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2008.2.8 07:00/ Jun

議題のない会話:デヴィッド=ボーム著「ダイアローグ」を読んだ!

 ディヴィッド=ボームの「ダイアローグ」を読んでいて、ふと、我に返った。
 このところ、大学で、「議題のない会話」をしてないなぁ、と。

 僕が学部の頃、暇を見つけては当時の助手さんの研究室にお邪魔になり、いろいろなことを話した。今から考えれば、助手さんにとっては迷惑極まりなかったかもしれないが(アタマが上がらない)、それはそれで僕にとっては楽しみなことであった。
 大学院の頃は、研究室の大きなテーブルに訳もなく人がいて、議題はないのに、コーヒーなんかを飲みながら、話していた。
 大学院生同士、この先、自分たちがどうなるかわからず、未来に漠然とした不安を感じていたけれど、議題のない行き当たりばったりの会話から、僕は多くのことを学び、多くのインスピレーションを得たと思う。
 助手の頃は、今から考えれば、まだ「暇」だった。訳もなく同僚の助手の部屋を訪れては、聞きかじりの哲学や思想の話に花を咲かせたり、仲のよかった大学院生さんや学部生と、よく話した。
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 時は流れ、いつしか、僕らの会話にはすべて「議題」がもうけられるようになった。「終了時間」と、その会議で達成しなければならない「ゴール」も設定された。発言には「根拠」や「データ」が求められ、その内容は「議事録」がとられるようになった。
 会話は、それ自体を愉しむものより、何かを達成するための「手段」になった。「モノゴトの善し悪し」や「成果をだすために次にとらなければならないこと」を決める「ディスカッション」の場になった。研究の生産性は飛躍的に高まった。
   
 同時に、語り方のモードも変わった。
 仮に、研究方法論についての会話をしている場合を想定しよう。
 かつてなら、僕は、「自分がやったことのある研究」を引き合いにだして、ある研究方法論を、いつ、どのように試して、どういうアウトプットがでたのか、そのストーリー、経験を語った。研究の途中で、僕が経験した様々な困難と、喜びが同時に語られていたようにも思う。
 しかし、今は違う。今の僕は、同じ研究方法論を語るときでも、「○○という本の第○章を見て、あと、あの論文の○○に似たのがあるんじゃない?」といってしまうだろう。
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 もちろん、こういったからといって、「かつてに戻るべきだ」と思っているわけではない。時間の制約が厳しい会議で、「訳もなくいきあたりばったりの大放談」をしたいわけでは断じてない。研究を遂行していく上で、「議題」も「終了時間」も「ゴール」も重要なことに変わりはない。
 時間は、この先、さらに限られていくだろう。僕にはまだまだ知りたいこともあるし、やらなければならないこともある。研究や実践の生産性を下げるわけにはいかない。
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 しかし、たとえ、そうであったとしても、どこかで、何らかの機会をもって「議題のない会話」を確保したいなぁ、とは思う。
 議題がないといっても、「どーしょもない馬鹿話」「エ○話」ではなく、知的にワクワクするような会話。そうした場を何とか設けられないものか。
 ボームのいうところの「ダイアローグ」はどのように実現可能なのか。
 ややアイロニーではあるけれど、「さぁ、ダイアローグしましょう!」ではじまるものは、「ダイアローグ」ではない。
 なかなか考えさせられた。

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追伸.
「ゼミで発表するときや論文指導のときは、ICレコーダーをもっていくのがよい」
 昨日、ある学生さんがそう言っているのを聞いて、なるほど、と思いました。
 確かに僕は、エキサイトすると、喋るのが早い。また、ホワイトボードにもガンガン、下手な絵を書きまくる。さらに、発表者に矢継ぎ早に質問もする。
 そうすると、ただでさえ発表で緊張しているのに、話を聞きながら、ホワイトボードの絵をうつして、質問に答えなければならない、という高認知負荷状態になります。
 たまには、デジタルカメラをもってくる人もいるのですが、いずれにしても、いいアイデアですね。
 もっとも録音されるんだったら、「上品」にしゃべらなくてはならなくなるんだろうか?
 つーか、そうだとしても、お育ちのよろしくない僕には無理だろうけど、絶対。
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 悪いの?(逆ギレ)

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