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2007.8.3 08:43/ Jun

セカンドライフ(Second life)と教育

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 大学院授業「デジタル教材設計論」が終わった。最終回は「セカンドライフと教育」。3D仮想環境「セカンドライフ」を教育に利用するのだとしたら、どのように活用が可能かをみんなで考えた。
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 セカンドライフ上には、様々な教育リソースが日々構築され始めてきている。
 もっとも有名なのは、大学がつくる仮想キャンパス。
 現在のところ、アメリカの85の大学、イギリスの15大学が、セ
 これらの学校では、主に、1)キャンパスツアーが組まれていたりカンドライフ校を開設したようだ。、2)講義のネット配信などが行われていたりする。
 が、僕の訪れる時間が悪いのだろうか、これらの仮想キャンパスで利用者を見たことはあまりない。最初は物珍しいので、人が集まったけれど、そのあと「閑古鳥が鳴く」というのが定石なのかもしれない。
 日本でも、いくつかの大学がセカンドライフキャンパスの構築にのりだしている。今後どのように仮想キャンパスを位置づけ、どのような運用を行うのかが、課題であるように思う。
大学講義をセカンドライフ 慶應義塾大学
http://jp.ibtimes.com/article/biznews/070731/10435.html
 そのほか、セカンドライフの教育利用ということになると、1)シミュレータとしての利用、2)クリエイションの場としての利用、ということになるだろうか。
 シミュレータとしての利用とは、セカンドライフ上に物理シミュレーションなどを構築し、レジデントに自由に利用させるというものである。
 昨日の授業の発表によれば、「TUNAMIのシミュレータ」とかが有名であるようだ。これは、TUNAMIの発生から終わりを実際に見ることができる。
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 2)クリエイションの場としての利用とは、セカンドライフをデザイン教育の場、クリエイションのための創造環境として位置づける場合をいう。たとえば建築家たちが、建物を自分でデザインし、セカンドライフ上で構築し、エキシビジョンを行うような場合をいう。
 言うまでもなく、セカンドライフでは、仮想オブジェクトを自分でデザインし、つくりだすことができる。そして、それを他者と共有・交換することができる。ここが、情報環境としてWebとセカンドライフを比較した場合、セカンドライフが圧倒的優位にたつ部分である。


 設計図のみを与えられ、あとは自由に建物をデザインし、建設するという大学院等の授業やコンペも行われているようだ。
 —
 セカンドライフに関しては、いくつか思うところがある。
 まずひとつめ。それは「曇りのない目で真価を見つめよう」ということである。儲かるか、儲からないかではない。それは、どのような教育的価値を提供できるかを、自分のアタマで判断した方がよい、ということである。
 
 けだし、日本でもセカンドライフの受容は、あまりにコマーシャル的でありすぎた。「絶対、ここで儲けたるー」と鼻息洗いビジネスマンが、ビジネスツール、マーケティングツールとしてセカンドライフをとりあげ、マスメディアもそれにのったことが悲劇のはじまりであるように思う。
 だから、教育業界の人たちの多くは、セカンドライフなどの3D仮想環境に、非常に懐疑的な目をおくっている。そしてその気持ちもわかる。
 でも、オモシロイことに、講演や授業などで「セカンドライフを実際に利用したことのある人はどのくらいいますか?」と問うと、ほとんどいない。自分で利用したこともないのに、「いい悪い」をマスメディアの情報だけで判断している傾向があるように思うのは、僕だけだろうか。
 新しいメディアの可能性は、じっくりと見つめる必要がある。そして、それには時間がかかる。曇りのない自分の目で、その真価を見つめる必要がある。
 ふたつめ。
 セカンドライフの教育利用で、もっとも注目するべきは、やはり「モノを自分でつくることができる」ということにつきる、と思う。
 セカンドライフは、Social Constructivistが泣いて喜ぶような自由なコミュニケーションを行える場でありながら、同時に、パパートなどの主張するConstructionism的な環境を提供する。ここが一番オモシロイところであると思う。そこは、「Learning by designing:人はものをつくりながら学ぶ」的な教育理論が、もっともマッチしやすい世界である。
 しかし、原理的には、オブジェクトを自由にConstructできるのであるが、そのハードルはかなり高い。この敷居がもう少し低くなれば、また教育利用の可能性が飛躍的に高まるのではないか、と思う。
 みっつめ。
 昨日の授業で僕もはじめて知ったのであるが、現在、オープンソースのメタバースをつくる動きが加速しているのだという。
 ひとつの企業でメタバースが運営されるのではなく、Open Sourceを用いて自由にメタバースを構築できるようになり、かつ、それが相互に接続できるようになると、飛躍的に世界は広がる。メタバースのDNSサーバみたいなものができると、Webの3D化という事態も、もしかすると、現実におこるかもしれない。
 いずれにしても、この現象は、注意深く、冷静に見ていく他はない。そのことだけは間違いのないことのようである。

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