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2022.9.26 08:13/ Jun

「アイデアはいいんだけど、それ、誰やんの症候群」にご注意を!:「プチ残念な課題解決」の3つの典型症例!?

 今年度、4期生(現・3年生)は、チームになって、人材開発・組織開発プロジェクトにチャレンジします。彼らは、これから1年半かけて、
   
 1.自らクライアント組織を探し、
     
 2.クライアント組織の現状を調査し、
      
 3.クライアント組織に対して、人材開発・組織開発を「実践」し
      
 4.その場に生まれたひとと組織の変化を「記述する」
      
 というプロジェクトにチャレンジします(といいましょうか・・・彼らが決めました。わたしのゼミのゼミ訓は、自分たちの学びは、自分たちで話し合い、自分たちでデザインせよ、です)。
    
 本来ですと、この内容を、立教大学においては大学院1年生で、半期で、行っているレベルです。今回は、この内容を学部生レベルにカスタマイズして、さらにこのプロジェクトだけに1年半かけることで、学部生にも実践可能にしています。
 彼らにとっては、このプロジェクトの成果が「卒論」に結実します。実践可能でなくては困ります。卒論が書けません=卒業が厳しくなるひともいます。笑。いや、笑い事じゃない。。。
   
 秋学期の授業がはじまり、先日、さっそくキックオフが行われました。キックオフでは、課題解決とは何か、という点から、そもそものお話をしました。MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:もれなく、だぶりなく)だの、ロジックツリーだの、小難しい言葉は「一切用いない」中原流・課題解決法のレクチャーとなります。

  ▼
  
 ところで、学生においても、社会人においても「課題解決」の際に生じる典型的な症例(プチ残念な課題解決)は、下記の3点かと思います。
         
1.思いつき王子、飛びついちゃった姫症候群
        
2.やるのはいいけど、小っさくねー病
   
     
3.アイデアはいいんだけど、それ、誰やんの症候群
       
 今日はこれを解説していきましょう。
       
  ▼
   
 1の「思いつき王子、飛びついちゃった姫症候群」とは、そのまんまです。課題解決のプロセスでは、いずれかどこかで、自分たちにとって「課題」とは何で、どのような解決策を採用するのかを言明しなくてはなりません。
   
 通常、問題には、複数の「課題」と「解決策」の候補がありますが、この多数の「課題」と「解決策」のなかから「ひとつ(ないしは複数)」を「選択」しなくてはならないのです。問題は、この「選ぶとき」です。選ぶときには「どのような課題・解決策」を「選び取ったのか」という積極的理由と、「選びとれなかったもの」は、なぜ「選ばなかった」のかに関する消極的理由が必要です。つまり「ロジック」がいるのです。
  
「思いつき王子、飛びついちゃった姫症候群」は、ここに「ロジック」や「理由」が欠如しています。
  
 単に思いつきで、これが課題だと思いますー(テヘペロ)
   
 いや、よさげだったので、この解決策に飛びついちゃいましたー(テヘペロ)
  
 これが「思いつき王子、飛びついちゃった姫症候群」です。要するに「理由」や「ロジック」、すなわち「論理」が決定的に欠如している。
 これ、笑っておられる方もおりますが、10件の課題解決があったとしたら、半数近くは、この症候群に罹患している、といってもよいポピュラーな病気です。
  
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 2の「やるのはいいけど、小っさくねー病」というのは、課題解決の後期によく発病する疾患です。
    
 いろいろなものごとを調査して、なんとか、かんとか、課題と解決策を決めた。しかし、よくよく考えてみると、その解決策は、たしかに「実行可能」である。
    
 ただ・・・・ひとつ致命傷がある。
       
 もし万が一、解決策を「実行」したとしても、現場に横たわる「現状と理想のあいだのギャップ」はほとんど埋まらない。
  
 これが「やるのはいいんだけど、「効果が小っさくねー=焼け石に水」病です。
  
 この病気は、「現状と理想のあいだのギャップ」と「解決策」のバランスが極端に悪い場合に起こります。「現状と理想のあいだのギャップ」が「マリアナ海溝なみ」に深いのに、解決策のパワーが小さい。たとえば「素潜り」。あたかも「素潜りでマリアナ海溝に挑戦する」みたいなイメージの、バランスの悪い課題解決になってしまいがちです。
   
 ▼
   
 最後3の「アイデアはいいんだけど、それ、誰やんの症候群」は「実現可能性(フィージビリティ)」の病ですね。
 課題の設定、解決策の選択、そして、「現状と理想のあいだのギャップ」を埋めることは、十分期待できる。しかし、ここに最大の難点がある。
     
 アイデアは素晴らしい!
  
 パワポも綺麗だ!
  
 キャッチーなコンセプトも素晴らしい!
  
 しかし
  
 それを「実行するひと(組織)」いない!
(実行するリソースがない!)

  
  ・
  ・
  ・
  
「アイデアはいいんだけど、それ、誰やんの症候群」です。
 アイデアはいいけど、リソースが期待できなきゃ、物事は回りません。つまり「絵に描いた餅」です。
  
 クワバラクワバラ。
   
 ▼
  
 今日は課題解決についてお話をしました。
   
 この3つの病は、学部生レベルでも頻発しますが、社会人においても同様です。ほとんどレベルは変わりません。たぶん、コンサルなどの、一部の職種の人々を除いては・・・。
  
 といいましょうか、おそらく「論理的な課題解決」は、私たちが「日常的に慣れ親しんでいる暮らし方・生活の方法」とは、まったく異なる思考形式なのではないかとも思います
  
 私たちは、「ごくごく限られた限定合理性」のなかで、場当たり的に、状況的に、出たとこ勝負で生きています。なので、すべてに論理・説明を必要とする「論理的な課題解決」に「慣れ親しんでいません」。だから多くのひとびとが苦手とするのです。
   
 ですが、ひとと組織の課題解決の場合、そこにはコストや投資を必要とします。組織ぐるみで実行する場合には、機会損失も発生しますし、多くのステークホルダーを動かすには論理が必要になります。そこには日常とは異なる「論理的な課題解決=論理的な説明」が求められることになるのだと思います。
   
 4期生(現・3年生)には、今回の卒論を通して、ぜひ、実践的な課題解決にチャレンジしてほしい、と思います。そして、ひとと組織の難しい課題にタックルしてほしい、と願っています。
   
 そして人生はつづく
        
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