NAKAHARA-LAB.net

2007.6.17 07:00/ Jun

組織の「バリュー」をいかに伝えるか?

「組織のバリュー」をいかに伝えて、「組織構成員の行動」を変容させうるか?
 先日、こんな話を、あるコンサルタントの方としました。
 バリューというのは、わかりにくいね、要するに「組織がかかげる行動規範、価値観、戦略」といったものでしょうか。そういうものをどのように組織メンバーが共有するか、というのが現代的課題なのだそうです。
 —
 教育や学習の観点からすれば、「バリュー」だろうがなんだろうが、要するに「AとはBである」という「知識」です。
「知識を伝える」という、いわゆる「Knowledge Transmission view」の立場にたてば、問われることは「バリューを効率的に正確に伝達するか」ということになりますね。
 この場合、バリューを様々なメディアで配信したり、朝礼や各種のイベントのときに折に触れて唱和したり、たとえば「手帳」に印刷して常に携行させる、などの方策が試みられるんでしょう。要するにバリューへの接触頻度、オポチュニティを増やすことによって、伝達の効率性を向上させるということです。
 このようにすれば、確かにバリューは「伝達」できるかのように思います。でも、よく考えてみると、「伝えればOK」かというと、
そうじゃない。バリューは、「組織構成員の行動変容」にむすびくことが重要なのです。「伝えられても、行動が変わらなければ何の意味もない」。
 そう考えるならば、話が全く変わってきますね。じゃあ、「組織構成員の行動変容」にむすびつくようなバリュー共有の手法を考えなくてはならない。
 先ほどの味方が「Knowledge Transmission view」だとすれば、こちらは「Behavior Transformation View」と言えるかもしれません。
 それにはきっと様々な有効な手段があるんだろうと思うんです。でも、僕たちが話し合ったときに、「これは有効だよねー」と言っていたひとつの手段が、「バリューを伝える」というアプローチではなく、「バリューをみんなでつくる」という方向への舵の切り方ですね。いわゆる「構成主義」的な、といいましょうか、そういう方向でものを考える。
 つまり、組織の価値観や行動規範、戦略といったものの構築作業に、なるべく多くの人々を「参加」させる。バリューのステイクホルダーたちには、なるべく最初から「関与」を求め、そのことによりコミットメントを引き出す、というアプローチですね。そうすれば、「組織のバリュー」といった「本来伝達の難しいもの」が、共有できるんじゃないか。
「バリュー」が、どこか遠くでつくられた「尊いけれど、自分には全く関係ないご託宣」とうつるのではなく、「他ならぬ自分たちがつくった、自分たちの行動規範」となる可能性があがるのではないか、ということですね。どうでしょうかね?
 具体的な手法は様々に考えられると思うんです。
 大規模なストーリーテリングといってもいいでしょうし、シナリオプランニングといってもよい。要するに、どんな手法でもいいんですけど問われることは「バリュー構築にいかに人を効率的に巻き込み、参加させうるか」ということです。
 これね、今日は会社を念頭において話しましたけど、学校などの非営利組織とかにも、今求められているのかもしれませんね。
 学校の「特色」「戦略」「価値観」に、多くの人々をいかにインボルブさせ、デイリーなオペレーションを変容させうるか。こうしたことも、とてもオモシロイ研究課題であるように思います。

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