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2019.6.3 06:54/ Jun

目標を握るとき、評価をするとき、安易に「頑張ろう」と言ってはいけない!?

「頑張る」という言葉ほど、ひとによって「認識がズレる言葉」はない
  
  ・
  ・
  ・
  
 仕事柄、さまざまなフィードバックの場面に出くわします。
 ここで、フィードバックとは「部下などの成長のために、耳の痛いことやポジティブなこともふくめて、相手の行動の現状を通知し、相手の行動補正をお手伝いすること」です。フィードバックは「部下育成の根幹」です。これができるのと、できないのでは、雲泥の差があります。

 僕は、一応(なんちゃってで、いつもすみません)「フィードバック入門」「実線フィードバック」という本の著者です。また、大学・企業で、各種のリーダーシップ開発プログラムに関与しておりますので、リーダーシップを育むきっかけとしての「フィードバック」は、僕にとっては、いわば「主食」のようなものです(笑)。
  
 
  
 ほぼ毎日、誰かが、誰かにフィードバックをしている様子を目にすることになります(笑)。
  
 フィードバックは「主食」
  
 そして
 
 フィードバックは「ごちそう」
  
  ▼
    
 ところで、最近、様々なフィードバックの現場を観察させていただいていて、とみに思うのは、冒頭のことです。
  
 端的に申しますと、
  
 フィードバック場面で用いられる「頑張る」という言葉ほど、ひとによって「認識がズレる言葉」はない
    
 別の言葉でいいますと、
  
「頑張る」という言葉をつかって、上司・部下間で「期初の目標」を握ることほど、危険なことはない
「頑張る」という言葉をつかって、上司が「部下の評価」を行うことほど、危険なことはない
  
 ということになります。
  
 具体的にどういうことかと申しますと、下記のような場面を思い浮かべてください。
 下記は上司・部下間の目標設定面談です。敢えて極端に描き出します。
   

上司「今期の目標だけど、市況はかなり厳しいけど、昨年度10%増しです。頑張りましょう」
  
部下「はい」

    
 こういう風に目標を握ると、どうなるか。
 きっと・・・半年後の評価面談では・・・極端な話、こうなっていくと思うのです。
   

上司「今期の目標は昨年度の10%増だったよね。でも、できなかったから、Bということになります」
  
部下「ちょっと待ってください。たしか、目標は10%増しはわかっていますけど、たしか、市況はかなり厳しいことは、おわかりでしたよね。でも、市況は厳しいけど、頑張れとおもっしゃいました。
  
上司「いやいや、目標は目標なんだから、頑張っただけじゃダメなんだよ」
  
部下「いやいや、僕は、この目標を達成するために、課の共通の営業手法に加えて、自分なりのエリア拡大の工夫をしました。僕は頑張ったのです。だいたい、みなさん5%達成くらいですが、わたしは8%です。頑張ったのですから、そこを評価してください」
  
上司「いや、頑張っていない」
  
部下「いや、頑張りましたよ」
  
 ・
 ・
 ・
  
チーン(合掌)

  
 もうおわかりですね。
  
「頑張る」ということばが、いかに上司と部下で認識がズレるか。上司の方は、どちらかというと「頑張る=達成する」という意味で用いています。それに対して、部下の方は、「課の共通の営業手法に加えて、自分なりのエリア拡大の工夫」を「頑張る」としています。
  
 それほどまでに
  
「頑張る」という言葉は「守備範囲が広い」
  
 のです。
    
 だから、最後の最後は、
  
上司「いや、頑張っていない」
  
部下「いや、頑張りましたよ」
  
 の応酬になるのです。そして、この手の応酬からは建設的な関係、ソリューションは生まれません。たいてい、この手の応酬の最後に残るのは「感情のしこり」と「相手への不信感」です。
    
 フィードバックの場面を観察しておりますと、このように
  
「頑張る」という言葉ほど、ひとによって「認識がズレる言葉」はない
  
 ことに気づかされます。
  
 逆に言うとね、
  
 みんな「頑張っている」と思っている
  
 ということでもありますね。
 結果はともあれ。
  
 おそらくここで必要なことは、「頑張る」というゆるい言葉で握ったり、評価することではなく、より具体的で、相手の行動変化を明示するような言葉で、目標を握ることではないかと思います。「いつ、どんなときに、どのような行動をとって、どういう結果を出して欲しいのか?」を行動レベルで記述することが求められるのかなと思います。
 
  
  ▼
  
 今日は目標を握る言葉、そして評価の言葉として「頑張る」という言葉が、いかに認識がズレやすいかをお話ししました。
   
 もしかすると、ひとを評価する言葉、そして、ひとと目標を握る言葉として「頑張る」という言葉だけでは不足があるのかもしれません。
    
 わたしたちは、ひとを評価する言葉、そして、ひとと目標を握る言葉の「レパートリー(引き出し)」をもっと持っていなくてはならない
   
 のかもしれませんね。
  
 さて、自戒をこめて申し上げますが、皆さん、ふりかえってみて、いかがでしょうか?
  
 あなたが誰かと約束した「頑張る」の「中身」は、本当に両者で同じものですか?
    
 あなたと誰かで「頑張る」の「中身」が、よもやズレていることはありませんか?
    
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
新刊「実践!フィードバック」が重版2刷決定、前書「フィードバック入門」は4万部ほどです。耳の痛いことをいかに部下に通知し、そこから立て直しをはかることができるか。全国各所の管理職研修で用いられて居明日。はじめてリーダーになる方、管理職になる方におすすめの2冊です。どうぞご笑覧くださいませ!
      
 
    
DVD『フィードバック入門』・通信教材「フィードバック入門」
https://www.php.co.jp/seminar/feedback/
  
 ひそかに(笑)、PHPさん主宰で「フィードバック・カンファレンス」も実施させていただきます。
 どうぞお越し下さいませ!
     
 ■PHPフィードバックカンファレンス■
   
 開催日程:
 【東京会場】2019年 9月10日(火)13:00~17:00(12:10受付開始)
  
 内容:
 1.基調講演
 「組織活性化の未来――フィードバックの可能性――(仮)」
  中原淳先生(立教大学経営学部教授)
  
 2.事例発表
 (1)鹿児島銀行様
  お客さまにとって、いちばん頼れる身近な金融機関を目指す鹿児島銀行。
  人を育むパワーあふれる職場で、役職者を対象にフィードバック研修を実施。
  フォローアップも含めて職場での実践を重視した取り組みをご紹介します。
   
  2.事例発表
 (2)あずさ監査法人様
  監査法人にとっての財産は「人」そのもの。
  社会から選ばれる存在であり続けるために、
  人材育成を長期的な取組みとして捉えています。
  「フィードバック文化」の醸成を目的に、
  全管理職を対象に実施した研修をご紹介します。
  
 3.パネル討議
 「フィードバックの可能性と組織に導入する際のポイント(仮)」
 パネリスト:中原淳先生、事例発表企業の皆様
  
PHPフィードバックカンファレンス・お申し込み
https://www.php.co.jp/seminar/feedback/

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