NAKAHARA-LAB.net

2013.11.20 10:04/ Jun

議論するのは非効率!? 僕はひとりで考えてもいいですか?

 最近は、あまり経験することが少なくなりましたが、10年弱くらい前は、授業などでグループでの議論をうながすと、それに参加しない学生がでてくることが、ごく希にありました。
「どうしても議論しなくてはならないですか? 一人でやった方が早いかもしれません 僕はひとりで考えてもいいですか?」
 まー、わかる、言いたいことは(笑)。たいがい、こういう意見をもっているのは、いかにも優秀そうに見える、尖った学生で、頭に少し寝癖がついてて、だいたい、前の席の横の方に座ってますかね(笑)。
 今となっては、なかなか気骨のある学生だな、と思うところもないわけではないですが、授業を運営していく観点からすると、なかなか困った事態です。家で、いくらでも、ひとりで考えるのはいいんだけどね、授業ではね。
 何とかしなくてはなりません。
  ▼
 こういう場合、いくつか対応策があります。
 もっとも単純なのは授業のシラバスに、”この授業ではグループでの議論があること”が明示されていれば、それを持ち出して、
「おら、こういう方針で授業運営しているんだよね、書いてあるよね、授業の冒頭で確認したよね」
 と説明するやり方です。
 シラバスを書くこと、授業の一番最初に学生と「シラバスをにぎること」は、こうした観点からも、大切なことです。僕はどんな授業でも、一番最初のオリエンでは、シラバスリーディングを行って、必ず学生に問いかけます。
「今読んできたように、経営学習論という授業をやるけど、ここにいらっしゃる方は僕と、同じ船にのれますか? もし難しいなら、この授業をとるのはやめるという選択をとっても、ぜんぜんいいですよ。気分を害しませんから、遠慮なくいってください。皆さん、ほんとうに、いいですか?」
 ▼
 
 先ほどの気骨のある学生は、まだモジモジしています。ここまできたら「抵抗」すらしないものの、「あと一歩背中を押してあげなければ」、活動に「ノレ」ません。そういう場合は、「シラバス作戦」に加え、「あのねー、将来にとって大切なんだよ」という意味づけで迫ります。
「君は、”一人でできるから集団はいらない”と思っているかもしれないけどさ、話しあいで意見を出せるってのは、君の将来にとっても、大切な練習だよ。授業は練習だと思いなよ。
一般企業に就職したら、たぶん仕事の9割は、共同作業だよ。仕事にもよるけど、多くの場合、ひとりで仕事ができるわけじゃない。そこには話し合いとか、必ず入ってくる。
研究者になったら、ひとりで研究できるかっていうと、そうでもない。分野にもよるけど、今の研究の多くは共同研究だし、研究者は、思考を深めるために、たくさん、研究者同士で議論するよ」
 一般企業はいうまでもないことですが、研究者の場合でも、話し合いは大切だ、ということを述べます。「研究者すら孤独ではいられないということ」を明らかにしたのは、Dunberなどの近年の科学フィールド研究の知見ですね。
 こういう場合、こうした意味づけで、100%学習者の満足が得られるわけじゃないのですが、僕は、こんな感じで対処してきました。これがベストだとは思いませんが、まー、何とかかんとか。
 興味深いのは、こうしたかたちで、最初に抵抗を示した学生ほど、あとあと、ノリノリになる場合もあるということです。もちろん、すべてではありませんが。
 ▼
 今日の話は、グループワークと「人はひとりじゃいられない」という話でした。ちょっと前は、たまに「グループワーク」に加われない方も多かったけれど、最近は、こうしたこともめっきりなくなりました。
 それだけ、学生が慣れてきているのかな、とも思いますし、それはそれで、ほんのちょっぴり寂しいことでも?あります。「ほんとの困ったちゃん」は「マジなんとかしてくれ、困ったちゃん」なのですが、グループに加われないような「ちょっぴり困ったちゃん」は、それはそれで「かわいらしい」ものなのです。
「あまのじゃく」だね、全く(笑)。
 そして人生は続く。

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2025.7.4 16:20/ Jun

SHRM2025(米国人材マネジメント大会)報告:「巨大な嵐」の到来で、ある日突然、「DE&I」が放送禁止用語になった日、各社は今後どう動くのか?

「今、何が、流行っているの?」という問いかけ自体が「オワコン」であった件

2025.6.13 08:10/ Jun

「今、何が、流行っているの?」という問いかけ自体が「オワコン」であった件

2025.6.12 08:20/ Jun

【無料オンラインセミナー参加者募集!】あなたの会社の内定者に「良質な同期の関係性」を提供できていますか?:Z世代がつくる、Z世代のための「内定者フォローワークショップ」を体験してみませんか?

2025.6.11 07:38/ Jun

生成AIを活かしながら、経営・現場に「インパクト」を与える研修を、いかにデザインすればいいのか?:「研修開発ラボ」参加者募集開始!

2025.6.6 08:41/ Jun

登壇すると、わかります!:内定者フォローワークショップ完成成果報告会!