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2007.6.5 17:15/ Jun

ジェネレーションYと世代間知識伝承:ASTD2007参加記

 世界中どこでも「若者」には人々の注目が集まっているんだなぁ。
 今日の感想は一言でいうと、そんな感じです。
 1980年から2000年に生まれた(現在、27歳以下の人はGenerationYですね)、いわゆる「GenerationY」の人たちを、どのように教えるべきか、というセッションにでてきました。
 個人的に、「おおざっぱな世代論」は与するところではないのです。が、それでも、GenerationYには皆さんホトホト手をやいているようですね。
 Generation Yは、俗に
 Generation ME
 Generation WHY
 Generation M(Multitasking / Multimedia)
 とも言われているようです。
「自分」が大切で、すぐに「なんで?」と意味を問い、かつ、メディアに強く「マルチタスク」でセッカチな人種らしい。すごいじゃん。
 講演内容を一言でいうと、彼らに対して教育研修を提供する際には、彼らのキャラにあわせた内容、形式をとらなければならないよ、ということでした。
 聞くところによると、GenerationYが成長した時代、「アメリカの教育環境」が大きな転換期を迎えたらしいのですね。
 一言でいうと、「一斉授業型の教室」から「オープンスペースでの授業」に大転換した(このあたりはちょっと教育学的な常識とズレるんですよね・・・どっちが本当かわかりません・・・でも、会場の人たちは、あー、そうねという感じで異論無く聞いていましたけど)。
 前の世代のGenerationXの方は、一斉授業型の、いわゆるフツーの教育環境だった。教師にはリスペクトが集まっていて、彼を主導して授業が行われてきた。
 対してGenerationYの方は、オープンスペースが導入され、小さい頃からグループ学習、プロジェクト学習が導入されていた。教師は、教壇の前にたって教える、いわゆる「教師」ではなかった。むしろ、プロジェクトを支援するファシリテータの役目を負うようになっていた。
 概して、「大人になってからの学習スタイル」というのは、「子ども時代に学校でどのように教えられたのか」、に影響を受けると言われています。だから、GenerationYには、これまでの教授技術とは異なった体系が必要ですね、という話でした。
 じゃあ、具体的にどうするべきなのか、というと、下記のとおりです。
 Tell them why it matters
 (なぜ重要なのかを語る)
 show them what it means to them
 (学ぶ意味をちゃんと見せる)
 Engage them
 (彼らに説明させたり、相互に教える機会をもたせる)
 Do it fast
 (10分以上講義をせず、テンポ良く話す)
 (無駄に話しすぎないことが重要)
 Make it interactive
 (とにかくインタラクティブに)
 うーん、このポイントは、Generation Yだけじゃなくて、フツーの人にでも言えることないんじゃないの・・・・というツッコミは横においておきましょう。まぁ、そういうことだそうです。
 ASTDには、トレーナーの方も数多く参加しています。こういうプラクティカルなセッションは、ASTDらしいセッションですね。
 —
 次にでたのは、「世代間の知識伝承」のセッションでした。少子高齢化は先進国では共通して見られる社会問題です。組織は、どんな組織であっても、この影響を確実にモロに受けますね。
 一言でいうと、どんどん年配の方が抜けていって、知識や技能がロストしていく一方で、先ほどのGeneration Yが、突然大量に入ってくる。
 で、そういうデモグラフィックな劇的な変化に、組織がどの程度備えていますか?というセッションでした。IBMが調査を行ったのですね。
 調査結果の一部は、下記のとおり。
Q1.新人をはやく育てようとしていますか?
 16%の組織がプライオリティをおいている
 24%の組織が、考えているけど、プライオリティはない
Q2.世代間の知識の伝承を組織の重要な課題にあげていますか?
 16%の組織がプライオリティをおいている
 24%の組織が、考えているけど、プライオリティはない
Q3.世代間の知識の伝承のため、どのような機会を設けていますか?
 60%がメンタリング
 46%がドキュメンテーション(文書に残すってヤツですね)
 29%がCOP(Community of Practice)
 29%が研修プログラムに熟達者の経験をおりまぜる
 3%がエキスパートシステム、AIの活用
 2%が退職社員の経験を語ったビデオ
 だそうです。
 オモシロイのは、世代間の知識伝承のために、CoPが活用されているっていう話ですね。そこまでCOPって一般的なんですかね。
 それにしても、講演者がこんなことを言っていましたよ。
「アメリカはまだまし。19%の管理職が5年以内にいなくなるだけで、まだすむんですもの。深刻な国は日本ね。日本は、3300万人、つまり人口の26%がやがて65歳を超えるのよ。そんな急速な高齢化を、どうやって切り抜けるのか・・・」
 日本の組織は、これに対して、策をもっているんでしょうか?
 —
 さて、こんな風に2日目のワークショップも終えました。現場の生の話は非常にオモシロク感じます。が、同時にどこか隔靴痛痒な感覚を覚え始めたことも正直に告白せざるをえません。
「いろんな試み」に勝手に名前をつけてスゲーだろと主張しあっているのですけど、「試み同士」の関係が整理されていない。あるいは、その試みをメタに語るコンセプトやフレームワークがない。
 また、発表自体も「重要なポイントは3つ、これとこれとこれ」みたいにまとめるのですけど、なんでそう言えるのか、根拠がよくわからない。お客を説得するのに使えるような「分類」や「カテゴリー」が根拠なく主張されている。
 もちろん、ASTDはプラクティカルな場所なのはわかっているのです。現場の生の声は非常にオモシロイです。
 が、「Workplace learning and performanceのプロフェッショナルが集まる会」を称するのなら、もう少しそこで使われている概念を整理して、共通の言語を持つこと、また同時に、主張に根拠を持った方がいいように思います。簡単にいうと、もう少し「人を育てる科学」の知見が入ってもいいように思いました。このあたりはアカデミズムの仕事なのかもしれませんけれど。
 以上、先ほど「隔靴痛痒な感覚」と書きましたが、どちらかというと、批判をしているのではありません。「自分がこれから何をするべきなのか」がわかってきたなぁ、という感じです。
 そして人生は続く
 —
追伸.
 こちらには日本人の方もたまにお見かけします。この2日間は、リクルートの方々、野村総研の方々とお会いしました。昨日は、ラーンウェルの関根さんにランチを誘っていただきました。皆さん、お世話になりました。
 明日は、JMAMの方とディナーをすることになっています。とても楽しみです。海外にでないと、こうした機会はなかなか持てないですね。

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