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2006.9.6 06:00/ Jun

再訪:はこだて未来大学

 1ヶ月ほど前のことになりますが、久しぶりに、「はこだて未来大学」に訪問させていただきました。
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 この大学は、学部時代の先輩の美馬のゆりさんが開学に関与していた関係で、その当時から僕にも、「少しの縁」がありました。美馬さんからのご依頼で、ほんのちょっぴりだけ、はこだて未来大学開学のお手伝いをしていたのです。
 開学前には、教員就任予定者たちが集まったワークショップなどが開催されたのですが、その様子をビデオ撮影し、記録に残したりしたこともありました。学生アンケートなどを集計・分析したこともありました。
 開学前のワークショップでは、「どのような大学教育を実現するのか」「カリキュラムはどうするか」ということに関して、教員たちが夜遅くまで熱心に議論していました。この様子は、当時、学生だった僕には驚きでした。「新しい大学を立ち上げる」というのは、こういうことなのだ、といたく感じ入ったことを覚えています。
 またその後も、共同研究の関係で、函館で会合を開きましたので、何度かはおじゃまさせていただいていました。
 ただ、その後、美馬のゆりさんが日本科学未来館の副館長に就任し、同じく、未来大学に着任なさっていた、先輩の刑部育子さんがお茶の水女子大学に移ってからは、しばらく訪問の機会がありませんでした。
 それから6年・・・
 久しぶりに、はこだて未来大学を訪れたのですが、強烈な教育思想が埋め込まれた空間は今もなお健在でした。
 プロジェクト学習を中心にすえたカリキュラム、そして、そうした授業を支える開放的な空間は、どこか、マサチューセッツ工科大学のメディアラボのような雰囲気を持っています。
 ただ、一歩、その場にはいったときに、6年前と唯一違った感覚を、僕は、肌で感じたことを吐露しなければなりません。
 キャンパス全体に、どこか、よい意味での「生活感」が漂っているような気がしたのです。キャンパスに学生が「根付き」、学びの場として日々動いている感覚というのでしょうか。「しっくり」くる感覚というのでしょうか。今に比べて、昔はもっと環境がトゲトゲしていたように思ったのです。
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 何をもって、そのような感覚を覚えたのか。これを訪ねられても、凡庸な僕には、ウマイ言葉で形容することはできません。しかし、学生たちの使う机、掲示物、プロジェクトルームのイス、ガラス張りの教員研究室・・・あらゆる場所に、かつてはなかった「ヴァナキュラーなもの」を感じたのです。
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 —
 キャンパスは、生まれたばかりのときは、まだ「建築物」なのかもしれないな、と思うのです。どんなに先鋭な思想をもってしたキャンパスであっても、産声をあげたときには、それは「建築物」にすぎない。
 しかし、そこに集った学生と教員が長い年月をかけて知的生産を行います。そこでは、いろいろなモノがつくられ、蓄積されます。また、掲示物が張られ、モノの配置が、彼ら自身がよいように変えられる。
 そうしたプロセスの中で、彼ら自身が、その場を「学びの空間にしたてあげる(tailor)」のかもしれないな、と思うのです。
 ロラン=バルトはかつて「作品の死」「作者の死」を高らかに宣言しました。彼は、読者と作品の相互作用性により意味が立ち上がる空間を「テクスト」とよびました。
 それと同じように、キャンパスもテクスト的な3D空間も見なせるのではないかと思うのです。それは学生、教員に解釈され、作り替えられ、インタラクションやアーティファクトが蓄積し、学習者にとって「しっくり」くる空間に仕立て上げられるのではないかと思うのです。ボーヴォワール風に言うならば、「キャンパスはキャンパスになるのだ」ということになるでしょうか。
 はこだて未来大学は、今日も日々変わり続けているのだと思います。
 次に訪問するときが愉しみでなりません。

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