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2006.5.1 20:41/ Jun

北の国から・・・プチ・アースダイバー

「料理は素材が八、料理人の腕が二、素材がよければ、すでに料理は完成したも同然だ」
 先日、希代の食通「北大路魯山人」の名言を引用しました。
 この魯山人の言葉どおり、北海道の料理は、やはり「素材のすばらしさ」につきるのだと思うんです。素材が新鮮、それ以上でも、以下でもありません。
 和歌の世界に喩えてみますと、「新古今和歌集」というよりは、「万葉集」です。枕詞や掛詞を駆使した文章というよりは、東国や防人とした赴任した寂しさをつづる、そのむきだしの感情に、北海道の食文化は似ているように思います。
 こちらに来て以来、いくら、エビ、カニ、水タコなどの海産物を食しています。この素材のもつ甘さは、たまりません。おそらく銀座界隈では、これらに数万円の価値がつくでしょう。
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 掛け値なしでお誘いします!ぜひ、北海道にお越し下さい。
 決してガイドブックに頼ってはいけません。あなたの近くにいる北海道民にオススメの場所を聞いて、この北の大地を訪ねてみてください。本当にオイシイ物が、東京の5分の1の値段で味わえることでしょう。
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 それはそうと、今日は朝から快晴でした。空気が澄んでいて、どこまでも広がる青空というのでしょうか。高村光太郎の「智恵子抄」ではありませんが、「本当の空」を久しぶりに気がします。
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 こんな日は、絶好の散歩日和です。今日は、小学校、高校へと足を伸ばしてみました。15000歩、2時間の小旅行・・・。
 まず小学校です。
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 家から歩いて20分で小学校につきました。ほとんど20年前と変わった様子はありません。
 20年前には校門のあたりにいた、行商のおじさん、教材販売の教材を売っているおばさんの姿は、当然のことながらありません。グランドをみれば、どこか「小さくなった感じ」がしますが、それは僕のカラダが大きくなったせいかもしれません。
 数年前、僕の小学校は、30周年を迎えたそうです。僕がここに在籍していた当時、昭和59年には、たしか開校10周年でした。そのときの記念事業としてつくった、全校生徒の手形のプレートを、グランドの片隅に見つけました。
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 当時、クラスごとに集まって、コンクリートの台に、ひとりずつ手形をつけていきました。しかし、僕の手形・・・当時、僕は小学校4年生だったわけですが、その手形をついぞ発見することはできませんでした。
 実は、この手形・・・思い出があるのです。当時、僕の担任はY先生という若い女の先生でしたが、僕は、彼女のことが密かに好きでした。で、何かにつけて先生の気をひこうと、いろんな試みをしていました。先生が板書のときに後ろを向いたとたんに輪ゴム鉄砲をとばしたり、黒板消しを隠したり・・・いろいろなイタズラをしておりました(なんちゅう、クソガキ!)
 で、Y先生が「みんな、手形をつけてねー」と言っているのに、僕はやおら靴下を脱いで「足形」をつけたのですね。びちょん、と。これは怒られた。廊下に30分ほどたたされたのを覚えています(ちなみに、彼女は、僕が小学校高学年になると、退職して釧路で結婚しました・・・小学生ながら悲しかったなぁ)。
 いまや、そんな僕のあまりに幼いイタズラの記憶も曖昧になっています。手形をおさめたコンクリートは北海道の厳しい自然・・・雪、雨、風・・・に襲われ、完全に風化していました。手形が残っているというよりは、もはや得たいのしれない、ぼこぼことした穴が、盤面に無数に並んでいる状況なのです。
 かなしいけれど、それが北海道なのです。北海道の自然をナメてはいけません。
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 次は、高校です。
 高校は、大雪山の清流の流れる2つの川を超えて、旭川中心街に位置していました。道中、駅前からのびる買い物公園を横切りましたが、人通りは多くありません。
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 北海道は高度にモータリゼーションの発達した土地です。国道沿いにできる大規模店舗に、どんどんと客足を奪われ、いまや元々の駅前商店街は、どこも青色吐息です。僕がここにいた15年前は、まだまだ活気があったのに。寂しい気持ちを禁じ得ません。
 1時間ほど歩き、ようやく高校に到着しました。ほぼ10年ぶりに訪れた旭川東高校。ここはまだ記憶が新しいせいか、「小さくなったな」と感じることはありません。
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 ですが、そこを訪れた際、僕の心には、あまりにも青臭く、それでいて、甘酸っぱい、いわゆる青春時代の思い出が、去来してきました。そこは、まだそのような場所であるようです。
 グランドでは、当時と同じように、サッカー部、野球部、ラグビー部が練習をしておりました。しばらく練習を見ていましたが、当時と同じように砂埃の匂いがしました。
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 高校近くにある、いくつかの、思い出深い場所もおとずれてみました。
 まず訪れたのは、喫茶店ブラジル。
 大通りからは、ちょっと入った小道にあるブラジルは、先生方が決して巡回に訪れない場所でしたので、僕らの格好のたまり場でした。
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 ここでブレンドコーヒーを1杯だけ注文し、紫の煙がけむる店内で、僕らは2時間でも、3時間でも、話に興じることができました。なぜ、そんなに長い間、僕は人と語り合うことができたのか、不思議でなりません。
 今の僕にとって、研究室で会議をするにしても、研究指導をするにしても、長くて1時間。「結論は何か」をすぐに追い求める今の僕にとって、ブラジルで過ごす数時間は、想像もつかない「無駄な時間」であり、同時に、かけがえのない濃密な時間でした。
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 六条軒は、僕がいつも「昼食第二弾」をとっていたお店です。ここで、「大盛り中華丼」を食べるのが、僕の日課でした。
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 なぜ、「昼食第二弾」と言うかわかりますか?
 なぜなら、「昼食第一弾」は既に2時間目が終わったときに済ましているからです。つまりは「早弁」というやつですね。オカンがつくってくれた、「卵焼き」と「ウィンナー」がいつもはいった弁当は、既にもう2時間目と3時間目の10分の休み時間に、すべてたいらげているのです。
 でも、なぜか4時間目になるとお腹がすく。なぜなんでしょう、今だったら考えられませんが、もう1食食べないと、当時の僕は気がすみませんでした。
 で、そんなとき、六条軒で世話になっていました。正確にいいますと、「六条軒」と米米亭(まいまいてい)というカレー屋専門店を、いつも交互に訪れていました。
 米米亭(まいまいてい)では、「カレー大盛り」に加え、「カレー大大(かれーだいだい)」というメニューには決してのっていないメニューがありました。要するに、「ダブル大盛り」で、店の主人が、いつもお腹をすかせた東校生のためにつくったものなのでしょう。
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 当時の僕は遠慮を知らない若者でしたので、六条軒の、人のいいおじさんにも、「大大」を迫っていました。
「米米亭のカレーには、ダブル大盛りがあるよ・・・中華丼も大大にできないの?」
 ということで、「ダブル大盛り中華丼」にしてくれ、と、いつも御願いしてました。おじさんは、しょうがないなぁという面持ちで、ラーメンどんぶり一杯にゴハンをいれてくれましたけれども。なんちゅう量だ!! そして、若い頃から、面の皮の厚い人間だったと、恥ずかしくなってくるのです。
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 学校を終わったあとは、市立病院近くの噴水のある公園で、ロマンチックな!?時間を過ごしたり、気の合う友人たちとタ○コを吸いながら、訳もなく旭橋を眺めたりしておりました。
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 時には、街の中心部にある常磐公園(ときわこうえん)のボートに乗ったりもしていましたが、「常磐公園のボートにのったカップルは、別れる」という噂通り、悲恋を経験したりもしました・・・あべし。
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 どれもよい思い出です。
 自分の住んでいた故郷を歩き、自分がそこに生きていた記憶をたどるというのは、かくもオモシロイものだとは思いませんでした。
 中沢新一氏の「アースダイバー」が、東京で縄文時代の祖先を辿る営みであるならば、僕の行ったこの散歩も、さしずめ、「プチ・アースダイバー」であった気がするのです。

 まだ連休はあります・・・
 あなたの失われた記憶を訪れてみませんか。
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 本日5月1日をもちまして、人気blogランキングへの参加をとりやめることにしました。何とか本日有終の美を飾りつつ。これまで、ポチッ、ポチッと日々応援いただいてありがとうございました。応援いただいたすべての方々に、感謝しております。本当にありがとうございました。楽しかったです。
 ランキングへの参加はとりやめますが、NAKAHARA-LAB.blogは、これまで通りつづけていきます。どうぞ宜しく御願い致します。
2006年5月1日
中原 淳@北の国にて

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