NAKAHARA-LAB.net

2008.10.9 07:56/ Jun

学びとは「悦び」であり、「痛み」でもある

 大人が学ぶことは「悦び」であるのと同時に、「痛み」でもある。
 かつて、ジャック=メジローという研究者は、変容学習理論の中の一部で、大人が学ぶプロセスには、
1)ジレンマ、恐れ、怒り、恥辱感などのネガティブな感情を伴う自己吟味が欠かせないこと
その上で、
2)今までアタリマエだと思っていたこと(assumption)の問い直しがはじまること
 を主張した。
 ちょっと誤解を受けるかもしれないけれど、この様子は「筋トレのメタファ」でも説明できるのかもしれない。
 僕は専門家ではないので詳しい話は知らないけれど、筋肉とは、極限まで追い込まれ、筋繊維が「壊れること」をきっかけに増強されるものらしい。
 筋トレをやる。激しいトレーニングで、プチッと筋肉が壊れる。「疲労感」や「けだるさ」、時には「痛み」が全身の筋肉に残る。疲れた筋肉をChill outするケアを忘れてはいけない。それを忘れると、時には「筋肉痛」として長く続く場合もある。でも、自分の体には、どこか昨日までの自分とは違った感覚がある。確かに、疲れた。でも、気分は「爽快」だ。
 これが「学びが痛みでもあり、悦びでもある」という状況に似ているのかもしれないな、と思った。「筋トレ」と「学び」、ミソクソ一緒にするなとお叱りを受けそうだけど。
 —
「働く大人の学びや変容」を研究として描きだそうとするとき、僕らは、明らかに「ポジティブなもの」、つまりは「悦び」のことだけに目を向けてしまいがちである。
 しかし、「悦び」の背後には、おそらく「痛み」とよばれるもの – 葛藤、緊張、矛盾、抵抗といったものが、おそらくは、ある。
 それをいかに誤魔化さずに、ちゃんと書くことができるか。僕はそれがまだできていない。これは僕自身の大きな課題なのかな、と思う。

ブログ一覧に戻る

最新の記事

「最近の学生」や「新入社員」を「十把一絡げ」にする「便利な言葉」が嫌いなのである!?

2025.8.31 08:12/ Jun

「最近の学生」や「新入社員」を「十把一絡げ」にする「便利な言葉」が嫌いなのである!?

2025.8.26 20:52/ Jun

【無料イベント参加者募集中】アンコンシャスバイアス研究の最前線!:アンコンシャスバイアスとうまく付き合う方法をさぐる!?

【イベント参加者募集中】若手社員と学生の本音から考える「新卒オンボーディング」

2025.8.25 18:16/ Jun

【イベント参加者募集中】若手社員と学生の本音から考える「新卒オンボーディング」

大学教育の改善は「データ」だけでは進まない!? : 高等教育機関のIRについて思うこと!?

2025.8.14 21:25/ Jun

大学教育の改善は「データ」だけでは進まない!? : 高等教育機関のIRについて思うこと!?

2025.8.7 19:10/ Jun

ポジティブフィードバックも、ネガティブフィードバックも学べる決定版!「増補改訂版 フィードバック入門」本日発売です!