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2008.2.20 09:16/ Jun

ハーバードビジネスレビュー3月号にエリクソンが!

 2008年3月号「ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー:HBR」では、「一流人材の作り方」というタイトルで、学習科学のひとつである熟達化研究の領域で有名なアンダース=エリクソンが論考を寄せている。
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー
http://www.dhbr.net/
ひそかにDHBRのブログも発見!
http://dhbr.hontsuna.net/
 エリクソンはフロリダ州立大学・心理学部の教授。彼が編者に加わった、「The Cambridge Handbook of Expertise And Expert Performance」は、今年の冬学期の大学院ゼミでみんなで購読した。

アンダース=エリクソン教授
http://www.psy.fsu.edu/faculty/ericsson.dp.html
 —
 HBRの論考において、エリクソンは「いつもの持論」を展開している。
 曰く、熟達化には長い時間がかかるが、それは後天的に「学習」されうるものである。
 熟達化には「注意を傾けた反復練習」が必要であり、また、どのような指導者のもとで、それを行うかが重要である、という。
 論考では、ベンジャミン=ブルームの1985年の著書「Developing talent in young people」を引用しつつ、このような知見が紹介されている。

 ブルームは、音楽家、芸術家、数学者、神経学者など著名な人々の幼少期を詳しく調査した。しかし、幼少期には将来の成功を示唆する手がかりはつかめなかった。IQと偉業の達成には全く相関がない。
 しかし、唯一判明したのは、彼らが成長期に猛練習に猛練習を重ね、優れた師についていたことであったという。
 1日2時間でも、一年で700時間。10年で7000時間。こうしたコツコツとした練習の果てに、優れたパフォーマンスは存在する。熟達にショートカットはない。
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 下記雑感。
 
 ビジネスエグゼクティヴが主な購読者のHBRに対して、学習研究者のエリクソンが論考を寄せることは、非常に喜ばしいことである。
その知見は、マネジャーが部下を育成するときの、心がけのひとつになるかもしれない。
「人はそんなに急には学べないこと」「人が学ぶのには時間がかかること」は、誰かを教える立場の人であるならば、知っていて損はない事実である。
 しかし、同時に、こうした知見のすべてが、どんな領域の人材育成にでも適応可能なことなのか、と問われれば、慎重な判断が必要になるだろう、と思う。たとえば、反復練習のモデルを、そのまま「マネジャーの育成モデル」に当てはめることが可能だろうか。
 ビジネスの領域における多くの職務は、「領域固有の比較的狭いスキル」というよりも、様々な下位スキルが複雑に結びついたミクロコスモスのような状況をなしている。
 近年、一部で、こうした複雑なスキルを有する職能の熟達に関しては、研究がはじまっているが、もっと盛んになるとオモシロイだろうな、と思った。また、自分も及ばずながら、企業・組織における人の熟達に関して、研究を進めていきたいと思っている。
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 まぁ、でも、繰り返しになるけれど、HBRに学習研究者の論考が掲載されるのは、気分がいいなぁ。「経営の世界」と「教育の世界」がもっと溶けあって欲しい、と願う。

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