」という一連の問いである
  
 ということです。
  
 最悪の場合、それぞれの部門が既存のまま温存され、新規事業は流出し、組織が変わる可能性が失われるのです。
 
 自分の足下は、あと。 
 真っ先に為すべきは「組織のありたい姿」を考えることである
 
 そのようにまとめてしまうのは、いささか乱暴でしょうか?
 
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 今日は新規事業についてお話をさせていただきました。
  
 あなたの会社では「生まれたての新規事業」が、組織のなかで殺されていませんか?
  
 そして人生はつづく
  
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新刊「事業を創る人の大研究」(田中聡・中原淳著)、発売10日で重版決定、AMAZONカテゴリー1位(リーダーシップ、オペレーションズ)を記録しました。本書は、「人と組織」の観点から、「新規事業づくり」を論じた本です。新規事業に取り組む人をどのように選び、どのように仕事を任せ、そして支援していけばいいのかを論じています。イノベーション人材、次世代経営人材を育成している教育機関の方にもおすすめの内容です。どうぞご笑覧くださいませ!
   

   
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