NAKAHARA-LAB.net

2019.3.7 06:51/ Jun

「現状維持バイアス」を打破して「組織を変える」ための3つの方法!? : 危機、危機って、生まれてこの方、ずっと危機じゃねーか、バカヤローコンニャローメ!?

 船底に「小さな穴」があいていて、少しずつ沈没しかけている「巨大豪華客船」のなかで、カクテルパーティが繰り広げられているような「組織」はありませんか?
  
 先だって、僕は、こんな趣旨の記事を書きました。
  
「現状維持バイアス」とは「約束された沈没」である!? : 船底に穴があいているのに、カクテルパーティをぶちかます「ウェイウェイ豪華客船」の謎!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/10014
  
 ひとは誰しも「変化」を好まない。
  
「何かを変化させるくらいならば、現状維持することの方が得じゃねーか」と「現状維持の価値」を高くみつもるバイアス、すなわち「現状維持バイアス」に、ひとは、取り憑かれてしまいがちです。
  
 そして、そんな「現状維持バイアス」に取り憑かれてしまったなれの果ては、先ほどの「穴のあいた豪華客船でウェイウェイカクテルパーティを開催しちゃう」ようなような滑稽な事例です。皆さんの周囲には、そのような組織はございませんか?
    
 しかし、ここまで読んできて、当然、わたしたちには、こんな疑問がわいてくる。
  
 どのように「現状維持バイアス」に取り憑かれたひとびとの集まる集団を変えていけばいいのか?
  
 皆さんだったら、どうしますか?  
 今日のブログでは、そのあたりを3つほど書いてみようかと思います。
  
  ▼
   
 1分くらい考えて(もう少し考えたいんですが、朝は時間がないんです・・・嗚呼、もう子どもが起きてくる!)、僕がだした結論は、下記の3つです。
  
 1.変化しているとわからぬように「変化」させる
  
 2.変化しないと「危険」だと思わせ「変化」させる
  
 3.変化した方が「得だ」と思わせる「変化」させる
    
 以下にこれらを解説してみましょう。
  
 ▼
   
 まずひとつめの「変化しているとわからぬように変化させる」の前提条件は、こちらです。
  
 ひとは変化を嫌うために、変化を前にすると抵抗を示す
  
 これは、僕はわずか44年の人生しか生きてきておりませんが、これまで経験してきた「様々なシャバの事例」を通じて、本当に痛感します。
  
 ひとは「他人の変化」には饒舌ですが、「自分の変化」には「貝」のように殻を閉じるものです。
  
 そして、多くの「組織変革」はここに「挫折」します。つまり、人々の変革への抵抗を和らげることができずに、強いハレーションをおこしてしまうのです。
  
 だとすれば、「無用な変化を敢えて感じさせない」ようにしながら、こっそりこっそり、制度や環境をいじりながら、「結果として」変化を生み出してしまえばいい。これが1の考え方です。よく官僚組織が用いる手段です。「あれっ、結果として変わっちゃった!」というやつです。
       
 そのため、この考え方を実行するには、かなりの「策士」であることが必要そうですね。
 でも「経営とは、そういうものだ」とも思います。
   
  ▼
   
 次に「変化しないと危険だと思わせ変化させる」、こちらは非常にシンプルですね。
  
 端的に申し上げれば、
  
 危機感を煽る!
  
 ということです。

 これは、組織変革のもっともスタンダードなやり方(経営学ではもっとも取り上げられるやり方)なのではないでしょうか。組織変革論を学んだことのある方は、これに類する「ジョン・コッターの変革モデル」などを思い浮かべるのではないかと思います。
   
 これに関連して、エドガー・シャインは、かつて「学習不安(Learning Anxiety)」と「生存不安(Survival Anxiety)」という概念を生み出しました。ひとは、「学び直すこと=変わることに対して、不安」をもっている。これが前者の「Learning Anxiety」です。対して「生存不安」とは「このままじゃ、生き残っていけないかも知れない」という不安です。
  
 ひとが強力に変わるときには、端的に言ってしまえば、
  
 学習不安(Learning Anxiety)<生存不安(Survival Anxiety)
  
 の状態にすればいい。
   
 すなわち、危機感を演出することによって「生存不安」をブンブンブブンと煽りまくり、対して、「大丈夫だよー変化すれば、変化できるよー」と学習不安を低下させる。このことが、もっとも強力なやり方です。
    
 しかし、このやり方にも、ひとつだけ「泣き所」があります。
   
 それはね・・・
  
 とりわけ、ポストバブル世代の僕らは、生まれてこの方、物心がついた頃から、「危機感」を煽られまくっていて、今さら「危機感」を煽られても、「だから、どうした?」と、すこし愚鈍になっている
  
 ということです。これは僕らの世代にだけ言えることかも知れません。
   
 だって、僕らのポストバブル世代は、物心ついた頃から、日本は常に「やべー」「終わりだー」と言われていて、生まれてこの方「危機」しか煽られた経験がありません。一度だって「このままで大丈夫、君の将来は右肩上がり」と言われた経験がない(笑)
  
 そんななかで、ひとは、ひと言でいえば
  
 危機感疲れ
  
 している、ということです。「危機感慣れ」といってもいいかもしれない。だから、変わらない。
  
「いつもここから」の懐かしのネタ的にいえば、
  
 危機、危機って、生まれてこの方、ずっと危機じゃねーか、バカヤローコンニャローメ。
 いったい、危機が何個、続けば、本当の危機が来るんだ、バカヤローコンニャローメ。
  
 というフレーズがつい脳裏に思い浮かびます(笑)わからないひとは、下記をご覧ください。
  

 
 パワフルなんだけど、もう飽きたよ。
 これが、この「危機感」アプローチの泣き所かな、と思います。
   
  ▼
  
 3つめの方法「変化した方が得だと思わせて変化させる」とは、2が「危機感の演出」ならば、
  
 「希望の演出」ですね。
  
 すなわち「変わった方が得だ」「変わった方が希望が持てる」として、組織のなかに変革のムードをつくっていく。この考え方を脳裏に浮かべるとき、ついつい思い出す寓話が「北風と太陽」のお話です。 
  
 北風と太陽は、「あるとき、北風さんと太陽さんが力比べをしようということになって、そこに、旅人があらわれるお話」です。北風さんと太陽さんは「旅人の上着」をどちらが脱がせることができるかを競おうとする。
  
 北風さんはピューピューと厳しい風をおくる。しかし、この場合は、旅人は「上着」をしっかりと抑えて、決して、それを脱ごうとはしない。
  
 一方、太陽さんは、サンサンと日光を照りつける。結果として、旅人は、自分から「上着」を脱ぐことになる
  
 というお話です。
  
 人が変化をするときは、必ずしもハードな環境や境遇に追い込まれたときではない。むしろ、ひとは、ハードな環境に晒されると、「旅人が上着をしっかりと抑えて貝のように縮こまったように」自分を守ろうとする。こういう機制のことを「自己防衛ルーチン(Self defensive routine)」といったりします。
  
 むしろ、
  
 ひとは、自ら変わろうと思ったときにしか、変わらない。
  
 という考え方が、3つめの考え方の前提にはあるような気がします。
  
 組織開発でいえば、AI(アプリシエイシィブ・インクアイアリー)とか、その手のポジティブ組織開発といわれる考え方が、この延長上に位置していると思います。
  
  ▼
  
 今日は「現状維持バイアス」にかかった組織をいかに変えるか、というお話をさせていただきました。
 皆さんの組織の現状はいかがですか?
  
 あなたの組織は「危機感疲れ」していませんか?
 あなたの組織には「変化のための希望」はありますか?
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
     
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