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2007.5.10 10:52/ Jun

Learning bar 「プロフェッショナルの人材育成」が終わった!

 昨夜開催されたLearning barでは、小樽商科大学 松尾睦先生に「プロフェッショナルの人材育成」というタイトルでご講演をいただいた。
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 講演で松尾先生は「仕事場では、人がどのようにして経験から学ぶのか、熟達化していくか」についてお話をされた。話題は、下記のとおりである。
1)近年の認知心理学、認知科学における熟達化研究の概要
2)Kolbの経験学習に関する理論
3)営業担当者、ITコンサルタント、看護士など、プロフェッショナルの熟達化プロセス
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 個人的に興味深かったのは、職種や業種が違うことによって「何が経験によって学ばれるか」、また「何が業績向上によい影響を与えるか」が違うことだった。
 たとえば、同じ営業でも、自動車営業では「購入の際、顧客がかかえる最後の不安や迷いを解消してあげること」が、ベテランになるまでに学ばれる。そして、このことが業績向上に大きく影響する。
 対して不動産営業では、「ファーストコンTAKUで、顧客が抱える問題を把握する能力」、言い換えれば「聞き上手になること」が重要であり、これが10年すると業績に反映するようになる。
 もちろん、職種によっても、経験学習のキーポイントは異なる。講演では、プロジェクトマネジャーとコンサルタントの比較がなされていた。
 興味深かったのは、看護師の経験学習のプロセス。
 松尾先生によると看護師は、最初の5年間は「技術」を学ぶ。最初のうちは、先輩からの指導によって「基礎看護技術」を学び、また難しい症状の患者を担当することによって「専門看護技術」を学ぶ。
 その後6年目から10年目は、患者・家族とのポジティブなかかわりによって学ぶことが多くなる。が、10年目以降は、逆に患者・家族からのクレーム処理などのネガティヴなかかわりによって学ぶことが多いのだという。
 上記は看護士の事例であるが、おそらく職種によって、この熟達化のプロセスは大きく異なっていることが容易に想像できる。
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 さて、このように職種、業種によって熟達化プロセスが異なる、ということは何を意味するか。
 それは、もし仮にあなたが人材育成、組織開発の担当者だった場合に、「自分が支援したい職種はどんな経験で学んでいるのか」を十分把握しなければならない、ということである。
 すべての職種を十把一絡げにするのではなく、その熟達プロセス、その特徴をキチンと把握する。その上で、それを意識した上で、プログラムの開発に向かわなくてはならない、のだと思う。
 このときに重要なのは、現場の把握力、コンサルテーションの技術である。これからの人材育成担当者は、そうしたワザをもつ必要があるのではないか、と考えた。
 最後になりますが、お忙しい中、わざわざ小樽からお越し下さり、素敵なお話をしてくださった松尾睦先生に心より感謝いたします。 
 また、今回のLearning barの運営を行ってくれたEduce坂本君、佐藤さん、坂本君、脇本君、山田君、お疲れ様でした。ありがとうございました。
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追伸.
 今回の参加者は結局113名であった。参加者の3割は企業人材育成の現場、6割が企業人材育成の教育事業者、1割が大学教員、大学院生だった。ご参加いただいた皆さんお疲れ様でした。
 1割のアカデミズムの参加者の多くは、「教師研究・教師の熟達化」に興味をもっている人であったのが印象的だった。教師の研究にも、新しい芽が出始めているように思った。

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