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2006.12.9 23:44/ Jun

そのあとに私はどうすればいいのですか?:岩瀬大輔著「ハーバードMBA留学記」

 岩瀬大輔著「ハーバードMBA留学記」を読んだ。ハーバードビジネススクールに留学した著者の留学記。世界各国から集まった秀才たちとの交流から学んだこと、考えたことをブログ日記形式で綴っている。

 下記、本書中に収録された印象に残る話。
 —
 ひとつめ。
 世界最大の非営利組織であるハーバード大学の基金を運用するファンドマネージャの給料の話。
 ハーバードは、200億ドル(日本円で2兆3千億程度・・・)の基金をもつ巨額機関投資家だが、そのファンドを運営するマネージャは、給料が700万ドル(8億円程度)、彼のチームの稼ぎ頭は、3000万ドル(34億程度)の給料を得たそうだ。
 まぁ、1990年に就任した当時は、1兆円ほどであった基金を、2兆円を超える額まで増やしたのだから、まぁ、アタリマエといえばアタリマエなんだけど。
 30億稼ぐ大学職員って・・・・ありえん。
 たぶん世界で最も裕福な大学職員なんだろうね・・・。
 —
 ふたつめ。
 ハーバードビジネススクールの学生たちに語り継がれる下記の小話がとても印象的だった。ちょっと長くなるけど、引用しようと思う。
 —
 ギリシアのある小さな島に、一人の漁師がいた。
 男はまだ暗いうちから起き出して、波打ち際を歩くのが好きだった。波しぶきの音を聞きながら、少しずつ明るくなる水平線を見渡すと、自分が生まれるずっと前の雄大な歴史を感じることができるような気がするのだった。
 男は毎朝、海に出て、仕事をした。子どもの頃から海に出ていたから、船の上が自分の本当の家であるかのように感じていた。網をもって魚たちと真剣勝負で向かい合うのが、何よりも好きだった。大漁の日も、パッとしない日も、海はいつも彼に多くのことを教えてくれた。
 漁から戻るのは、いつも昼過ぎだった。彼は浜辺で仲間たちとその日の収穫を焼いて食し、残りの魚を小さな市場でわずかなお金と引き替えに売り、そのままフルーツや野菜、必要なものを買って、丘の上の小さな家に帰るのだった。
 家に帰ると、家族が彼を待っていた。やんちゃな子どもたちと外にでて遊び、食卓を囲んで、彼らの一日の冒険話に耳を傾け、寝静まったあとで、テラスにでて妻と酒を飲むのが日課だった。
 
 
 ある日の午後、彼のもとを1人の若い男が訪れた。
 この島には不釣り合いのダークスーツを着たこの男は、アメリカのハーバードビジネススクールという学校を卒業した後、名門投資銀行に勤めているとのことであった。
「漁師さん、あなたの腕のすばらしさについては、遠くウォール街でも名がとどろいています。
つきましては、是非とも、あなたと事業をともにしたいと思い、はるばるやって参りました。ひとつ、私の話を聞いていただけませんでしょうか?」
 男はそう言いながら、40ページはあるプレゼンテーション資料を取り出して、机の上に置いた。
「我々の調査によると、あなたがとる魚の鮮度は素晴らしく、この地域だけで売っているだけでは、もったいない。
私たちの国際的なネットワークをいかして、この島、そしてギリシアの国境を越えて、広く世界にあなたがとった魚を販売しようではありませんか」
「そのためには、まず生産性をあげなくてはなりません。あなたのような漁業従事者の生産性について、国際的なベンチマークを調査したのがこのグラフです。
すでに平均以上の高さにあるのですが、より多く人を雇い、新たな漁船を買い入れることで、規模の経済を活かし、今よりもさらに数倍生産性を高めることが可能になります。」
「拡大した業務の円滑な運営のためには、基幹システムへの投資も必要になりますね。他のプロジェクトでも一緒に仕事をした優れたITコンサルタントを知っていますので、ご紹介します。
また、あなたが家にいても、常に漁の具合や日々の売り上げ、利益同港が分かるように、モバイルのシステムも必要ですね。
「この戦略が軌道にのったら、競合他社を買収しっましょう。(中略)売り上げを伸ばし、成長していくことができたら、株式公開を目指しましょう(中略)。これによって、あなたは想像したこともないほどの富を手にするでしょう」
 
 
 ここまで一方向的に話をされたのち、漁師は一言いった。
「それで、そのあとに私はどうすればいいのですか?」
「え?」
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 それまで雄弁だった男はそこで止まってしまった。まるで、その問いに対する答えは準備していなかったかのように。
「えっと、そうですね、それで富を手にしたのちは、引退されて大きな家でも買われたらいかがですか?毎朝ジョギングでもして。
ここでしたら波打ち際が気持ちよさそうですよね。それからご趣味に好きなだけ時間を使われて、優雅なブランチでもお仲間と一緒にされて、ご家庭で好きなだけお子さんたちと遊んで、夜はほら、奥様を素敵なディナーにでも連れて行く。
そんな夢のような毎日を送ることができるのですよ! もう毎日仕事に追われうる必要はなくなるのです。」
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「それだったら、今の私の生活と何も変わらないのですが・・・・。途中、がむしゃらに働いたのは、いったい何の意味があったのですか?」
(同書 pp282-284より引用、一部改)
 —
 成功したいと日々願うことは尊い。しかし、成功の果てに何を見るのか? 最後に残るのは何なのか。
 そこんところは、よく考えておいた方がよいと思った。

 —
追伸.
 疲れている今日、一日、寒かった?。ガンガンと暖房たいてるんだけどなぁ。少し寒い気がする。何がなんだかわからない。

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